『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』で知られるイランの女性映画監督アナ・リリ・アミリプールによる『The Bad Batch』や、マリービー姉妹監督によるキルスティンダンスト主演『Woodshock』など、女性映画製作者たちによる作品が近年注目を集めている。今回のWorld Newsでは、第69回カンヌ国際映画祭での初上映から多くの話題を呼び、フランス映画祭での日本初公開を控えた作品『Raw(英題)』(原題:Grave)を、監督のインタビューをもとに紹介したい。

「カニバリズムはとても興味深いテーマです。なぜならそれは身体の不可避性とともにあるものだから」(ジュリア・デュクルノー監督)*1

— 16歳のジュスティーヌはベジタリアンの獣医一家に育ち、姉も通う獣医学校に進学する。しかし、恒例の「新入生いじめ」で、上級生から生肉を食べることを強要され、人生で初めて肉を口にすることに。これを機にジュスティーヌの本性が露わになり、彼女は次第に変貌を遂げていく。そして猟奇的な事件が次々に起こる…。
フランス映画祭公式HP(http://unifrance.jp/festival/2017/films/grave)より

身体に強い興味があるというジュリア・デュクルノー監督。過去の作品のひとつであり、2011年カンヌ国際映画祭批評家週間でも上映された短編映画『Junior』にもそれは表れている。今作品においても重要な「身体」というキーワードについて、彼女は以下のように語っている。

身体的ホラーをテーマとした理由について
– 通常、若い女性の体をセクシャライズしそれを拝める傾向がありますがそれは私がしたかったこととは逆のことで、私は身体のとるに足らない普遍的なことを撮りたかった。身体的ホラーはいつも、それを表します。それはつまり痛みを感じること、傷を負うことです。*2

– (映画の中に常に明示的に写るわけではない現実性、アイデンティティ、身体、という要素を登場させるためかという質問者の問いに対し、)その通りです。また、最終的には、この映画は「変身」についての問いです。私にとって(成長期における)身体の変形は、自由を表現している。それはダイナミックな現象であり、決定論上では成り立たず、解放そのものであると思います。*3

単に「ホラー映画」では終わらない今作品について
– (俗に言う)ホラー映画は、観客が恐怖を感じそれに震え上がることを望んでいます。この作品がホラー映画であるのは明らかですが、私が作りたかったのは震え上がるような恐怖とは違う、どこからくるとも分からない違和感や不安に近いものでした。*4

– 作品を観ればコメディ的な場面がいくつかあるのは明らかだと思います。ヒッチコックはサスペンスにおけるユーモアの重要性について言及していました。私はホラーの要素のあるものすべてにおいても同等のことが言えると思います。笑いは極めて重要な要素です。*4
この映画は、コメディとドラマ、それに身体的ホラーの交ざった作品です。この3つの手法を均等に使いました。また、全体の作品としての色調を作り上げる時、自我が揺らぎ、精神的且つ身体的にも変化/変身の過程にいる人物描写の中でそれら3つのジャンルとの平衡を保つのは難しかった。*4

ホラーとコメディ、ドラマというジャンルを混ぜた手法が好きだと言う彼女は、韓国の映画監督ナ・ホンジン(『哭声 コクソン』)やポン・ジュノ(『スノーピアサー』)を例に挙げて語る。*5

病的とも言える描写/表現と、クローネンバーグからの影響
– 私が作品中で目指したのはモンスター的な怪奇性の中から美しさを見い出すことです。単なる暴力的な描写は、空虚で無意味なことだと思う。私は、より恐ろしく、同時に美しくもある人間性の提示がしたかった。*4

– デイヴィッド・クローネンバーグは、若いときからずっと影響を受けている映画監督の一人です。彼は、おそらく身体の、憔悴に近いものに対して、生物学的に、と同時に哲学的にも繊細さを持ち合わせています。映画を見る人々に、人間性の現実、つまり人間は死にゆくということを突きつけ、それと同時に身体の美しさの可能性も映し出します。私が彼に惹きつけられるのは、このような点です。*4

仏語で重大さや深刻さを表す原題『Grave』に対する世界共通原題『Raw』について
– 仏語タイトルに込めた意味を英語に翻訳するのは不可能でした。 « Grave »は人間の条件における基本的概念つまり逃げる事のできない現実を表現しています。しかし、Wild Bunchによって選ばれたこの英語タイトルに満足しているのも事実です。 « raw »は「生(の)」を表すと同時により人間性に帰属するタイトルとしての役割も果たしています。 « to be raw »とはつまり « à vif »(むき出しの肉)という意味だから。*3

既に次回作として、女性シリアルキラーについての作品を書き始めているとのこと。フランス映画祭2017での公開は、6月25日(日)。

*1 http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/features/julia-ducournau-raw-a7666871.html
*2 https://www.moviemaker.com/archives/winter-2017/raw-julia-ducournau/
*3 https://www.leblogducinema.com/interviews/interview-julia-ducournau-pour-grave-849574/
*4 https://www.rtbf.be/culture/cinema/detail_l-interview-de-julia-ducournau-pour-grave?id=9556963
*5 http://www.lefigaro.fr/cinema/2017/03/15/03002-20170315ARTFIG00231-julia-ducournau-de-grave-j-ai-regarde-massacre-a-la-tronconneuse-a-6-ans.php

三浦珠青
早稲田大学3年生。現在渡仏中。映画と本とカレーが好きで、パリでタイカレーを作る日々。


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