映画配給のあり方を変えるのでは、と言われ大きな話題となっている動画のネット配信。昨年のNetflixの日本上陸をはじめ、HuluやAmazonといった大手配信サービスは大変な注目を集めている。そんなネット配信業界から今度は東アジアの映画配給の動向に影響を与えるニュースが飛び込んできた。今回は、今週に入って発表された2つのニュースからアジア圏での動画配信のあり方についてお伝えしたい。

 まず1つめが、ディスカバリー・チャンネルがシンガポールの映像配信プラットフォーム「Viddsee(ヴィドシー)」と新たに結んだ映画制作に関する契約。Viddseeは2013年の設立以来、アジアの短編映画を中心に1000本以上の作品を配信し、毎月200万UU(ユニークユーザー)を超える視聴者を抱えている。さらに、同社は日本のサイバーエージェント・ベンチャーズからも出資を受けるなど、日本市場からも熱い視線を注がれている企業でもある。

 そんなVidseeが結んだディスカバリーとの契約。ディスカバリーは世界各地の新人監督の発掘・育成に取り組んでおり、今回の契約は東アジアでの新人監督の拠点確保として位置づけられている。この契約のキックオフとして、Vidseeはシンガポールや韓国など東アジア各国でディスカバリーの新人賞を受賞した監督たちの作品を配信している。日本でも5人の監督が選ばれ、「SUPER JAPAN」と題した日本を紹介する短編ドキュメンタリー5本を配信中だ。

 ディスカバリーのアジア太平洋地域における責任者、Charmain Kwanはこう語る。
「Vidseeは、才能豊かな監督たちの恵まれたショウケースになっています。私たちは、次世代の映画制作者たちがこうしたデジタルな場で作品を発表することを望んでいます。こうしたプラットフォームを利用することで、私たちはより多くの視聴者を獲得できるでしょう」。

Costume Institute Gala Benefit press preview celebrating China: Through the Looking Glass, Metropolitan Museum of Art, New York, America - 04 May 2015 2つ目に注目したいのは、ウォン・カーウァイがネット配信向けにシリーズものの制作を決めたというニュース。ウォン・カーウァイは歓喜メディアグループに作品を提供する。

 ウォンはジェット・トーン・フィルムズという制作とタレントのマネージメントを行う会社の設立者でもある。彼はこのほどジェット・トーンの傘下に中国語映画を専門に制作するプロダクション、マスター・チャイナを設立し、歓喜メディアグループとの間で同社の作品を独占的にネット配信する契約も結んだ。歓喜グループのトップ・董平はアリババグループに彼の所有するチャイナ・ビジョン社を売却し、同社はアリババ・ピクチャーズと名前を変えて現在に至る。ウォン・カーウァイはアリババとも契約を結んでおり、三者は強力な関係を結んでいる。

 これらのニュースから見えてくるのは、アジアを中心としたネット配信業界でも巨額の資金が動いているということだ。両ニュースから分かるのは、大企業がベンチャーに出資を行い動画配信事業を拡大していこうとしているということだ。

super japan 残念なのは、上で紹介した「SUPER JAPAN」に参加する監督がテレビ朝日や日本ケーブルテレビジョンといったテレビ業界からの制作者しかいない点。ディスカバリーのプロジェクトを協賛しているのが総務省であるため、映画業界とのつながりが薄いのが理由であると考えられるが、こうした機会は日本の映画制作者にとっても貴重な機会であるはずだ。

 まだまだ、ネット配信では大きな変革が起きることが予想されている。そんな中、インディペンデントな映画制作者たちはこうした状況をどうすればチャンスに変えていけるか、業界の動向を注視し続けていかなければならないと言えるだろう。

参照:
1)Discovery Strikes New Filmmaker Content Deal With Viddsee

2)Wong Kar-wai Makes Web Series Foray With Huanxi Media Backing

3)Singapore-Based Streaming Service Viddsee Marks Growing Market Share

4)China’s Alibaba Launches Film Company

5)Discovery Channel First Time Filmmakers Japan

6)Viddsee

7)Huanxi Media Group Limited

8)アジアの短編映画に特化した動画サイト「Viddsee」–次世代クリエイターを支援

坂雄史
World News部門担当。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程。学部時代はロバート・ロッセン監督の作品を研究。留学経験はないけれど、ネイティブレベルを目指して日々英語と格闘中。カラオケの十八番はCHAGE and ASKA。


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