[656] ギャスパー・ノエ最新作『Climax』で描かれるドラッグとアルコールの地獄絵図


1996年のある夜、古い寮でダンスのリハーサルに励むダンサーたちが飲んだサングリアにドラッグが混入していた。誰が何のために入れたのかはわからない。それを摂取した21人のダンサーたちは次第に我を忘れトランス状態へと堕ちていく。ある者にとっては楽園だがほとんどにとっては地獄の世界が広がっていく。理性をなくした人間たちがたどり着く場所とは…。

今年度のカンヌ国際映画祭にもインパクトを忘れずに携え参加したギャスパー・ノエの新作『Climax』カンヌの本レースのブルジョワ的な雰囲気を好まないと話す監督はコンペ部門外に設置される監督週間で新作を上映した。


注目はなんといっても独特のダンスシーンの数々だ。

「ダンスは形のある言語であり、表現に富んでいます。私自身も踊るという物理的な感覚が好きです。」監督自身も踊るのが大好きでパリに住んでいた頃はクラブに入り浸っていたと言う。ヴォーギングやワッキングなど聞き慣れないダンススタイルが融合された今作のダンスは独特の魅力を放っている。

「今作でダンサー兼役者として参加してもらった21人はみんな(振付師役のソフィア・ブテラを除いて)演技未経験のストリートダンサーたちです。彼らは18から23歳の若者たちでクランピングやヴォーギング、ワッキングというジャンルのストリートダンス専門のダンサーたちでした。クランプはいま流行り始めていて男性が多い印象があります。ワッキングはクランプへのもっとフェミニンなアプローチですね。YouTubeで見つけたコンゴ出身のスネイクという曲芸師があまりにもすごくて彼をFacebookで探し出し撮影に参加してもらうために渡航を手配しフランスまで来てもらいました。」

昨年末にパリで初めてヴォーギングというダンススタイルのダンスホールに行ったときその場のエネルギーに圧倒され彼らの踊る姿を撮りたいと思ったのがこの作品の始まりだった。
「彼らのダンスを見た後、様々なダンススタイルのミュージックビデオや動画を見始めそこからたったの4ヶ月というスパンで作品を完成させました。」準備に1ヶ月ほどかけ、その後2月中旬にたったの15日間で撮影すべてを終え編集に入った。その瞬間に感じた喜びや感動の衝動でそのまま突っ走って作品をつくってしまったという。

元々はドラッグの摂取によってトリップ状態になった人間の作りたいと思っていたという監督。サム・ペキンパーやスタンリー・キューブリックらが自分の作中の人間たちは皆、人間の脳の三階層のうち本能的な爬虫類脳の部分が一番強いという設定を採用していて監督自身もこの設定を自分の作品で模索している。「この本能的な階層を解放するのがアルコールやドラッグなどであり、それによって生存本能が有利になり生殖につながるセックスや支配という方向へ向かっていきます。本能を制御できなくなるとサイコ的なものの考え方へ偏ります。」

監督自身がカメラを持って踊り狂うダンサーたちの中へと飛び込み撮った映像はダンサーたちへの愛で溢れている、とあるアメリカの批評家が言う。ダンサーたちと連動した動き、ロングショットによって自分もダンサーの一部になったかのような錯覚に圧倒的な臨場感。作中のロングショットは2015年公開の全編ワンショットで話題になった『ヴィクトリア』から影響を受けていると話す。「あの作品を観たときすごい衝撃を受けました。どうやったらあんなにずっとカメラを持って走り回れるんだろうって。これには本当に打ちのめされましたね。2時間20分もあんなことができるなら40分のマスターショットくらい撮れないことないだろうと思いました。」

他にもギャスパー・ノエ監督の作風に影響を与えた監督として彼が挙げるのは「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ピエル・パオロ・パゾリーニ、ルイス・ブニュエル、トッド・ソロンズ、ラース・フォン・トリアー」たちだ。それぞれ独特のスタイルをもっているが共通するのは人間の無意識下にある人間の闇や欲望を映像化していることかもしれない。

アンジェイ・ズラウスキー監督『ポゼッション』(1981) やダリオ・アルジェントの『サスペリア』(1977) 、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(1978) などからは閉じた空間、狂気への道のりなど今作への直接的な影響が大きい。

ダンスシーンが作品の多くを占める中で間に挟まれるダイアローグには踊っている時とはまた違った狂気が展開していく。
「二人の会話のシーンの多くはほとんど即興でつくられたものです。ダンスのリハーサルの合間の休憩など隙間時間があればダンサーたち同士の会話にカメラを回していました。悪口でもいいし、噂話でもいいし、人生について語ってもいい。私が彼らにテーマを投げかけてそれについてただ話すだけということをしてもらいました。だんだんとこのスタイルに慣れてきたところでもっと面白くとかもっと冷酷に振舞ってみてなど少し演技的な要素の提案をしました。それを後から編集して一番いい部分だけを抜き取りました。カメラを30分くらい回していた会話もあったので編集は大変でした。特にこの30分のシーンは最高に面白い会話だったので削るが辛かったです。」

真剣に話しているだが同時に演技が混ざってくることによって現実と幻覚による楽園・地獄の世界の揺らぎを表現することができる非常にスマートな方法だ。また、カメラの前で構えすぎてしまう演技経験のない若者たちにとって一番自然な状態で彼らの魅力を引き出せる方法でもあったのだろう。

前作『LOVE』の後、母親が自分の腕の中で亡くなったという体験を経た監督。人生の見方をひっくり返してしまうような大きな出来事であり、それは彼自身の映画にも少なからず影響を与えている。「母が亡くなった時、そこにいる彼女の中に過去、現在、未来すべてがひとつになっていました。みんな身体がだんだん機能しなくなっていき悪いこともいいことも永遠に続くことはなく、いつか必ず終わりがきます。だから私は今ここ、今この瞬間を生きていきたいと強く思いました。」

「私の映画は生きることの喜びについてです。人生はとても短い。やりたいことをやるしかないでしょう」と話す監督はまだクラブに行くのが楽しみだという。人間の核心へ迫りたいと願う彼がこれから描いていく世界はどこへ向かっていくのだろうか。

参考記事
1. ‘Alcohol Makes You Stupid’: Gaspar Noé Sums Up His New Film ‘Climax’
https://www.vice.com/en_us/article/evkn34/gaspar-noe-climax

2. CANNES 2018: GASPAR NOÉ ON DANCING, TRIPPING, AND PREPARING FOR DEATH.
https://filmschoolrejects.com/gaspar-noe-interview-climax/
3. Gaspar Noé on why his orgiastic Cannes sensation Climax should be shown to kids: ‘It’s very educational’
https://www.telegraph.co.uk/films/0/gasparnoe-orgiastic-cannes-sensation-climax-should-shown-kids/

4. ‘Climax’ Director Gaspar Noe Defends On-Screen Male Nudity, Explains Why He Hated ‘Star Wars’ and Walked Out of ‘Black Panther
https://variety.com/2018/film/news/cannes-gaspar-noe-black-panther-star-wars-male-nudity-1202813502/

5. Gaspar Noé: ‘Six people walked out of Climax? No! I usually have 25%’
https://www.theguardian.com/film/2018/may/22/gaspar-noe-six-people-walked-out-of-climax-no-i-usually-have-25

mugiho
夜の街を彷徨い、月を見上げ、人間観察をしながらたまにそれらについて書いたり撮ったり


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