IMDbの略称で知られる映画のデータベースサイト「インターネット・ムービー・データベース」[*1]。Indie Tokyoの読者の皆さんなら、きっと誰もが一度と言わず使用したことがあるだろうこのサイトですが、そもそも誰が運営していて、いつ開設されたのかを知らない人は意外に多いのでは? 白状すると、実は私もその成り立ちを知らないまま日々お世話になっていました…。
現在では月に25億人が閲覧し、その携帯アプリは累計で11.5億回もダウンロードされているというIMDbは、1990年に同社の現CEOでもあるイギリス人男性、コル・ニーダム氏個人の映画データベースをもとに開設されました。もともと趣味で映画データベースを作っていたわけですから、当然ニーダムさんは筋金入りの映画オタク。来年1月の50歳の誕生日までに生涯で鑑賞した映画の数を1万本にすると公言していたそうですが、目標より3ヶ月早い、IMDb設立26周年を迎えた10月17日に1万作品を達成したとのこと。
今回はニーダムさんがIMDbの創成期や自身の生涯の10本として公表した映画について語ったインタヴュー [*2][*3]をご紹介します。

最も古い映画の記憶は5歳の時に観た『白雪姫』だというニーダムさんが、初めてコンピュータを手にしたのは1979年、12歳の時でした。自らコンピュータを組み立て、その技術に興味を覚え始めた直後に、もうひとつ、彼の人生を大きく変えることが起こります。それはビデオの普及でした。
「イギリスでホームビデオ革命が起こったのは1981年です。ビデオショップや図書館、ガソリンスタンドや食料雑貨店などあらゆる場所にVHSテープが置かれるようになりました。これは僕にとって夢のような出来事でした。それまで映画は映画館かテレビでしか観られなかったわけですから。ビデオでよりたくさんの映画を観ることができるようになったことで、“この監督が以前に撮った映画を知りたい”“この俳優が出演している他の映画も観たい”という欲求が強くなり、また実現しやすくなりました。それで映画オタクらしく、日付とともに観た映画を記録するようになったんです。僕は新しい作品を観る度にコンピュータにその記録を入力していきました。ビデオで観た場合はテープを巻き戻して、監督、プロデューサー、脚本家、撮影監督、編集者、主要キャストの名前も記録しました」
こうして自身が観た映画のことをデータベース化し始めたニーダムさんは、インターネット黎明期の1985年にEメールアドレスを取得したのをきっかけに、オンライン上で映画について語り合うグループの一員となります。
「僕は1990年までそのグループに入っていたんですが、その中で頻繁に交わされた質問のひとつが“この人が関わっている映画はどれか?”というものでした。僕らはそのグループの情熱的な人たちの関心を、たくさんの引用・コメント、トリビア、サウンドトラックのリストとして蓄積していきました。するとある時、そのグループの誰かが“このファイルは凄い。これをデータベース化して検索できるようにできないだろうか”と言いだしたんです。僕は考えました、“僕は自分のデータベースを作る上でちょっとしたソフトウェアを使っている。それを応用すればすべてのデータを公開できるのではないだろうか”と。そして1990年10月17日に、IMDbのソフトウェアの最初のバージョンをオンラインで公開したのです」
とはいっても1990年代初頭はまだインターネット利用者は限られていた時代ですから、IMDbを利用する人も限られており、ニーダムさんを含むスタッフは全員無給で運営に携わっていたといいます。大きな変化が訪れたのはネットユーザーが数百万人に達した1995年でした。
「2週間で突然アクセス数が倍になったんです。そしてその2週間後にはさらに倍になるという状態が続き、私たちのコントロールが及ばない事態になりました。趣味でやるにはあまりにも大変で、どうやって運営していけばよいものか頭を抱えました。世界の様々な場所に輪を広げていた私たちスタッフは、実はこの時まで一度も面と向かって会ったことがなかったんですよ。結局、1996年の1月に法人化して、その年のアカデミー賞に合わせてIMDb.comをスタートさせました。最初のウェブサーバはクレジットカードで買いました。その2週間後に最初の広告契約を結びましたが、サーバにかかった費用は広告収入ですぐに取り返せましたよ。そしてまず私が最初の従業員となり、給料を払えるようになるたびに、それまでボランティアで関わってくれていた株主に連絡して、転職できる人からどんどん雇用していったんです」
その後、1998年にアマゾンの子会社となったIMDb.comは、現在では300人弱の従業員を抱える会社に成長したのです。

現在でも自らIMDbにたくさんのレビューやコメントを投稿し、年間ベスト10や映画祭毎の観たいものリストを作成しているニーダムさんですが、鑑賞1万本達成を記念して「生涯の映画10本」のリストを正式に公開したことでも話題になっています(リスト自体は6年前に作成されたもののようです)。ちなみにそのトップ10は…
1位『めまい』(1958年/アルフレッド・ヒッチコック監督)
2位『インセプション』(2010年/クリストファー・ノーラン監督)
3位『北北西に進路を取れ』(1959年/アルフレッド・ヒッチコック監督)
4位『深夜の告白』(1944年/ビリー・ワイルダー監督)
5位『赤ちゃん教育』(1938年/ハワード・ホークス監督)
6位『エイリアン2』(1986年/ジェームズ・キャメロン監督)
7位『セブン』(1995年/デヴィッド・フィンチャー監督)
8位『パルプ・フィクション』(1994年/クエンティン・タランティーノ監督)
9位『アイズ・ワイド・シャット』(1999年/スタンリー・キューブリック監督)
10位『黒い罠』(1958年/オーソン・ウェルズ監督)
…と、名だたるアメリカ映画で占められています。ニーダムさん本人はこのリストについて、「私が映画というものについて総じてどのように考えているかが表れていると思います。このエントリーは個々の作品それ自体だけではなく、他の作品、たとえば同じ監督によって撮られた他の作品や、同じジャンルの他の作品の代理としての役割も果たしています。例えば『黒い罠』は個人的に一番好きなオーソン・ウェルズの作品ですが、『市民ケーン』の代わりとして選ばれてもいるわけです」と説明しています。
年々観る映画の本数が減り、オールタイムどころか年間のベスト10すら選べなくなってしまっている身としては、ニーダムさんの爪の垢でも煎じて飲みたいところです。

こちらの男性がコル・ニーダムさん

こちらの男性がコル・ニーダムさん

*1
http://www.imdb.com/

*2
http://www.latimes.com/entertainment/movies/moviesnow/la-ca-mn-conversation-col-needham-20161108-story.html

*3
http://www.thewrap.com/imdb-founder-col-needham-reveals-his-top-10-favorite-films-for-first-time-ever-exclusive/

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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