[654]6月頃の新刊本について


今回のWorld Newsでは6月頃に刊行された、あるいは今後刊行予定の英仏語圏の映画に関わる書物を10冊紹介したい。ちなみに『』は書名でありその後の()は発売日のことである。

まず売り上げとしても知名度としても最も大きなものとしてはデヴィッド・リンチ監督の初の自伝①『Room to Dream』(2018/6/19)だろう。その内容の詳細としてはこちらの記事(#1)などを参考にしていただきたい。また時期を合わせての刊行であろうデヴィッド・リンチ監督による新しい写真集②『David Lynch Nudes』(2018/6/12)も話題となっている。この写真集は10年前の展覧会「The Air Is on Fire」の行われたパリのカルティエ現代美術財団によるもので、100点以上のモノクロないしカラーの女性のヌード写真が収められている(#2)。リンチのファンはどちらも併せて購入すべきだろう。

次に気にかかるのはコロンビア大学出版の③『How Did Lubitsch Do It?』(2018/6/26)である。著者のJoseph McBrideは脚本家など幅広い仕事を行っているアメリカの映画史家で、これまでフォードやウェルズ、キャプラやスピルバーグまで様々なハリウッド作家の伝記的書物を刊行しているほか、『 Into the Nightmare: My Search for the Killers of President John F. Kennedy and Officer J. D. Tippit』といった社会的な書物も著している。そしてルビッチに関する新刊の内容だが、ルビッチは名声のわりにあまり批評的注目を受けていないとの危機感から、彼の全作品を視野に入れつつ個々の作品を分析することで“ルビッチ・タッチ”を解き明かし、どのようにルビッチはロマンスやセックスへのアメリカ人の態度を変化させたのかを示しているとのことである(#3)。

一方個々の作品や監督を離れて、(また6月刊行というくくりからも離れて)より広く映画に関するものも2つ挙げたい。1つ目はラトガース大学出版による④『Global Cinema Networks』(2018/7/18)という論集である。これは21世紀の映画における、進化する美的形式、技術的・産業的状況、ないし社会的インパクトなどのついて論じた文章が集められており、特にデジタル時代特有のグローバルな、あるいは越境的な映画的ネットワークに焦点を当てているとのことである(#4)。そして2つ目はアムステルダム大学出版による⑤『Mysteries of Cinema』(2018/5/28)は、Adrian Martinというオーストラリア人の映画批評家の文章を集めたアンソロジーだが、これまでは彼の文章にアクセスしずらかったらしく、今回が待望の刊行だという。(#5)また彼は主にゴダールなどのDVDに付属するコメンタリーの仕事などもしており、例えばクライテリオン版の『女と男のいる舗道』なども担当している。(#6)

また英語への翻訳本も2つ挙げたい。1つは⑥『The Arts of Cinema』(2018/7/15)である。著者のマルティン・ゼールはドイツ文学や哲学、歴史学を学んだ後ハンブルク大学やフランクフルト大学で教えており、その著書は日本でも法政大学出版から、すでに美学(#7)や倫理学(#8)に関する書物の邦訳が刊行されている。本書の内容としては、他の芸術との比較のうちでその美的特異性を明らかにし、アントニオーニやヒッチコックなどの例を用いて映画のポテンシャルを提示しているのだという。(#9)そして2つ目はフーコーの映画に関する文章を集めた⑦『Foucault at the Movies』(2018/8/21)である。フーコーが映画を論ずるイメージはあまり持ちにくいかもしれないが、本書は264ページもあるとのことで、また今回英語に初めて訳されるような文章も収めているとのことで、新たなフーコーへの、あるいは映画への姿勢が可能になることだろう。(#10)


最後にフランス語の新刊も3冊だけ挙げてみたい。まずはエディンバラ大学にてイタリア文学を教えているDavide Messinaのパゾリーニ論⑧『PASOLINI ET SON CHANT DU SIGNE』(2018/6/1)で、後期パゾリーニに関する論だという。(#11)次はフランスのジャーナリストであり映画批評やクノーに関する著作も残しているDominique Charnayによる⑨『Queneau Dans le Jardin de Bunuel』(2018/6/2)である。レイモン・クノーはフランスの作家であるが、映画界ではルイ・マルによる『地下鉄のザジ』の原作としてよく知られているだろう。そしてクノーは実は、ルイス・ブニュエルの1956年の作品『この庭に死す』の対話の一部分を書いていたらしく、本書はクノーの未刊行の手稿などを手掛かりにそのような知られざるクノーの一面について明かしている。(#12)最後に⑩『Le temps – un éternel recommencement ?』(2018/6/6)という時間に関する論集だが、ここにはベルクソン-ドゥルーズの後を継ぐような映像論を展開してきた、パリ第10大学の准教授エリー・デューリングの名もあり、その内容までは確認できないが興味のある方は是非手に取っていただきたい。(#13)


https://www.amazon.com/Room-Dream-David-Lynch/dp/0399589198/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1530445579&sr=8-1&keywords=room+to+dream
#1
http://indietokyo.com/?p=8436

https://www.amazon.com/David-Lynch-Nudes/dp/2869251394/ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1530445579&sr=8-2&keywords=room+to+dream&dpID=41n%252BZ0I77qL&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch
#2
http://eshop.fondationcartier.com/en/catalogs/4322-david-lynch-nudes.html

https://www.amazon.com/How-Did-Lubitsch-Joseph-McBride/dp/0231186444/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1530446440&sr=1-1&keywords=lubitsch&dpID=41xUDuJ0eIL&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch
#3
https://cup.columbia.edu/book/how-did-lubitsch-do-it/9780231186445

https://www.amazon.com/Global-Cinema-Networks-Media-Matters/dp/0813592720/ref=pd_sbs_14_3?_encoding=UTF8&pd_rd_i=0813592720&pd_rd_r=9PDRTDQPTYDFJJEZQRCH&pd_rd_w=hTnRJ&pd_rd_wg=jJcKV&psc=1&refRID=9PDRTDQPTYDFJJEZQRCH
#4
https://www.rutgersuniversitypress.org/global-cinema-networks/9780813592725

https://www.amazon.com/Mysteries-Cinema-Reflections-1982-2016-Transition/dp/9462986835/ref=pd_sbs_14_1?_encoding=UTF8&pd_rd_i=9462986835&pd_rd_r=HB5CG1BVCBFNH9TQAAZT&pd_rd_w=Zzoqo&pd_rd_wg=OyqCs&psc=1&refRID=HB5CG1BVCBFNH9TQAAZT
#5
http://en.aup.nl/books/9789462986831-mysteries-of-cinema.html
#6
https://www.criterion.com/films/3060-vivre-sa-vie

https://www.amazon.com/Arts-Cinema-Martin-Seel/dp/150172617X/ref=sr_1_3?s=books&ie=UTF8&qid=1530530338&sr=1-3&keywords=the+art+of+cinema
#7
https://www.amazon.co.jp/自然美学-叢書・ウニベルシタス-マルティン-ゼール/dp/4588010026
#8
https://www.amazon.co.jp/幸福の形式に関する試論-倫理学研究-叢書・ウニベルシタス-Martin-Seel/dp/4588010751/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1530530973&sr=1-1&refinements=p_27%3AMartin+Seel
#9
http://www.cornellpress.cornell.edu/book/?GCOI=80140103609190&fa=author&person_id=5753

https://www.amazon.com/Foucault-at-Movies-Patrice-Maniglier/dp/0231167075/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1530531243&sr=1-1&keywords=foucault+cinema
#10
https://cup.columbia.edu/book/foucault-at-the-movies/9780231167079

https://www.amazon.fr/Pasolini-son-chant-signe-Ecriture/dp/2343142270/ref=sr_1_283?s=books&ie=UTF8&qid=1530532502&sr=1-283&keywords=cinema
#11
http://www.editions-harmattan.fr/index.asp?navig=catalogue&obj=livre&no=60000

https://www.amazon.fr/Queneau-Jardin-Bunuel-Charnay-Dominique/dp/2844183565/ref=sr_1_282?s=books&ie=UTF8&qid=1530532502&sr=1-282&keywords=cinema
#12
http://www.lapartcommune.com/recit/produit-queneau-dans-le-jardin-de-bunuel-je-me-suis-bien-emmerde-441-0.html

https://www.amazon.fr/temps-éternel-recommencement-Gabriel-Chardin/dp/2100778730/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1530531654&sr=8-1&keywords=elie+during
#13
https://www.dunod.com/sciences-techniques/temps-un-eternel-recommencement

嵐大樹
World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修4年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。


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