[337]ベルリン派 「ゆるいつながり」とそのメディア

ドイツの映画界で、Revolverという雑誌はある種の権威となっている。。
ベルリンのアウトーレン出版社から出版されているこの季刊誌は、1998年に始まった。
Revolver誌の最大の特徴は、今旬な世界の監督たちに、ベンヤミン・ハイゼンベルクやクリストフ・ホッフホイズラー、ウルリッヒ・ケーラーら、ドイツ映画界の第一線で活躍する監督たちが直々にインタビューをしている、ということである。
監督たちは記者として自身でインタビューを行い、自身で翻訳まで行っている非常に稀有な雑誌である。

そんなRevolverの最新号、Heft33が今月発売された。今号では、ミゲル・ゴメスやペドロ・コスタらのインタビューが特集されている。
そのなかから、ベルリン派の旗手である、アンゲラ・シャネレクとクリストフ・ホッフホイズラーの対談の抜粋をご紹介したい。

「空間を撮るということ」

インタビュアー(以下I):ホッフホイズラーさんは建築を大学で勉強していたんですよね、そのことが映画にも影響していますか?
クリストフ・ホッフホイズラー(以下CH):そんなに真摯な生徒だったというわけではないんだ、途中でやめてしまったし。でも、空間ということに興味があったから、そういった点では映画撮影に役立っていると思うよ。なんというか、空間という非常に抽象的なものを描き出すという点においてね。
I:シャネレクさんは役者としてキャリアをスタートさせましたが、その点は映画制作に役立っていますか?
アンゲラ・シャネレク(以下AS):演じるということ、また劇場での仕事はとてもためになったと思います。もちろん作劇にも影響していると思います。でも、私は劇場のなかで演じるというよりも、劇場の外に興味があったのです。空間のなかで劇を作るということは変わっていませんが、その空間をもっと現実の場に開くということに意味があると感じます。
I:シャネレクさん、以前現実を撮るためにはカメラを動かすべきではないとおっしゃっていましたね。
AS:はい、言いました。役者の存在そのものをフィルムに収めるためには、そのほうが有効だと考えていたのです。たとえば、『午後』という私の作品のなかでは、毎日同じ家に、同じ役者と行っていました。そのなかで唯一現実の、作られていないものというのは、そのロケ地となった家の建築だけでした。そんななか、演技をしている人と現実の家の関係性のなかでドラマが生まれるんですよね、不思議なことに。そういった瞬間に、私はなかなかカットを切り難くなってしまいます。そこでカットを切って、違うカメラアングルからのショットを入れたりするということは、そこにあった時間というものを切り刻むということになりますから。
I:ホッフホイズラーさんはいかがですか?
CH:アンゲラとはまったく違うね。僕はカットを早く切るということに対しても肯定的だ。なぜならいつも違うルックの映画をとって、実験したいと思っているから。アンゲラの考え方はいかにもヨーロッパ的な価値観に基づいていると思うね。長回しにすればするほど、もちろん映画はドキュメンタリーに近づいていくけれど、それだけが映画ではないと思う。(*1)
ベルリン派の映画では、空間と時間というものが非常に重要な位置を占めている。なぜならば、彼ら(特に中心となった3名であるアンゲラ・シャネレク、トーマス・アルスラン、クリスチャン・ペッツォルトら)は、ヌーヴェル・ヴァーグの影響を非常に強く受けており、現実の空間や時間といったものを、そのままフィルムに焼きつけることに価値を見出している。
一方で、ベルリン派というものは、決して強固な結びつきをもつ集団ではない。彼らはもちろん友人ではあるが、そのつながりはあくまでゆるいものだ。クリストフ・ホッフホイズラーやウルリヒ・ケーラー、ベンヤミン・ハイゼンベルクといった作家たちも、ベルリン派の作家として語られるが、彼らの作風は必ずしも「ヌーヴェル・ヴァーグ的」ではない。実際、彼らは2012年にニューヨークのMoMAで行われたベルリン派の回顧上映や、2014年のベルリナーレで行われたベルリン派の講義や対談のなかで、何度も自分たちが「ベルリン派」というくくりで語られることに対しての疑問を投げかけている。(*2)実際にベルリン派の作家たちは非常に作家性がつよく、それぞれの個性で映画をとっているということが、上記の対談からもわかる。
国際的な映画マーケットで売れるためには「ベルリン派」という肩書き、ムーブメントは重要だが、実際の作家たちにとって、そういった肩書きはある種の重荷となっているのかもしれない。

(*1)Revolver Heft33, Verlag der Autoren, P.118-142, 2015.11.30
(*2)https://www.youtube.com/watch?v=2tegsQbwegY

藤原理子
World News 部門担当。上智大学外国語学部ドイツ語学科4年、研究分野はクリストフ・シュリンゲンズィーフのインスタレーションなどドイツのメディア・アート。上智大学ヨーロッパ研究所「映像ゼミナール2014」企画運営。ファスビンダーの『マルタ』のような結婚生活をおくることを日々夢見ております。


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