[599]ダンカン・ジョーンズの新作『ミュート』に亡き父、デヴィッド・ボウイが与えた影響


 

ダンカン・ジョーンズのファンがNetflixで『Mute/ミュート』を視聴すれば、この作品が監督の亡き父であるデヴィッド・ボウイに捧げられたものだと気付くだろう。これがボウイ死後の監督にとって初めての作品であることを考えれば驚きではないが、ジョーンズは偉大な父親に実にふさわしい形でそれをやってのけたのである。彼はいかにボウイが『ミュート』のテーマとストーリーに影響を与えたかについて、語った。

『Mute/ミュート』の舞台は、近未来のベルリンである。1970年代中頃にボウイがそこに住み、かの有名なハンザ・スタジオでベルリン三部作として知られる”Low”、”Heroes”、”Lodger”を録音していた間、まだ子供だったジョーンズはその街を訪れ、そこが大好きになった。ジョーンズはタイムズ紙にこう語っている。何年にもわたり脚本を書いているうちに、その舞台が「るつぼのような、つまり文化がぶつかりあうような街でなくてはならない」と気付き、すぐにベルリンが思いついた。「僕はベルリンという街をかなりユニークな形で体験することができたんだ。1970年代のベルリンに行ったことがあって、その後数十年にわたって何回もそこを訪れている。」「今年になって、『Mute/ミュート』の本質的な主題を映し出すようなたくさんの物事が頭に浮かんだんだ。それは、外国における移民の文化だ。その街に留まり、入り込もうとする、あるいはそこを去ることを望む、その両方のね。ベルリンはそういったものたちの完璧なメタファーなんだ。」

 

ボウイは『Mute/ミュート』のストーリーの根底的な部分にも影響を与えた。「ストーリーの大部分は親であることということの本質を中心テーマにしている。良い親とは何か?という疑問だ。」

「水中で、自分のつま先が底に着くよりも少し深いところに自分をもっていくように、と父さんが言っていたということもある。まさに僕が『ミュート/Mute』でやったことだ。僕はみんなが思うよりも少し不快で予想外な、よりダークな映画をつくった。つくっていてかなり神経質になったよ。いい意味でね。」

 

ここ2年の間に、ダンカン・ジョーンズは伝説的アーティストである父、デヴィッド・ボウイと、子供時代の乳母であり母のように慕っていたマリオン・スキーンの二人を失った。スキーンが亡くなったとき、彼は『ウォークラフト/Warcraft』のプロモーション中だった。その大規模なスタジオでの奮闘は、完成後に評論家たちによって酷評される前から彼を「打ちのめし、傷つけ」た。そして、制作に16年を要した彼の長編第4作目となるSF映画『ミュート/Mute』の撮影に向け準備している間に、長男が誕生した。

彼の人生における大きな変化が続く中で、湧き上がる感情の渦はジョーンズを敏感にさせ、彼は今までになく個人的な映画をつくることになった。

 

以下は、Vanity Fair誌が行ったインタビューの内容である。

 

『ミュート/Mute』の制作には実に14年もの時間がかかったわけですが、今の時点で、この14年間とはどんなものだったのでしょうか?

―16年ですね。ええ、マイク(ロバート・ジョンソン)と僕が元になる脚本を書いたのは16年前のことです。

 

撮影初日、どんな気持ちでしたか?

―一番初めに撮ったのは、ベルリンのバベルバーグ・スタジオに建てたセットで、レオのアパートのシーンだった。ゲイリー・ショウという素晴らしい撮影技師が、窓の外に見事なライトショーを取り入れたんだ。僕は「まさにこれだ」と思った。それこそが、現実の世界と僕の認識しているベルリンの融合だった。レオと彼のラッダイト的(技術的革新に反対する)な存在と、彼を取り巻くSF的世界との間の奇妙なコントラストだ。これがこの映画全体を要約しているんだ。

 

以前ベルリンでお父さんとともに過ごしたとおっしゃっていましたが、この街の何があなたにこのような影響を与えたのでしょうか?

―僕はその当時とても小さな子供だったけれど、自分たちがどんな場所からも隔絶されたような場所にいると気付いていた。当時そこは、ソヴィエト連邦という大海に浮かぶ西洋文化の孤島だった。世界の残りの部分から完全に切り離されたような感じがした。壁が崩壊して、東ドイツがドイツに再編された後もなお、ベルリンの人々自身はドイツの他の地域から非常に独立していると感じており、常に未来に目を向けているように見える。彼らは絶えず、地平線にあるものに関心を持っていて、だからベルリンはSFのロケーションにぴったりなんだ。

 

この映画の進展に影響を及ぼした人生の出来事―お父さんと乳母の死―これらの出来事は『ミュート/Mute』にどんな影響を与えたのでしょうか?

―それが何であったにせよ、色々な出来事があってこの時期にこの映画をつくることになったのは、良かったと思っている。この映画の制作期間っていうのは、僕が最も感情的に敏感でむき出しになっていた時期だった。『ウォークラフト/Warcraft』の政治的なプロセスが僕を打ちのめし、傷つけた。父さんが亡くなった。この映画を撮るためにベルリンを訪れたとき、僕には生後4か月の息子がいた。映画の撮影の間、僕は世界一の父親になろうと努めていたんだけど、それはまさに『ミュート/Mute』の背後に隠されたもう一つのテーマそのものだったんだ。それは、親であること、それも困難な状況化で、親であろうと努めるということだ。いかに主題と設定がファンタジー的かを考えると、これは驚くほど個人的な映画だといえる。

過ぎ去りし日々にあなたの頭にあった『ミュート/Mute』は、今週末に私たちがNetflixで視聴する『ミュート/Mute』はどの程度同じ作品なのでしょうか?

―僕は、この映画は今つくられたことで、より良いものになったと信じている。僕が初めて脚本を書いてから、別の3本の映画をつくるという経験をしたんだけど、そのことは非常に大きかった。そして僕自身も一人の人間としてずいぶん成長したし、様々なことを経験してきた。

 

『ミュート/Mute』が三部作のうちの2作目になるとおっしゃっていましたが、3作目の制作は計画されているのでしょうか?

―つくりたいと思っている3作目はあるし、めどが立てば、つくるだろう。僕の映画で、以前の映画のストーリーから独立したものはないんだ。実は、最近ある人と話していて言われたことなんだけど、ある意味、僕の映画というのは続編とかサイドストーリーというよりもむしろアンソロジーなんだ。僕はこの「アンソロジー」という言葉を気に入っている。たまたま同じ世界の中で起こる独立した話なんだけど、僕はそれらの間にはつながりがあると思っているんだ。ある世界に自分がなじまないと気付いている人が、その世界の中で自分自身を見出すということなんだ。彼らは世界を自分たちになじませる方法を見つけていく。

 

『ミュート/Mute』は2月23日からNetflixで配信される。

 

 

https://www.netflix.com/jp/title/80119233

 

https://www.vanityfair.com/hollywood/2018/02/duncan-jones-mute-netflix-david-bowie-interview

 

http://www.indiewire.com/2018/02/duncan-jones-dedicates-mute-david-bowie-1201930595/

(さくら)

澤島さくら

京都の田舎で生まれ育ち、東京外大でヒンディー語や政治などを学んでいます。なぜヒンディー語にしたのか、日々自分に問い続けています。あらゆる猫と、スパイスの効いたチャイ、旅行、Youtubeなどが好きです。他にもいろいろ好きなものあります。


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