昨年のカンヌ映画祭で最高賞“パルム・ドール”に輝いた、『アデル・ブルーは熱い色』。日本でも大きな称賛を受け、アデルとエマという「映画史に残る名ヒロイン」が新たに生まれたことは、私たちの記憶にも新しい。しかし、この映画の監督であるアブデラティフ・ケシシュを以前から知っていた観客は、決して多くはなかっただろう。というのも、日本で正式に劇場公開されたケシシュ作品は、『アデル~』が初めてであったからだ。

とはいえ、ケシシュはこれまで、すでに海外の映画祭では高い評価を受けてきた監督であり、『アデル~』の公開は、まさに満を持してのものであった。これまで『身をかわして』がセザール賞最優秀作品賞、最優秀監督賞、脚本賞、新人女優賞、『クスクス粒の秘密』がベネチア国際映画祭での国際批評家連盟賞、また再びセザール賞での4受賞(『身をかわして』と同じ)に輝くなど、作品数は多くはないものの、受賞歴はかなりのものだ。フランスの映画人の中でも、もっとも注目されている人物のひとりと言える。

『アデル~』の話題沸騰を受けて、今後の日本の批評界も、ケシシュに注目する動きは新たに出てくるだろう。そんな中での朗報。9月初旬に、池袋の新文芸座において、ケシシュ作品の上映に、映画批評家の大寺眞輔氏による解説を加えた、「新文芸座シネマテーク」が開催される。映画を観るだけではなく、そこに作品の背景や社会状況、監督の作風など新たに説明が加えられる。そこから、映画をさらに深く味わえる、まさに絶好のチャンスだ。

今回上映されるのは、前述の『身をかわして』と、『クスクス粒の秘密』の2本。それぞれ作品の上映に加え、大寺氏による1時間弱のトークが楽しめる。夜に開催されるということもあり、社会人の方にとっても足を運びやすいプログラムだと言えるだろう。

私自身は『アデル~』で初めてケシシュ監督の作品に触れたこともあり、ケシシュの「作家性」に言及することは今の段階ではできない。しかし、私自身が『アデル~』を観て感じたのは、1つひとつのシーンの、絵画的な鮮やかさだった。例えば、ヒロインそれぞれの表情の豊かさや、エマの青い髪を初めとした配色の豊かさ。こうした美術的な豊かさは、その原点となる作品群ではどのように生かされているのだろうか。私自身も劇場でぜひ、その魅力を確かめていきたいと思う。

2014年9月3日(水)~9月7日(日)
会場:池袋 新文芸座
http://www.shin-bungeiza.com/
『アデル、ブルーは熱い色』上映

9/4(木)
19:30~『身をかわして』(117分)
21:40~22:30 トーク(50分程度):大寺眞輔

9/5(金)
19:15~『クスクス粒の秘密』(153分)
21:55~22:40 トーク(45分程度):大寺眞輔

若林良
大学院生。映画批評誌「MIRAGE」編集。「neoneo」などに映画批評を寄稿。

新文芸座シネマテーク
https://www.facebook.com/bungeicinema
http://www.shin-bungeiza.com/pdf/20140904.pdf


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