[523] ロバート・パティンソン、新作『グッド・タイム』と映画愛を語る


8月11日から、ジョシュア&ベニー・サフディ監督の劇場長編第3作『グッド・タイム』[*1]がアメリカで封切られています(日本では11月3日に公開)。2014年の東京国際映画祭でグランプリ&最優秀監督賞を獲得した『神様なんかくそくらえ』に次いでサフディ兄弟が取り組んだのは、自分たちが生まれ育ったニューヨークのクイーンズを舞台にしたある兄弟の物語。貧しい暮らしを送るコニー(ロバート・パティンソン)とニック(ベニー・サフディ)の兄弟はある日銀行強盗を行うも失敗、弟のニックが警察に捕まってしまいます。精神障害を持つ弟を心配するコニーは何とか保釈金を用意しようとしますがうまくいかず、ニックが刑務所で暴れて病院に搬送されたことを知ると、そこから彼を連れ出そうと画策。コニーのその無謀な行動が新たな事件を誘発してしまう――という粗筋です。
本作が今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された際には、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(ダニエル・ロパティン)が手掛けた音楽(エンディングテーマを歌うのはイギー・ポップ!)がサウンドトラック賞を受賞しました。さらに男優賞の受賞こそならなかったものの、主人公コニーを演じるロバート・パティンソンが大きな称賛を集め、先に出演したジェームズ・グレイ監督の『ロスト・シティ・オブ・Z』と本作の演技によって「2017年はロバート・パティンソンが批評家たちの最愛の俳優になった年として記憶されるかもしれない」[*2]との声まで上がっています。

サフディ兄弟はこれまで非職業俳優を中心に起用し、人通りの多い都市の中も無許可でカメラを回して撮影するという手法をとってきました。『神様なんかくそくらえ』もジョシュアが地下鉄で見かけたアリエル・ホームズに声をかけたことをきっかけに、ホームレスだった彼女の実体験を元に脚本を書き、さらに彼女をそのまま主演に据えて作られた作品でした。『グッド・タイム』も再びクイーンズやマンハッタンでゲリラ撮影を行って撮られた映画ですが、ジョシュア・サフディいわく「人々がドキュメンタリーを見るときそこで起きる出来事にスリルを覚えるのはそれが現実に起こっているからだ。僕らはそうしたスリルを持った作品を映画スターを使ったうえで作ってみたかった」[*3]とのことで、今回はパティンソンやその恋人役にジェニファー・ジェイソン・リーといったいわゆる映画スターを起用しています。『神様なんかくそくらえ』で高い評価を受けたザフディ兄弟の新作ということで出演を望む俳優は大勢いたものの、ザフディ兄弟の独特のアプローチに喜んで身を捧げてくれそうな俳優はほとんどいなかったといいます。「『是非やりたい、出演したい』って言う俳優はたくさんいたけど、本当にやりたがってるように思えなかった。でもロバートは違った。彼は心底この映画をやりたがっているように感じたし、コニーが体験する苦境にその身を置きたがっているようだった」[*3]。ベニーはパティンソンを起用した理由をそう説明しています。

パティンソンは監督二人が目指す作品作りに共感し、何よりもまずクイーンズの雑踏の中に溶け込むことを心掛けたようです。
「この映画の撮影中、僕はずっとただの通りすがりの人のように見られたかった。なぜならゲリラスタイルでの撮影だから、通りを歩く人々やパパラッチに映画を撮影していることに気づかれないか心配だったからね。気づかれてしまったら幻想が破壊されてしまう。とにかく自分の存在感を消して、コニーという人物として人混みの中に幽霊のように存在しようと努めた。誰も僕だってわからないように(メイクで)顔にニキビ跡をつけたりもしたよ。そのかいあってか、ニューヨークの街頭での撮影中に僕に携帯(カメラ)を向ける人はひとりもいなかったね」[*4] ニキビ跡のほかに髭をたくわえ、背中を丸めて歩くようにするなど外見や所作を変えただけでなく、役柄を掘り下げるために刑務所を訪問し受刑者や刑務官に彼らの体験談を聞いたりもした[*5]というパティンソンは、「この役に挑戦したことで、自分の役者としての能力についてたくさんのことを学べた」[*6]と語ります。
「この作品の言葉、台詞は本当にリアルで独特だ。舞台はニューヨークで、僕はそれまで何度もニューヨークに行ったことがあったけど、僕が知っていたその都市とは全く別世界だった。登場人物も物語も他の作品とは違うオリジナルな何かを持っている。ジョシュとベニーの仕事を見て僕はすぐにそこには自分がやりたい役があり、自分が表現したい活力があることがわかった。特別な体験だったよ」[*6]

『トワイライト』シリーズで注目を浴び、一躍ティーンのアイドルとなったパティンソンにとって、そのイメージから脱却し一人の俳優として成長することは大きな課題でした。そのためか彼はひとつの作品、ひとりのクリエイターとの出会いをとても大切に考えているようです。
「僕にできるのは僕の心を打つ何かがあらわれるまで様々なスクリプトを読み続けることだけだ。信憑性を感じられる話が好きだけど、そういう話を見つけるのは難しい。脚本家が新聞記事を読んで、映画学校で学んだ知識を使って書いたような脚本が多いんだけど、僕はそういうものには興味がない。とにかくそこに心を奪われるような何かがあれば、その登場人物と結びつき、その人生を生きることができると思う」[*6]

そうして出演作を吟味する中で2012年に出会ったのがデヴィッド・クローネンバーグと彼の『コズモポリス』という作品です。同作の出演を機に、彼はクローネンバーグの次作『マップ・トゥ・ザ・スターズ』、デヴィッド・ミショッド監督『奪還者』、ベルナー・ヘルツォーク監督『アラビアの女王』、そしてジェームズ・グレイの『ロスト・シティ・オブ・Z』と名だたる映画作家と次々と仕事をするようになります。
「運がよかったんだと思う。それまで(『コズモポリス』まで)も優秀な監督たちと仕事ができていたけど、彼らは個人的(パーソナル)な作品とより商業的な映画との間を行き来している傾向にあった。近年一緒に仕事をするようになった監督たちが作っているのはほぼ個人的な映画だ。クローネンバーグと『コズモポリス』を撮ってからそういう作品がどこからともなくやってくるようになったんだよね。たとえばデヴィッド・ミショッドのことは、たまたま彼の『アニマル・キングダム』の予告映像を見て知ったんだ。それが目を見張るような予告編でね、彼のことを調べて会うことができた。それがたぶん『奪還者』を撮ることになる1年半前だったかな。僕はハングリー精神が強く、証明すべき才能を持った人たちを見つけて出会うのが好きなんだ。サフディ兄弟もまさにそうだよね。彼らの次回作(『Uncut Gems』)はスコット・ルーディンとマーティン・スコセッシがプロデュースするんだぜ。興奮するよ」[*2]

こうした発言からもわかるように彼はかなりのシネフィルで、今年カンヌ映画祭に出席した際にも時間のある限り映画を観て、特にリン・ラムジーの『You Were Never Really Here』とマイウェンの『モン・ロワ』が気に入ったそう。LAタイムズのインタヴューでは特に影響を受けた映画作家たちについて語っています。
「僕が映画を観るようになったのはこの仕事を始める前からだけど、17歳に始まった俳優としてのキャリア、特にその最初の10年は、自分のDVDコレクションが入れ替わっていくことによって築かれていった部分もあった。(そのコレクションの一例をあげると)ジェームズ・グレイ、クレール・ドゥニにヘルツォーク、そしてジャン=リュック・ゴダールの多くの作品などだね。僕がそのトーンやパフォーマンスから最も影響を受けたのはゴダールの『カルメンという名の女』。ジャンル映画への転換、一種の茶番のように動き始めたものが最も感動的な人間関係と報われない愛を描いた物語へと発展していくこの作品を愛している。本当に突出した作品だよ。クレール・ドゥニの『ホワイト・マテリアル』も彼女の『死んだってへっちゃらさ』と同様に僕にとっては重要な映画だ。ドゥニの作品は全部大好きだよ。レオス・カラックスも同様で、特に『ポンヌフの恋人』が好きだ。こうした映画作家は何かを持っている。その何かは“非凡”という言葉以外で言い表しにくいんだけど、彼らはとにかく独特だ。みんなが大好きな70年代のアメリカ映画やイギリス映画ももちろん好きなんだけど、最近の作品となるとフランスの監督たちが作る映画に惹かれてしまう。フランス映画のほうがもっとオペラ的で、彼らは情緒的、劇的になること恐れていない。そこが好きなんだと思う」[*2]

そしてロバート・パティンソンは現在、大好きな監督して名前を挙げたクレール・ドゥニの最新作『High Life』の撮影に入っています。『High Life』はドゥニにとって初めての英語作品かつSF映画になるようで、主演のパティンソンの他、ジュリエット・ビノシュやミア・ゴスらが出演するとのこと。
「まだ撮影が始まったばかりなんだけど、3年越しでようやく実現した企画なんだ。どんな作品になるかすごく楽しみだよ。いまはすごく野心的なスクリプトだってことしか言えないけどね」[*2]

(C)2017 Hercules Film Investments, SARL

*1
http://www.imdb.com/title/tt4846232/
*2
http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-robert-pattinson-cinephile-20170814-htmlstory.html
*3
http://www.indiewire.com/2017/08/good-time-josh-benny-safdie-robert-pattinson-filmmaker-toolkit-podcast-episode-39-1201865592/
*4
http://variety.com/2017/film/spotlight/robert-pattinson-on-shedding-his-movie-star-looks-for-cannes-drama-good-time-1202444091/
*5
http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-robert-pattinson-good-time-20170811-story.html
*6
http://variety.com/2017/scene/vpage/robert-pattinson-good-time-premiere-1202520744/

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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