[465]華麗なるメタモルフォーゼか本領発揮か、ベテラン監督の貪欲すぎる新作ラッシュ


四十余年の間に撮った映画は6本(監督作のみ)。寡作監督の代表格として知られていた巨匠テレンス・マリック氏に、一体何が起こったのだろうか? 2015年の『聖杯たちの騎士(“Knight of Cups”)』を皮切りに、2016年にはドキュメンタリー映画『ヴォヤージュ・オブ・タイム(“Voyage of Time”)』を発表。加えて、2017年も明けたばかりだというのに、3月に開催されるSXSW(#1)にて新作の“Song to Song”が公開される。その間にも監督作以外に製作として5本の作品にかかわるなど、寡作一転、量産体制に入ったかのような八面六臂の活躍ぶりである。

“Song to Song”は、ゴールデングローブ賞史上最多の7部門を受賞した『ラ・ラ・ランド』主演のライアン・ゴズリングをはじめ、マイケル・ファースベンダー、ルーニー・マーラといった若手実力派、『聖杯たちの騎士』からのクリスチャン・ベイルとナタリー・ポートマン、そしてケイト・ブランシェットといった豪華顔ぶれの並ぶ作品だ。この魅力的な役者たちを使って、マリック監督は何を描いたのか。インタビューにはまず応じず、アカデミー賞の授賞式のような場にさえ姿を現さない。「実は架空の存在なのではないか」という噂すら流れたほど徹底して人前に出ない監督の口から作品について語られることは、皆無に等しい。

わずかに漏れ伝わってきているのは、昨年10月、米国テキサス州オースティンで開かれたThe Austin City Limits festivalというロックフェスで撮影が行われたということである。作品は、オースティンを舞台に、ロック界での成功を熱望する二組のカップル、スランプ中の作詞作曲家夫妻(R・マーラ&R・ゴズリング)、大御所と彼が引っかけた元ウエイトレス(M・ファスベンダー&N・ポートマン)が繰り広げる誘惑と裏切りに満ちた愛憎劇の模様だ。(#2)

劇中には多数のミュージシャンが出演しているとの情報もある。パティ・スミス、リッキー・リー、 ブラック・リップス、イギー・ポップ、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、そしてレッド・ホット・チリ・ペッパーズ!ソウル、サイケ、ロックとそろった随分と賑々しい面々に驚かされる。(#3)
 
マリック監督作品といえば、『シン・レッド・ライン』しかり『ツリー・オブ・ライフ』しかり、繊細な音楽で表した登場人物たちの心の機微を美しい映像で包み込み、独自の詩的空間へ観る者を引きずり込むような作風が思い起こされる。それを今度はロックンロールでやろうというのが“Song to Song”、そう、これはマリック監督が放つマリック流のロック映画だ。

マリック監督がテキサスはオースティンを舞台にしたことも、ロックを描いたことも、実は驚くに当たらない。監督自身、オースティンで育ったテキサス男で、現在もそこに住んでいると考えられているからである。オースティンは知る人ぞ知る音楽の街。ジャニス・ジョプリン、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、クリストファー・クロスなど、世界的にも有名な音楽家をたくさん輩出してきた。まちなかにはレコードショップが並び、夜な夜なバーやラウンジでミュージシャンたちがライブを繰り広げる(#4)。そうした中でロックの薫陶を受けてきたマリック監督がロック映画をつくったのは、ごく自然なことである。

2018年もマリック監督の快進撃は続く。すでに制作が発表されている“Radegund”は、第二次大戦中に良心的徴兵拒否をしてナチスに処刑されたオーストリアの若き農夫Franz Jäger stätterの生涯を描いた作品(#5)。マリック監督にとっては『シン・レッド・ライン』以来の戦争映画となる。タイトルの「ラデグンデ」は聖女の名前。5世紀のフランク王クロタール1世に娶られるも、兄を殺したこの王にはその身に一指として触れさせず、離婚した後はすぐれた修道女を多数育てたポアティエの女子修道院を創設した女性だ。名を馳せても驕り高ぶることなく、高潔と清貧を一生貫き通した一方で、自らに血を流し肉を焼く拷問的な修行を課したことでも知られている(#6)。

その壮絶な生涯を農夫に重ね、マリック監督は私たちに何を見せてくれるのか。冬眠から目覚めたかのような巨匠の旺盛な活動が一時の現象でないことを祈りつつ、メディアに向けて語る監督の姿を拝める日が来ることも切に願っている。

(参考)
#1
https://www.sxsw.com/
#2
http://www.indiewire.com/2017/01/song-to-song-photo-terrence-malick-release-date-1201760632/
#3
http://www.vulture.com/2017/01/sxsw-2017-terrence-malick-judd-apatow.html
#4
http://www.austintexas.org/visit/music-scene/
#5
https://thefilmstage.com/news/terrence-malick-announces-next-film-radegund-based-on-the-life-of-franz-jagerstatter/
#6
http://ci.nii.ac.jp/els/110009576431.pdf?id=ART0010027795&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1486498256&cp=

(画像)
Broad Green Pictures
CBS NEWS

(本文)

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。


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