[321]追悼 アラン・リックマン


『ハリー・ポッター』や『ダイ・ハード』を含む映画・舞台・テレビに愛され、“唯一無二の声”を持った一人の英国スターがロンドンにて亡くなった。

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 アラン・リックマン。30年に渡るキャリアで世界中に愛され、賞賛されてきた英国俳優が癌によりこの世を去った。闘病中だった彼は、家族と友人に囲まれ静かに息を引き取ったという。69才だった。

 くちばしのようなアーチ状の顔立ちと気だるい口調で、世代を超えて認知後が高く、中でも『ハリー・ポッター』シリーズのスネイプ先生役で世界的に知られている。訃報を受けた共演者は以下のように追悼のコメントをしている。

 

 “後にも先にも偉大な俳優のひとり。映画界で出会った人の中でもっとも誠実で、僕を支えてくれた。”―ダニエル・ラドクリフ

 “悲しみに打ちひしがれていて、言葉も出ません。素晴らしい役者であり、素晴らしい男性です”―J・K・ローリング

“みんなアランが好きさ。だって彼はいつもハッピーで、クリエイティブで、何より面白いんだ!”―マイケル・ガンボン

 

 記念すべき銀幕デビューは『ダイ・ハード』(1988)のブルース・ウィルス演じるジョン・マクレーンを追い詰める冷徹で卑劣なハンス・グルーバー役。当時41才だった。この役でグローバルな注目を集め、リックマンを代表する“3悪役のうちの1つ”となる。あと2つは、『ロビン・フッド』(1991)でのノッテンガムの悪代官・ジョージ、そしてHBO製作のTV映画『ラスプーチン』(1995)のグリゴリー・ラスプーチンだ。この作品で恐ろしいまでの圧倒的な怪演とカリスマ性を見せつけた。

 悪役だけでなく、主演俳優でもある。『愛しい人が眠るまで』(1991、アンソニー・ミンゲラ)のチェロ奏者ジェイミー役や、『いつか晴れた日に』(1995、アン・リー)でのブランドン大佐。その脚本も担当したエマ・トンプソンとは、『ラブ・アクチュアリー』(2003)では夫婦役を演じるなど多くの作品を共にしてきた。1995年には、トンプソンと彼女の母フィリダ・ロウを主演に迎えた『ウィンター・ゲスト』で監督デビューを果たした。リックマンが舞台演出をしていた同作の映画化で、親子の愛と葛藤を軸にしたヒューマンドラマだ。

 

“彼を失った今思い出すのは、彼のユーモアと知性、知恵、優しさです。相手を一目で理解し、一言で勇気付けた。アーティストとして頑固さや、物事を正確に捉える力を持ち、常に意見を共有してくれました。多くのことを教えてくれた、もっとも有能な役者であり、監督です。次のプロジェクトをいつも心待ちにしていたのに。彼と一緒に働く機会をたくさん持てた私は幸せ者です。最高のパートナーです。類稀なる人間で、あのような人はもういません。最後はただ、さよならのキスをした。”―エマ・トンプソン

 

昨年、ケイト・ウィンスレットとマチィアス・スーナールツを主演に迎えた『ヴェルサイユの宮廷庭師』は2本目且つ最後の監督作となった。自身はルイ14世を演じている。

 彼はもともと、舞台での迫真の演技で確固たる地位を築いてきた。王立演劇学校を卒業後、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入団するまではTVシリーズに出演したり、ナイジェル・ホーソーンやラルフ・リチャードソンの衣装係をするなどして下積みを積んでいた。その後、劇作家クリストファー・ハンプトンによる『危険な関係』で稀代の色男ヴァルモン子爵を演じ、爆発的な人気を博した。その演技でトニー賞にノミネートもされた。メルトゥイユ侯爵夫人を演じたリンゼイ・ダンカンは、「観客はみな、劇場を出るときには彼とセックスしたくなっているはず」と彼を絶賛した。悪役で知られる彼だが、同時に“セックスシンボル”の顔も持っていたのだ。

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 また、オリヴィエ・シアターにてヘレン・ミレンの相手役を演じた『アントニーとクレオパトラ』、2010年にはアイルランドで『ヨーン・ガブリエル・ボルクマン』、2011年にはブロードウェイで『セミナー』で作家の講師を演じたことでも話題になった。

 ジャンルにとらわれない彼の活躍の場は多岐にわたる。その独特な声を活かし、FOXで放送されていた伝説的アニメ『キング・オブ・ザ・ヒル』にゲスト声優として登場。さらにはデンマーク製作のアニメ『Help! I’m a Fish』(邦題:とび★うおーず)では美しい歌声を披露している。また、スコットランドのロックバンド・テキサスのミュージックビデオ(In Demand)への参加は、彼らの熱望により実現した。ガソリンスタンドでのタンゴ、美しくセクシーな彼の魅力が全開だ。『スタートレック』のパロディという『ギャラクシー・クエスト』(2000)では奇妙なかつらを被ったシェイクスピア役者だったことが誇りの男をコミカルに演じた。

 2008年のガーディアンの記事には、最も人間を喜ばせる“完璧な男性の声”として、リックマンとマイケル・ガンボンとジェレミー・アイアインズの声をミックスしたもの、という研究結果まで出ている。(*)トーン、速さ、周波数、イントネーションから理想的な数値を割り出したもので正当な結果といえよう。

 理想的な低音ボイスを持つ彼の最後の仕事は、図らずも声の出演となった。「This Tortoise Could Save a Life」という子供と難民救済のためのチャリティ映像のナレーションだ。昨年11月末にロンドンの自宅で収録されたという。

 リックマンがまだオスカーを受賞していないことについて、毎年のようにインタビューで話題にあがっていたが、どうやら本人には無関心のようだ。「作品が(受賞)対象であって、俳優ではない」と語っている。“気難しい”とも言われた彼が、真摯に向き合ってきたものづくりの姿勢は生涯揺るがなかった。

 

“俳優は変化をもたらす仕掛け人だ。映画、演目、音楽、本、これらは違いを生み出せる。世界をも変えられる。”―アラン・リックマン

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参考URL

http://next.liberation.fr/cinema/2016/01/14/l-acteur-anglais-alan-rickman-est-mort-a-l-age-de-69-ans_1426392

http://www.theguardian.com/film/2016/jan/14/alan-rickman-giant-of-british-film-and-theatre-dies-at-69?CMP=twt_gu

http://www.theguardian.com/film/filmblog/2016/jan/14/alan-rickman-an-actor-of-singular-charisma-whose-hold-over-audiences-was-hypnotic

http://www.lesinrocks.com/2016/01/14/cinema/alan-rickman-en-10-roles-memorables-11798095/

http://www.theguardian.com/culture/tvandradioblog/2008/may/30/aformulafortheperfectvoic(*)

http://www.theguardian.com/film/2016/jan/14/alan-rickman-obituary

 

田中めぐみ
World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。


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