[611] SWSX グランプリ受賞作品「Thunder rode」


毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンで行われる、映画祭、音楽祭、インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベント、サウス・バイ・サウスウエスト ( South by Southwest、略記:SXSW) 。先鋭的で世界の評価も高いアメリカ最大のインディペンデント映画祭の1つである。今年は2018年は3月9日から3月18日まで行われ、例年にも増して盛り上がりを見せた。今回はその中でも、フィクション部門でグランプリを獲得した映画、 “Thunder Rode” について取り上げたい。

“Thunder rode” は中部アメリカ出身の警察官が、崩壊しつつある結婚生活と仕事でトラブルばかりの日常の中で、幼い娘を育てつつ関係を築いていく様子を描いた作品。
監督・脚本・主演を担当したのはジム・カミングス。本作は、2016年にサンダンス映画祭でグランプリを獲得した彼の監督した短編映画に基づいている。ブルース・スプリングスの名曲 “ Thunder rode” が作中で流れる、たった1テイクで撮られたコメディタッチの12分の短編映画は、たちまち複数の映画制作会社の目にとまった。15万ドルもの資金を得た彼は、そこでまた6つの短編をつくり一躍その名は知られるようになる。短編 “Thunder rode” が自身の原点であり自分のキャリアを築き上げたものと語る彼は、その後資金を集めて長編版をつくることに決める。インタビューで彼は長編について “今まで制作した中で一番素晴らしい出来” と話している。

彼は、ヒューマンドラマやコメディの要素は人と心を通わすために彼の映画に必要不可欠なものだという。しかしその2つの要素を自身の納得のいく形で作品に取り込むことは、容易なことではなかった。大学生の時ボストンのエマーソン大学で映画のプロデューサーをしていた彼だが、当時の作品についてこう語る。

「きっと観客は私の作品を観て、 “あぁ、そういうことか。面白いね”, とは言っただろうけれど、それらは本当に心の底から彼らを笑わせることまでは出来なかったんだ。笑いのシーンだけではなく感情的な場面についてもそうだった。決して観客と心が繋がった気分はしなかった。そしてある日、ピクサーのinside out (邦題;インサイド・ヘッド)を観たんだ。初めから終わりまで、心の奥底から泣いて笑ったよ。そして人間であるとはどういうことかについて考えた。映画の中の色々な場面が、自分の人生の細かい出来事に繋がっているようだった。そして、そんな映画を作りたいと思ったんだ。」

そして作り上げた初の長編監督作品が本作である。この作品の笑いと人間心情の描写の “バランス” をどのように取り入れているかということについては、彼はこう話す。

「本作を制作する上で一番重要視していたことのうちの1つは、観客に作品のジャンルを考えさせないようにすることだった。彼らがこの作品がヒューマンドラマなのかコメディなのかどうか分からないようにしたかった。それは色を使って調整したよ。できるだけ当たり障りのない平坦な色を使った。もし私達が緑のフィルターをかけ過ぎたら、きっとそれはThe Bourne Identity (邦題 ボーン・アイデンティティ、マット・デイモン主演の2002年に公開された映画) のようになり、観客に “これはヒューマンドラマだ” と思わせる可能性があった。逆にもし明るいフィルターをかけすぎたら、まるでジャド・アパトーのコメディのようになっていたかもしれない。その中間の色を使うことで観客を混乱させ、ジャンルを意識させないようにしたかったんだ。」

そんな彼が、映画制作者として一番重要なことだと思っていることは何なのか。

「2015年のSXSWでのマーク・デュプラスのスピーチの言葉をいつも意識しているよ。 “今、この瞬間につくることのできる映画をつくれ。ハリウッドの巨大なグループが一緒に来て助けてくれると思ってはいけない。騎兵隊は待っていても来ない。” これは映画制作者にとって一番重要な言葉だと思う。騎兵隊は来ない。映画を作りたいという大きな願望が生まれたら、まずは誰も自分を助けてくれないことを想像する。そしてそのように考えた瞬間、“オッケー、自分一人でも大丈夫” 、と思うことのできた瞬間、それが何かを作り出す準備が出来たという合図だよ。」

初の長編監督作品ながらにしてSXSWでグランプリを撮った若手監督、ジム・カミングス。彼の今後の作品も楽しみにしていきたい。

2016 年に制作され、今回の長編の元となった短編の”Thunder rode”
https://vimeo.com/174957219

参照記事
https://blog.musicbed.com/articles/imagine-that-nobody-is-going-to-help-you-jim-cummings-on-making-unignorable-films/259
http://www.latimes.com/entertainment/la-et-entertainment-news-updates-2018-thunder-road-and-people-s-republic-of-1521044373-htmlstory.html
http://www.indiewire.com/2017/07/sundance-short-thunder-road-jim-cummings-first-look-media-handmaids-tale-1201853479/amp/
http://deadline.com/2018/03/sxsw-film-festival-jury-awards-thunder-road-by-jim-cummings-wins-1202337591/amp/

樋口典華
映画と旅と本と音楽と絵画が、とにかく好きで好きでたまらない、現在、早稲田実業学校高等部3年生。興味をもったことは、片っ端から試していく性格です。


コメントを残す