[491]『スウィート17モンスター』新たな青春映画の古典


422日よりヒューマントラストシネマ渋谷や新宿シネマカリテより順次公開となった「スウィート17モンスター(現代:The Edge of Seventeen)」は問題を抱えた17歳の主人公が成長し、大人への一歩を踏み出すストーリーである。

「素敵な片思い」や「クルーレス」、「スーパーバッド」のようなティーンムービーの傑作では、モラルとウィットを持ち合わせながらも学校社会においてのけ者扱いである主人公が観客を惹きつけるのであるが、この「スウィート17モンスター」においては全く異なる。主人公のネイディーンはまるで問題ばかり抱えたヒロインである。

ただ、主人公が世界を理解する過程が描かれているという点で、それらの傑作と共通していると言える。

この映画が監督第一作となったケリー・フレモン・クレイグは近年のティーンムービーのように見せかけだけの青春の輝きを描くことを避け、ジョン・ヒューズやキャメロン・クロウが描いたような、青春のリアルな痛みを描いた。青春の複雑な混沌と不条理を正面から描いたこの映画は、すでに二人の偉大な監督の作品と比較されている。

Indiewireの批評家David Ehrlichはこの映画を「現代の学園映画の古典である」とまで述べた。彼曰く、ジョン・グリーン原作の何本かの映画や、「ジュノ」や「パロアルト・ストーリー」といったインディー映画を別として、近年、アメリカで広く受け入れられるティーンムービーの傾向は、出来事の最もドラマティックな部分を切り取ったストーリーであったが、「スウィート17モンスター」はそうした状況における救世主のような映画だと彼は語る。

彼は本作と80年代の学園映画「初体験/リッジモント・ハイ」を比較し、どちらの映画にも生き生きとしたティーン像が描きかれていることを指摘した。

ヒューズとクロウがお気に入りの監督だというクレイグは次のように語る。「ジョン・ヒューズとキャメロン・クロウの作品がすごいのは、リアルで普遍的なものを映画で描いたことです。彼らは青春がいかに複雑で混沌として、そして不条理であるかということに敬意を払っていました」 

アメリカ太平洋側、北西部に住むネイディーンは17歳でありながらすでに多くの不幸を経験している。彼女の回想は学校についたネイディーンが車を降りるのを拒む場面から始まる。7歳にしてすでに彼女は母親と険悪な中にあり、父親になだめられて車を降りる。しかし、その唯一の理解者であった父親は13歳の時に死んでしまう。

17歳になった今も彼女は父親の死を乗り越えていない。それどころか、過保護の母親に対する不満、周囲へのジェラシー、他人とうまくやることができない性格といった多くを抱えている。

彼女が抱えるもっとも大きな問題は、運動部のスターで学校で最も人気のある兄のダリアンのことである。彼女は自分がダリアンの陰にいることに我慢ができず、兄を敵視している。それにもかかわらず、ネイディーンの親友クリスタがダリアンと付き合い始めたことで彼女の不幸は最高潮に達する。

親友と兄の交際はポジティブにとらえることもできる出来事なのに、彼女は受け入れられない。ネイディーンはクリスタにダリアンか自分のどちらかを選ぶように迫り、クリスタがダリアンを選んだことで頼るべき存在をうしなってしまう。

そんな彼女の相談相手となるのが、ウディ・ハレルソン演じる教師である。歴史を教える高校教師のブルナーに彼女はその年収や禿げ上がった頭をからかうが、彼はそれを皮肉で返し、二人のやり取りはブラックユーモアに満ちたものになっている。

 彼女の問題の根底にあるのは、自分以外の誰もが自分よりいい人生を送っているという思い込みである。クレイグは、脚本を書く際、そうした思い込みに焦点を当てることにしたそうだ。「ソーシャルメディアが発達した現代では、自分の人生の様々な点と比べて、他の人の人生がロマンティックなものと思い込むことは簡単なことです」と語るクレイグは、17歳がどういった年齢なのか、そして17歳であるということがどのような気分なのかを理解しようと試みたそうだ。青春時代とは古い自分を脱ぎ捨て、新しい自分になる時期だとクレイグは言う。「私たちの誰も経験するように、大人になるためには自分自身を再発見しなくてはならないのです」

この映画はまた。プロデューサーにジェームズ・L・ブルックスがついたことでも注目を集めた。

クレイグ自身「彼の映画が映画を作ることのきっかけとなった」と話すように、「ザ・シンプソンズ」や「ザ・エージェント」をてがけたブルックスは尊敬する脚本家、映画監督であったようだ。初稿の脚本を書いた後、クレイグは脚本をブルックスに送ることを決め、脚本を読んだ彼はクレイグと共に働くことにしたという。

最初にブルックはクレイグに「映画作りで最も重要なのは、物語の中における人生がどのようなものかを決めることだ」と言ったそうだ。

そんなブルックとの仕事で、クレイグはたくさんの刺激を受けた。彼はクレイグに「映画のディティールを詰めるためにたくさんのティーンエージャーにインタビューする」というジャーナリスティックな手法を用いることを提案し、それを実行に移したクレイグは半年もの間取材を続けたという。若者から聞いたたくさんの経験談を脚本に盛り込んでいき、第二版の脚本を書くのにさらにもう6カ月を費やした。

そうした努力の結果、この映画を観た人は、自分の青春時代とネイディーンを重ね合わせて親近感を感じることができる。誰もが経験するように、主人公は段々と大人になりゆく時間を生きているのだ。さらに、どの登場人物もリアルではっきりとした性格を持ち、よくあるタイプでとらえることができないのも取材のたまものである。 

そうしたリアリティは最近の多くのティーンコメディーにかけているものだが、クレイグはそのような単純な脚本は作らなかった。その姿勢は主人公ネイディーンの役柄にも表れている。

辛辣な言葉を他人に浴びせ、素晴らしいユーモアで周囲を楽しませる一方で、彼女は成長するという痛みと戦っている。彼女は発展途上で、早熟と未熟が入り混じったリアルなティーンの姿である。

クレイグは次のように語る。

「我々はみな心に傷を抱えています。そして、それらを別なもので隠そうとします。ネイディーンがどれだけ悪態をついても我々が彼女を許し、彼女の味方になってしまうのはそういったことがあるからです。私たちは彼女が良い性格であることを知っているのです」

 

そんなリアルで複雑なネイディーンのキャスティングは難航したという。

言葉巧みに悪態を吐きながらも、それでいて憎めないネイディーンの役柄を演じることができる役者が中々見つからなかったのだ。

1年間にわたってオーディションで1000人以上の女の子を試しても、ネイディーンを演じられる役者は出てこなかったという。

「私は『自分が誰にも演じることができない脚本を書いてしまった』と思いました。それでも、誰もが簡単に好きになってしまうようなありがちなキャラクターを作りたくなかった」

 

ヘイリー・スタインフェルドがネイディーン役として現れた時、まるで奇跡が起きたかのようだったとクレイグは言う。

「ヘイリーはネイディーンを演じるにあたって、コメディーにも合わせることができたし、観客の心をつかむ繊細な役柄もうまくこなしました。どちらもこなすということは彼女にしかできないことでした。ほんの小さな差異によって、笑える演技と心打つ演技を使い分けることができました。私は彼女の才能、努力なしにスムーズに演技していることに感動しました。足を組んでも腕を組んでも何をしても、彼女はネイディーンなのでした」

 

初監督作にして、クレイグは素晴らしい作品を作ったと言える。

彼女はウィットにとんだ素晴らしい映画を通じて、我々に自分自身と付き合う方法を提示している。そのことがこの映画が単なる学園映画ではないことを示している。

「スウィート17モンスター」は彼女がティーンのころ見ていたヒューズ作品のようなティーンムービーの傑作に仲間入りしたように見える。

クレイグは言う。「ジョン・ヒューズに寄せて作品を作ったわけではないけれど、この「スウィート17モンスター」が彼の作品と並んで語れるのならそれはうれしいことです」

 

 

参考URL:

 

http://www.indiewire.com/2016/09/the-edge-of-seventeen-kelly-fremon-craig-tiff-2016-1201727552/

 

http://www.indiewire.com/2016/09/the-edge-of-seventeen-review-tiff-2016-hailee-steinfeld-1201727771/

 

http://www.indiewire.com/2016/09/the-edge-of-seventee-review-roundup-hailee-steinfeld-woody-harrelson-film-1201727857/

 

 

http://variety.com/2016/film/reviews/the-edge-of-seventeen-review-toronto-film-festival-hailee-steinfeld-1201862910/

 

http://www.indiewire.com/2016/11/hailee-steinfeld-edge-of-seventeen-interview-consider-this-1201749050/

 

http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/reviews/film-reviews-round-up-moana-bleed-for-this-chi-raq-edge-of-seventeen-a7447486.html

 

http://lrmonline.com/news/the-lrm-interview-with-the-edge-of-seventeens-kelly-fremon-craig

 

http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/features/hailee-steinfeld-the-edge-of-seventeen-interview-woody-harrelson-true-grit-the-coen-brothers-oscar-a7446306.html

 

 

(本文)

石黒優希

96年京都生まれ映画育ち。字面で女の子と間違われることが多いですが男です。そして、大阪大学でロシア語を専攻してますが、ロシア映画は詳しくありません。(これから観ます)影響を受けた映画は「アメリ」「めぐりあう時間たち」「桐島、部活~~」の3つです。


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