1982年の映画『ブレードランナー』の世界から30年後を描いた続編『ブレードランナー 2049』の音楽を手掛けたのは、ハンス・ジマーとベンジャミン・ウォルフィッシュである。しかし、先の2人が当初から予定されていたわけではない。
『ブレードランナー2049』は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によって手掛けられている。それゆえに、2013年の『プリズナーズ』、2015年の『ボーダーライン』、2016年の『メッセージ』でヴィルヌーヴ監督の映画音楽を担当してきたヨハン・ヨハンソンが変わらず、その作曲を行うはずであった。しかし、最終的にヨハンソンは、『ブレードランナー2049』の音楽担当から降板するに至ったのである。
2016年の秋頃に、ヨハンソンはまだ『ブレードランナー2049』の音楽を作曲していたが、その時期に彼はインタビューに答えている。

「(2016年)7月から、私は『ブレードランナー2049』のために、あちこちでレコーディングを行っています。ゆっくりとしたペースで、私にはいくつかのシーンが送られてきています。プロジェクトには多くの秘密がありますが、ゆっくりと映画を探っているところです。」

このインタビューから、ヨハンソンは、少なくとも2016年7月という早い段階からすでに音楽を作曲し始めていたことが分かる。

また、ヨハンソンは、1982年の『ブレードランナー』への個人的な思いを語るとともに、続編の音楽を任されたことへの責任について話した。そして、そこからは彼の挑戦することへの意欲を感じることができる。

「『ブレードランナー2049』の製作のとても早い段階です。まだ撮影を行っています。私は素材を送り、まだサウンドを模索しています。ゆっくりと進めています。『ブレードランナー2049』のどの分野の製作期間であれ、本当に早い段階の話になります。しかし、すごく愛されていて有名な映画の続編であるのは明らかです。正直に言って、私にとって、最も好きな映画のひとつです。自分にとって、映画史の中で最も好きな映画の一本なのです。だから、非常に大きな挑戦です。多くのことで責任を感じています。このようなプロジェクトに挑戦することへの大きな責任です。」

さらにヨハンソンが続けた言葉の中では、「続編」であることが強調され、前作のヴァンゲリスの音楽と自身の新たな音楽のバランスを考えていたことが読み取れる。

「『ブレードランナー2049』の世界には音楽が必要です。『ブレードランナー2049』は、前作から30年後の世界です。リメイクではなく、続編です。長い時間が過ぎ、ものごとは変化しています。それらのことは、そのスコアと映画のすべての側面で反映されるだろうと考えています。ヴァンゲリスの音楽が奏でられることによって、その世界の大部分が創り上げられています。『ブレードランナー』におけるヴァンゲリスのスコアは、すべての中で最も好きな映画音楽のひとつです。それは、映画が非常に力強いということへの大きな理由です。そのことは自分がとても意識していることです。しかし、先に述べたように、続編であり、リメイクではないのです。『ブレードランナー』の世界に存在する事柄へと取り組んでいますが、それと同時に新たな事柄へも取り組んでいるのです。」

しかし、映画の公開が近づき、2017年7月下旬に、ヨハンソンに加えて、ハンス・ジマーとベンジャミン・ウォルフィッシュが作曲に参加することが報道された。ヴィルヌーヴ監督の発言によれば、前作のヴァンゲリスによる音楽を続編に溶け込ませる方法を考慮した際に、ヨハンソン単独ではその方法で作曲を行うことが難しいという判断が下されている。ヨハンソンに新たな作曲家の2人が加わることが決定した時点で、すでに音楽に大幅な変更がなされることは明らかであった。

「… 計画として、ヨハン・ヨハンソンはメインテーマを作曲しました。しかし、ヨハンは重大な仕事を任されていたので、ヨハンを手伝うためにベンジャミン・ウォルフィッシュとハンス・ジマーがチームに加わました。前作のヴァンゲリスの音楽に沿うことが難しいためです!ヨハンによる驚くべき独特な雰囲気の音楽がすでにありますが、ほかの方向性の音楽が必要でした。だから、ハンスが我々を手伝ってくれたのです。」

2017年9月の上旬には、ヨハンソンが『ブレードランナー2049』の音楽から完全に降板したことが報じられる。ヨハンソンのエージェントによれば、いかなる状況においても、もはや映画に関わってはおらず、契約のためこの点に関してヨハンソンからの一切のコメントを差し控えるとした。
そして、9月の終わり頃の報道で、ついにヴィルヌーヴ監督はヨハンソンの降板について以下のように詳しく説明をした。

「映画を製作することは実験です。芸術のプロセスなのです。計画通りに行くことはありません。ヨハン・ヨハンソンは、現存する最も好きな作曲家のひとりです。彼は、とても有能なアーティストです。しかし、『ブレードランナー2049』には、違う何かを必要としました。ヴァンゲリスに近い何かへと戻る必要があったのです。ヨハンと私は、別の方向性を探る必要があると判断しました。彼と再び仕事をするチャンスを持ちたいと思っています。彼は本当に素晴らしい作曲家ですから。」

現在でも、ヨハンソン自身からこの降板の件に関して詳しいコメントが出されていないために、不明な点も多い。しかし、少なくとも分かることは、ヴィルヌーヴ監督が前作のヴァンゲリスの音楽の要素を必要としたことである。ヨハンソンが単独で作曲をしていた時点でも、ヨハンソンはヴァンゲリスの音楽をどの程度、どのように扱うのかという点に気を配っていた。そして、ヴァンゲリスの音楽を続編にどのように溶け込ませるのかについては、新たに作曲を任されたハンス・ジマーとベンジャミン・ウォルフィッシュに引き継がれた。つまり、この点に関しては、音楽が作曲されてきた一年間以上の期間にわたって、『ブレードランナー 2049』に携わってきた作曲家や監督によって一貫して考えられてきたことなのである。

ここからは、ウォルフィッシュの言葉を頼りに、新たな続編の音楽がどのように作曲されたのかを探ってみたい。ウォルフィッシュが、クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』(作曲の中心を担当したのは、ジマー)で、エドワード・エルガー作曲による『エニグマ変奏曲』からの「ニムロッド」の明確な引用部分の音楽を担当していたことは記憶に新しい(詳しくは過去の拙文を参照)。これまで、ウォルフィッシュは、ジマーとともに数々の映画音楽を手掛けてきたのである。2013年の『それでも夜は明ける』、2015年の『リトルプリンス 星の王子さまと私』、2016年の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の音楽に関わり、2016年の『ドリーム』では、ハンス・ジマーの右腕として作曲を行った。また、ウォルフィッシュによれば、『ブレードランナー 2049』でも、これまでと同じ方法で作曲を始めたという。

ウォルフィッシュは、ジマーがヴィルヌーヴ監督と編集者のジョー・ウォーカーと話し合いをし、1982年のハリソン・フォード主演の『ブレードランナー』の続編へと音楽が必要であることを知った。彼らはすぐに音楽を探求し始めた。「ハンスは、鍵盤の上に自分の手を置き、数音を演奏しました。そして、すぐさまドゥニとの仕事で相乗効果を発揮しました」とウォルフィッシュは述べた。

ウォルフィッシュも作曲に取り掛かり、提案されたアイデアのもとで12分間の組曲を書いた。「さらに数日以内に、映像から20から25分の音楽を集中して書きました。多くは手が付けられていない部分でした」とウォルフィッシュは付け加えた。

ウォルフィッシュが述べる最大の挑戦とは、「ヴァンゲリスが音楽によって構築した世界の中で、続編のサウンドを創り上げること」であった。ヴァンゲリスは、1982年のオリジナル版『ブレードランナー』の音楽を作曲したが、現在、それはSF映画音楽の歴史の中でも評価が高く、人気を博している。

ヴァンゲリスが作曲した音楽には、全編にわたってシンセサイザーが使われている。「できる限り敬意を表し、そのサウンドを賞賛し、同時に30年後のまったく新しい物語のために、そのサウンドの再構築を考える必要がありました」とウォルフィッシュは説明している。

ジマーは、すぐに保管していたYamaha CS-80を取り出した。その楽器は、ヴァンゲリスが1982年の『ブレードランナー』の音楽の中で、大いに使用した1970年代後半のアナログシンセサイザーである。「Yamaha CS-80で、スコアを始めて終わらせることが重要でした。ヴァンゲリスへと敬意を表したのです。残りのほとんどのスコアは、現在のシンセサイザーを使って創り上げられています」と話した。しかし、そのサウンドの多くは、ヴァンゲリスが使った1970年代と1980年代の楽器によってインスパイアされている。

第2の挑戦とは、「映画の核を見つけ出すことでした」とウォルフィッシュは述べた。映画へと誘い込む前提となるものを考えることは特に困難を極めた。「人間であるとは何なのか?意識とは何なのか?それらの問いに相当する音楽を探し求めました」とウォルフィッシュは話した。

『ブレードランナー2049』には、「魂のテーマ曲(the soul theme)」とウォルフィッシュが呼んでいる音楽が挿入されている。それは4音からなっている。「とてもシンプルなメロディで、映画のオープニングショットで聴くことになる最初の音楽です」とウォルフィッシュは説明した。その音楽は、映画全編にわたって、ライアン・ゴズリングが演じるKが答えを捜し求める際に繰り返される。ほとんどの場合、そのスコアは捉えることが難しい。その点に関してウォルフィッシュは、「シンセサイザーのテクスチュアと音色は、映画のペースに合わせて、とてもゆっくりと展開していきます」と話した。

参考URL:

http://www.vulture.com/2017/10/how-vangelis-cult-blade-runner-score-became-a-classic.html

http://variety.com/2017/film/news/blade-runner-2049-composer-benjamin-wallfisch-score-interview-1202582983/

http://collider.com/blade-runner-2049-composer-replacement-explained-johann-johannsson/#images

https://inews.co.uk/essentials/culture/music/johann-johannsson-blade-runner-arrival-sicario/

http://www.slashfilm.com/johann-johannsson-on-the-challenges-of-scoring-blade-runner-2049/

https://heroichollywood.com/blade-runner-2049-score/

http://www.slashfilm.com/hans-zimmer-joins-blade-runner-2049/

https://www.pressreader.com/france/studio-cin%C3%A9-live/20170628/282007557396521

https://theplaylist.net/hans-zimmer-benjamin-wallfisch-join-johann-johannsson-score-blade-runner-2049-20170730/

https://theplaylist.net/johann-johannsson-reteams-denis-villeneuve-will-score-blade-runner-2-20160824/

http://icelandreview.com/news/2017/09/08/icelandic-film-composer-no-longer-attached-blade-runner-sequel

http://www.visir.is/g/2017170908918/johann-settur-af-vid-gerd-blade-runner-

https://english.alarabiya.net/en/life-style/2017/09/28/EXCUSIVE-Villeneuve-reveals-why-he-wanted-David-Bowie-in-Blade-Runner-2049.html

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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