第71回目を迎えるベネチア国際映画祭が、8月27日から9月2日まで、イタリアのベネチア、リド島で開催される。
ベネチア国際映画祭は、カンヌ、ベルリンと並ぶ世界3大映画祭の1つで、同時に、世界最古の歴史を持つ映画祭としても知られる。過去の最高賞(金獅子賞)受賞作品としても、アラン・レネ『去年マリエンバードで』、ルイス・ブニュエル『昼顔』、候孝賢『非情城市』など映画史に残る傑作揃いで、ベネチアでの受賞は、世界の映画人にとって大変な名誉だ。コンペ部門には今年も最高賞をめぐって、世界各国から選りすぐりの20本が集まった。
今年のコンペには、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『Birdman or The Unexpected Virtue of Ignorance』、ファティ・アキン『The Cut』など国際映画祭の常連監督による作品も並ぶ一方で、アリックス・デラポート『Le Dernier Coup de Marteau』など、キャリアとしてはまだ浅い監督の作品も多い。6月に開催されたカンヌ映画祭が、国際的に有名な監督による作品が中心であったのと比較して、今回のベネチア映画祭は、比較的バランスのとれた選定であると言えるだろう。
日本からは、塚本晋也監督の『野火』が出品される。大岡昇平の同名小説を映画化した作品で、第二次世界大戦末期のフィリピンを舞台に、一兵士の視点から見た「戦争」の恐怖を描く。(※1)原作の映画化は1959年の市川崑監督に続き2度目だが、市川監督が原作の宗教的な概念をほとんど廃した、オーソドックスな作品として『野火』を仕上げていたのに対して、塚本監督は『鉄男』や『KOTOKO』のような、極めて先鋭的な作品としての『野火』を作ることが期待される。前作『KOTOKO』でもベネチアの絶賛を受けた塚本監督が、今回現地でどのような評価を受けるか、今から期待は尽きない。
(ちなみに市川監督の『野火』は、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞している)
審査委員長はフランスの作曲家、アレクサンドル・デブラ。例年、コンペ部門の審査委員長は映画監督か俳優が務めており、作曲家が任を務めるのは今回が初めてとなる。しかしながら、デブラは『クイーン』『英国王のスピーチ』など6作品でアカデミー作曲賞にノミネートされるなど映画界との関わりは深く、歴史や言語を含めた「映画」そのものに精通した人物でもある。一般的な「映画人」とは異なった視点を持つ彼がどのような映画を選ぶか、こちらもまた、興味は尽きないところだ。(※2)
コンペ作品においては、個人的にジョシュア・オッペンハイマーの『The Look of Silence』に注目したい。
今年日本で公開され、センセーショナルな話題を呼んだ『アクト・オブ・キリング』のフォローアップ作品であり、『アクト~』同様、ドキュメンタリーの「粋」を壊すような、衝撃的な作品になっていることが期待される。昨年の金獅子賞がドキュメンタリー作品『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』だったこともあって、ドキュメンタリーの快進撃が、今年も続くことを個人的には祈念したい。
若林良
ベネチア国際映画祭公式サイト
http://www.labiennale.org/en/cinema/
(※1)
http://www.cinra.net/news/20140724-nobi
(※2)
http://eiga.com/news/20140625/18/


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