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J・K・ローリング原作による映画『ハリー・ポッター』の1つのシリーズが完結してから約5年という月日が過ぎ、新たにスピンオフとして公開されたのが『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』である。この作品は、ホグワーツ魔法魔術学校の指定教科書『幻の動物とその生息地』の編纂者(実際には、J・K・ローリングが執筆し、2001年に発表した)とされる主人公ニュート・スキャマンダーが、ニューヨークで彼の所有する魔法動物たちをトランクから脱走させてしまい、そのことをきっかけとして彼はアメリカ合衆国魔法議会(MACUSA)から追われる身となってしまう。
過去の『ハリー・ポッター』シリーズでは、作曲家として、ジョン・ウィリアムズに始まり、パトリック・ドイル、ニコラス・フーパー、アレクサンドル・デスプラが名を連ねていた。そして、今回の新シリーズで抜擢されたのは、ジェームズ・ニュートン・ハワードである。今作では、様々な新たな人物や魔法動物が登場することが1つの特色といえる。その中で、ジェームズ・ニュートン・ハワードは、原作者であるJ・K・ローリングと、監督を務めたデヴィッド・イェーツが伝えようとした物語と観客を繋ぐ役割を果たすことを目指した。

「テーマ曲を与えた2人または3人の人間のキャラクターがいます。しかし、さらに重要なこととは、数々の獣や驚くべき生物を、音や音楽で関連付ける必要があったということです。人間ではなく、その手法を獣や生物に適用することは、挑戦でした。それは(人間と獣や生物では)異なることなのです。それは、最も(魔法動物が)逃げ出すシーンに表れます。最も時間と労力を費やしたところなのです。」

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拡大を続けている『ハリー・ポッター』の世界における新たな音楽は、ジェームズ・ニュートン・ハワードの手に託されたが、彼は少しも思いとどまることもなく、取り乱すこともなかった。
それとは対照的に、彼は喜びと感謝の気持ちを、プロジェクトと関わったすべての人々に表した。しかしながら、それは、彼にとって困難ではなかったということではない。ジェームズ・ニュートン・ハワードによれば、困難であったこととは、すでに存在する世界と、新たな物語の両方からスコアを作り上げなければならないことであった。

「完全にでなくとも、最初に新たな物語として音楽にアプローチをしました。登場する新たなテーマ曲の観点からいえば、ワーナー・ブラザースのロゴにジョン・ウィリアムズのテーマ曲が流れるのが分かるでしょう。皆にとって、お馴染みのロゴへの約6秒間の音楽です。挑戦とは、既存の音楽を残すことであったように思います。自分にとって、最も大きなことは、新たなキャラクターに記憶に残るテーマ曲を書くことであったのです。究極的に、皆が、『ハリー・ポッター』の映画と同様に、(記憶に残るテーマ曲によって、)『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を結び付けられるようにするためです。それは、恐らく、最も大きなことでした。『ハリー・ポッター』のように、このスコアは、オーケストラを前提として、電子音楽を合わせています。どんな映画にも、物語を伝えるということに挑戦が待っているのです。」

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人間と魔法動物のキャラクターたちへのテーマ曲とは、どのように作り上げられていったのであろうか。例えば、有袋動物の姿をし、窃盗癖のある魔法動物のニフラーが、ニュート・スキャマンダーのケースから脱走するシーンである。このシーンでは、二フラーが銀行の中で解き放たれて、ニュート・スキャマンダーは、彼を捕らえようとする。その音楽は、ニフラーの特徴に合わせて、繊細で小さく表現される。

「二フラー(のテーマ曲)は、正直にいって、本当に困難でした。7ヶ月にわたって、43バージョンもの二フラーの音楽を書きました。時折、その音楽を書くのには時間がかかりました。最終的に、二フラーは、大きな課題でしたが、彼を本当に気に入っています。彼はとても可愛いと思います。ついに、音楽を書き上げましたが、それは、本当に、魅惑、少しばかりの緊張感、喜劇性のバランスを保っていました。どれかに寄り過ぎていて欲しくはなかったのです。キャラクターの観点からの動作やユーモア、速度のようなものの間にある行動のバランスをとっているのです。」

その音楽は、自分の頭よりも大きなコインを持ち逃げするニフラーにとっての動作のバランスを保っている。レコーディングの際に、スクリーン上で、彼はすばやく走り去るが、そこで、ジェームズ・ニュートン・ハワードは、オーケストラに対して、「もっと小さく」するようにと指示を出した。

「(レコーディングセッションの)部屋には97人の音楽家たちがいますので、その音楽はとても重厚になる可能性があります。二フラーは、とても小さいのです。だから、音楽家が二フラーの大きさであるかのように、オーケストラに演奏してもらいたいのです。彼らは、巧みに応えてくれます。フェラーリを運転するかのようです。大きく曲がるのであれば、彼らは急激に曲がり、アクセルから足を離すのであれば、彼らは急激に減速します。だから、彼らは密接で、小さいレベルにまでものごとを下げることができます。このように、このシークエンスの小ささを達成しているのです。時折、その音楽をさらに小さくするセクションために、弦楽器の奏者を半分にします。」

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ジェームズ・ニュートン・ハワードがこの映画のためのスコアに取り組み始めた際に、彼が行った最も重要なことの1つは、自分のピアノに座り、メインキャラクターのためのテーマ曲を綿密に計画することであった。

「私の頭には、ニュートの2つの主要なテーマ曲があります。彼は、いささかチャーリー・チャップリンのようで、注意が散漫で、どじな教授です。個性には、温かみや優しさがあります。それから、勇敢に振舞わなければならない状況に陥ります。彼には、「英雄としてのニュート(“Newt as a Hero”)」と呼んでいるテーマ曲があります。それは、大々的で、力強い英雄のテーマ曲です。ニュートをインディ・ジョーンズとして、または他の英雄のキャラクターとして考えています。なぜなら、どじな教授から天才的なアクションの英雄に変わるのを見るからです。
彼は、魔法動物を巧みに扱うことができます。自分の世界をよく理解し、深く魔法動物と繋がっているのです。そのために彼に敬服するのです。彼は素晴らしきキャラクターです。彼には、多くの顔があります。私は、音楽の中にそのことを表現しなければなりませんでした。」

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ニュート・スキャマンダーだけではなく、ジェイコブ・コワルスキーについてもテーマ曲が存在する。また、テーマ曲が存在する魔法動物は、ニフラーだけではない。

「ジェイコブには、楽しい小さな曲があります。気だるく、ブルース調で、1920年代の半分ジャズのような楽曲です。そのサウンドは、とても良いのです。もちろん、映画の中にはテーマ曲を持った他のキャラクターたちも存在します。エルンペントには、とても楽しいテーマ曲があり、デミガイズには、面白い音楽があります。彼らには、映画において日向となる少しばかりのシーンがあります。彼らに少しばかりの特徴を与え、音楽のアイデンティティで示すことは重要であると考えています。」

脅威を与えるテーマ曲を持った生物も存在する。暗く、不吉なシーン、戦い、逃げ惑い、静かな瞬間へと移行する。ジェームズ・ニュートン・ハワードは、それらすべてを音楽で表現する。

「J・K・ローリングの物語において、期待することの1つは、多くの高揚感とアクションです。だから、基本的な考えとは、優れたアクションのシークエンスの音楽を書くことなのです。私は、とてもとても真剣にそこにアプローチしました。人間ドラマの音楽を書くかのようにその音楽を書きましたが、しかし、そこに際立ったサウンドを与えようとしました。なぜなら、その音楽は神秘的であるからに他なりません。」

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ジェームズ・ニュートン・ハワードが『ハリー・ポッター』の映画に関わるのが始めてであるのに対し、デヴィッド・イェーツは、過去に『ハリー・ポッター』シリーズの映画を4度も監督したことがある。それゆえに、彼はJ・K・ローリングの創り上げてきた世界観を深く理解し、どのようにシリーズの断片を繋いでいくべきかという判断にも長けているといえる。『ハリー・ポッター』シリーズおいて、彼は、2007年の『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』から始まる最後の4作品を監督した。
ジェームズ・ニュートン・ハワードは、彼との仕事についても語っている。

「彼とは、とても早期の段階で会い、撮影が終わってから音楽を書き始めました。彼は、多くの異なるスコアを必要としていたと考えています。可笑しくて、魅惑的で、ロマンティックで、怖ろしくて、神秘的な要素をすべて含んだ音楽です。新たな要素だけでなく、同様の表現形式も望みました。それは、大変なことでした。それは大きく、複雑で、多次元的なチェスゲームであったのです。そして、私たちは、共に、磨き上げ、書き直すことに最も多くの時間を費やしたのです。」

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ジェームズ・ニュートン・ハワードは、このプロジェクトやその変わった起源に疑問を抱くことはまったくないと主張すると同時に、物語の間に生命を吹込み、活力を与え続けながら、『ハリー・ポッター』のシリーズに取り組むことが大切であると述べる。もちろん、決して簡単なことではない。しかし、彼は、デヴィッド・イェーツとJ・K・ローリングを始めとする製作チームが持つ自信を言葉によって表している。

「彼(デヴィッド・イェーツ)は、とてもとても素晴らしいのです。彼は物語の本質を伝えることができるのです。彼は常に驚くほどに教訓的で、熱心なのです。彼とJ・K・ローリングは、とても深く関わってくれました。だから、興奮しました。私たちは楽しんだのです。」

ジェームズ・ニュートン・ハワードは、自身の仕事を、自分の生涯の仕事へ多くの感謝を表してくれる人によってもたらされる博識と教訓への敬愛とみなしている。彼は、音楽を「捉えどころのないもの」と呼んでいる。彼はそれから以下のように付け加える。

「すべての映画には、具体的で、それと分かるトーンがあります。それは、発見させてくれるだけでなく、難しい挑戦を強いるのです。音楽は、映画の構造に存在するトーンを明らかにしてくれるのです。時折、それはとても明白に理解することができ、時折、それは明白には理解できないのです。」

ジェームズ・ニュートン・ハワードは、デヴィッド・イェーツ監督から、すでに2018年公開予定の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の続編における音楽の依頼を受けている。

こちらの動画では、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』におけるいくつかの音楽が紹介されています。

参考URL:

https://www.pottermore.com/news/interview-with-fantastic-beasts-composer-james-newton-howard

http://www.forbes.com/sites/hughmcintyre/2016/11/17/james-newton-howard-talks-scoring-fantastic-beasts-and-entering-the-wizarding-world/#981336d26f7d

http://www.forbes.com/sites/hughmcintyre/2016/11/17/james-newton-howard-talks-scoring-fantastic-beasts-and-entering-the-wizarding-world/2/#1b51cb3a165b

http://www.popmatters.com/feature/lets-get-the-good-stuff-out-an-interview-with-james-newton-howard/

http://variety.com/2016/film/spotlight/fantastic-beasts-bfg-john-williams-1201930763/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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