ornithologist ジョアン・ペドロ・ロドリゲス最新作『鳥類学者』O ORNITOLOGOが現在開催中のロカルノ国際映画祭でコンペディション部門に出品され大きな話題となっている。合計3回の公式上映が行われたが満席で入場できない観客が多数出たため、臨時でもう1回追加上映されるほどの人気ぶりだ。The Hollywood ReporterやVariety、Liberation、IndieWire、Filmmaker Magazine、Cineuropaなど各国のメディアでカバー写真含め大きく取り上げられている。

 ポルトガルの映画作家ロドリゲスは、1997年に短編『ハッピー・バースデー!』で商業デビューして以来、この20年間の間に『ファンタズマ』(2000)『オデット』(2005)『男として死ぬ』(2009)『追憶のマカオ』(2012)そして最新作『鳥類学者』という5本の長編しか発表していない。ドキュメンタリーとフィクションの奇妙な混合であり、公私に渡るパートナー、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタとの共同監督作である『追憶のマカオ』を除けばわずか4本だ。

 しかし、それでもロドリゲスの映画は世界中のシネフィルに熱狂的に愛され、常にその新作を待望されている。ロドリゲス自身が一作作る度に「からっぽになってしまう」と述べる寡作家であることは間違いないが、それでも『鳥類学者』が長編フィクション映画としては7年ぶりの新作となった背景には、ポルトガルの経済破綻が大きく影を落としていると言えるだろう。実際、『鳥類学者』はポルトガルだけでは資金調達することが出来ず、フランスをはじめとした国際合作となっている。

1470734461575_0570x0400_1470734468500 『鳥類学者』の制作準備を進める傍ら、ここ数年のロドリゲスは、日本とアメリカでのレトロスペクティブ上映、ル・フレノワ国立現代芸術スタジオとハーバード大学フィルムアーカイブでのアーティスト・イン・レジデンス、そしてソウルとヴィラ・ド・コンデにおけるインスタレーションなど、多方面にわたる活躍を見せてきた。さらに、この後にはフランスのポンピドゥーセンターでインスタレーションおよび回顧上映の開催が予定されている。

 日本でのレトロスペクティブは、わたしたちIndieTokyoの前身DotDashが2013年に開催したもので、それまで一度も日本に紹介されてこなかったロドリゲスの短編も含めた全作品を日本語字幕付きで上映した。さらに、監督と、そしてパートナーであるジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタもポルトガルから来日し、自作についてアテネフランセ文化センターなどで講義を行った。
http://indietokyo.com/?page_id=626
ロドリゲスは、その後2015年にも再来日している。この際にも、再びレトロスペクティブ上映がIndieTokyo主催で開催された。
http://indietokyo.com/?page_id=1556

ornitologo3 『鳥類学者』は、(『スザンヌ』でサラ・フォレスティエが一生を捧げてしまう駄目男役が素晴らしかった)ポール・ハミー演じる主人公が絶滅危惧鳥類の学術的調査のため向かったジャングルで奇妙な出来事に巻き込まれ、やがて歴史も個人のアイデンティティも不分明なまま精神と身体の両面に及ぶファンタスティックな変容を遂げていくという物語だ。ロドリゲスの短編『聖アントニオの朝』で主題として取り上げられたポルトガルの聖人アントニオが再び物語の中心的役割を果たしている。

 ロドリゲス作品が常にそうであるように、『鳥類学者』もまた激烈な感情と官能性、視覚的インパクト、幻想的でクィアな雰囲気の横溢した陶酔的な作品となっているようだ。ある批評家は、それをアピチャッポンがリメイクした『湖の見知らぬ男』と呼び、また別の批評家はミゲル・ゴメスの『アラビアン・ナイト』と比較している。さらに、クィアでエロティックなジョン・フォード映画と呼ぶ者までいる。ヨーロッパ映画だが、意外に深い日本との繋がりを持ち、それは既に公表されたスチールからも明らかである。(この件については、しばらく秘密にしておこうと思う。)

 第69回ロカルノ国際映画祭は、現地時間で8月13日まで開催され、最終日にコンペの各賞が発表される。

http://www.pardolive.ch/pardo/festival-del-film-locarno/home.html
http://www.hollywoodreporter.com/review/ornithologist-o-ornitologo-locarno-review-918214
Locarno: Joao Pedro Rodrigues Talks “The Ornithologist,’ St. Anthony, What Birds See

João Pedro Rodrigues’ ‘The Ornithologist’ Will Blow Your Mind — Locarno Review

Daily | João Pedro Rodrigues’s THE ORNITHOLOGIST


http://www.cineuropa.org/it.aspx?t=interview&l=en&did=314091

Locarno Film Festival 2016: João Pedro Rodrigues on The Ornithologist

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

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