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2014年のカンヌ国際映画祭と言えば、コンペティション部門での、巨匠ジャン・リュック・ゴダールの『さらば、愛の言葉よ』と、カナダ人監督グザヴィエ・ドランの『Mommy/マミー』の二作品の審査員賞同時受賞が記憶に新しい。年齢差58才の二人の映画作家が賞を分け合ったこの象徴的な出来事は、あらゆるメディアの注目を浴びた。若干19歳にして強烈なデビュー作『マイマザー』(09)を世に放ってからというもの、グザヴィエ・ドランは、その溢れんばかりのパワーとカリスマ性で世界のカルチャーシーンを席巻し続けている。来月に迫った、彼の長編5作目となる『Mommy/マミー』の日本公開を前に、いま一度、彼の魅力とバイオグラフィー、そしてハリウッドでの次回作について、いくつかの記事の引用を元にまとめておきたい。

 

ドラン監督は、1989年、カナダのケベック州モントリオールで生まれた。俳優であった父親の影響もあり、幼少期から子役として活躍。愛と家族についての妥協のないメロドラマを描く手腕と、その歯に衣着せぬ率直な発言で、若き天才、アンファン・テリーブル(“恐るべき子ども”)と呼ばれた。2009年のデビュー以降、ほぼ年に一本というペースで作品を作り続け、世界の映画シーンの第一線で活躍している。(*1)

 

‘La Presse’というモントリオールで発行されている新聞のコラムニストPatrick Lagacé は“Nobody’s laughing at Xavier Dolan now”という記事で、こう述べている。(*2)

「グザヴィエ・ドランは若造だ。彼の生き方を見聞きしてきた人々は、時に鼻持ちならないと感じるかもしれないが、彼のような位置に立つ人物は他に居ない。デビュー作でカンヌの扉を叩き、天才と賞賛されたた彼は、やがてそこの常連となった。フランス人はケベック州の人間に対して朗らかで優しいといった印象を持っているが、ドラン監督はまったく違う。数々のフランス語の新聞や雑誌の表紙を、そのロックスターのような不敵な笑みで飾り、思ったことを躊躇いもなく滔々と語る姿には、Québécois(ケベック州の居住者)らしさは見当たらない。
ドラン監督のフランス語圏での活躍ぶりに詳しいLa Presseの文化批評家Marc Cassiviは言う、“彼は恐れを知らない。彼の言葉を聞いていると何かのショーを見ているみたいだ”と。

ケベック州出身監督には、アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した『みなさん、さようなら』(03)のドゥニ・アルカン、オスカー三冠に輝いた『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(14)のジャン=マルク・ヴァレ、『プリズナーズ』(13)や『複製の男』(13)でハリウッドでの評価も高いドゥニ・ヴィルヌーヴなどがいるが、他でもないこのグザヴィエ・ドランが、最初に国外で広く支持されたケベック州出身の監督であることに疑いの余地はない。ある右寄りのケベック出身のコメンテーターが、ドランは、家族間の歪みや性的なアイデンティティーなどのシリアスなテーマを用い、小さな世界の中でのエリート主義に甘んじていると述べているが、それは正反対だ。彼はずっと下流家庭の人々に寄り添いながら彼らの物語を描いている。
映画について知っている人々は、口々にドランのことを天才・奇才と称する。私は映画について何も知らないが、彼のケベック州出身者らしからぬ自分自身の才能に対する遠慮の無さ、彼の考え方、スポットライトを浴びることに喜びを感じる姿には、好感を持たずには居られない。彼は、この地方独特の停滞した空気の中でどこかやるせない思いを抱いた若い世代の姿を具現化しているのかもしれない」(*2)

 

母親と息子の息詰まるような愛憎関係を描き真の母親像を表現し、デビュー作の『マイ・マザー』とも比較される新作『Mommy/マミー』は、1:1という特徴的なスクリーンサイズが採用されており、New York Times のReviewでは、〈その四角に切り取られた狭い画角のケータイ画面ような映像は、壮大で大げさなポケットサイズのオペラのようで、したたかな集中力を必要としながらも、“自撮り世代”のこころの叫びを描き出している。カンヌ国際映画祭でのゴダールとの審査員賞同時受賞は、映画にはまだ十分に驚きと刺激を与える能力が残っていることを証明した。この映画は観客の心を捉えて離さない〉と評された。(*3)

この作品について監督はこのように語っている。

“僕は、たくさんの怒り、不安、悩み、憤りを感じて生きている。”

“エクストリームな登場人物たちは、反逆を意味しているんだ。のけものにされ、誤解されながらも、愛し、共存し、生きる権利のために戦う彼らは、僕自身の亡霊とも言えるかもしれない。”

“子供時代の亡霊さ。特に両親と不仲だったりトラブルがあったわけじゃないけれど、どこかで過去に決着をつける必要があると感じていた。” (*4)

 

そんなドラン監督の次のプロジェクトは、ある映画スターと、それを追うゴシップコラムニストの物語を描く『The Death and Life of John F. Donovan(原題)』で、これが初の英語作品となる。2016年アメリカ公開予定。出演に、ジェシカ・チャスティン、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ。(*4)

ドラン監督は自身の作家としての有り様についてこのように発言している。

“僕は、インディペンデント作家ではない。そんなものは存在しない。そこには、いい映画と悪い映画があるだけだ。僕は、いわゆる小さな作品と同じくらい『マイティ・ソー』が好きなのさ。僕は、どこにでもいる観客と同じで、チープで、ちぐはぐで、つまらなくって馬鹿らしい映画が嫌いなんだ。みんな観客がどんなものを望んでいるのかを躍起になって理解しようとしているけど、僕が思うに、それはすごく単純なことなんじゃないかな。”(*5)

 

カナダのフランス語圏という独特の土地で生まれ育ちながらも、アメリカ的なハングリー精神を持ち、ジャンルにとらわれずにエンターテイメントとしての映画を追い求めてきたグザヴィエ・ドランが、ハリウッドという場所に向かっていったのは、至極自然であるように思える。唯一無二のカリスマティックな魅力を振りまきながら、世界の映画シーンの先頭に立つ彼を、もう無視することは出来ない。

 

(*1) http://www.nytimes.com/2015/01/18/movies/cries-for-help-embraced-by-praise.html?_r=0
(*2) http://www.theglobeandmail.com/globe-debate/nobodys-laughing-at-xavier-dolan-now/article20992162/
(*3) http://www.nytimes.com/2015/01/23/movies/xavier-dolans-mommy-depicts-a-clashing-mother-and-son.html
(*4) http://www.thedailybeast.com/articles/2015/01/22/cannes-wunderkind-xavier-dolan-heads-to-hollywood.html
(*5) http://www.bostonglobe.com/arts/movies/2015/02/02/xavier-dolan-shows-certain-instinct-mother/8VfNwTNsswqqo4h0bEj3kL/story.html

松崎舞華
日本大学芸術学部映画学科2年 。猫も好きだけど犬派、肉も好きだけど魚派、海も好きだけど山派。普通自動車免許(AT限定)所持。得意料理: たらこスパゲッティ。趣味: 住宅情報サイト巡り


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