ジャジャンクー

只今開催中のニューヨーク・フィルムフェスティバル。最新作「マウンテン・メイ・デパート」が招待作品として上映されると共に、今年度の映画祭ディレクターも務めるジャ・ジャンクーが、HBOディレクターズ・ダイアローグ、最初のゲストとして登場した。

彼はこれまで「罪の手触り」「長江哀歌」「世界」など、自身の作家人生を通じて変わり続ける中国を描いてきた。また同映画祭のドキュメンタリーセクションでは、ウォルター・サレス監督「ジャ・ジャンクー/フェンヤンの子」も上映される。 今回のトークでは最新作について、そして映画作家としてのモチベーションについて語っている。

【音楽からの影響】

ジャ・ジャンクーの映画には音楽が欠かせない。その点において、最新作「マウンテン・メイ・デパート」も例外ではない。ペットショップボーイズの「ゴー・ウエスト」、香港ポップミュージック、サリー・イップの「テイク・ケアー」が映画を通して繰り返し流されている。

文化大革命が終わりを告げるころ中国で育ったジャ・ジャンクーは、革命を境に音楽が変容する様を経験することになる。「それ以前の音楽というのは、全てがプロパガンダだったんだ。全ての歌は共同体、「私たち」に関するものだった。個人に焦点をあてた歌、特にポップミュージックが聴かれるようになるまでにはしばらく時間がかかったね」

「香港や台湾、西洋から流れてくるポップ・カルチャーを通して若者たちは、「個人」としての自分を表現することを覚えたんだ」と語っている。「例え歌詞が理解できなくても、リズムを聞いて、ビートを楽しみ、自由を感じるんだ。西洋に行くことは叶わなくても、音楽を通してどこかに行くことができた。」

【タイトルについて】

この映画には英語と中国語、2つの異なる題が存在する。全く別のタイミングで思いついたという2つだが、どちらもよくこの映画が表現している「時間」と「空間」の感覚を捉えている。

「英題『マウンテン・メイ・デパート』は「例え山は動けども、私たちの愛は動かず」という中国のことわざに由来しているんだ。何かがドラマチックに変わったとしても、長い目で見れば変わらないものもあるのだ、ということを上手く表現していると思う。私たちは変化を経験していく。愛という感情をを考えても、初恋から家族愛へと変化があり、また人生には避けられない旅路が存在する。生まれること、年をとること、病、死。これら全ての変化を避けて通ることはできない。しかしその中で変わらずに存在し続ける、人間の感情もあると思う。それらは決して変わることのないものなのだ。

じゃジャンクー2

 

【漂流というテーマについて】

ジャ・ジャンクーの映画には漂流のモチーフが多く登場し、それは彼の映画における空間的要素を象徴している。「この映画で表現したかった社会的リアリティーは、人間の移動性、流動性だ。経済成長を成し遂げた中国では、人々がよりよい生活を求めて故郷を離れ、都会、更には海外へと移住する。これを映画作家として、分かりやすく、また確かな方法で描くためには、故郷を離れ、外に出て行く姿を描くことだと思った」

物語の出発地点は彼自身の故郷でもあるフェンヤンだ。「この映画のテーマは漂流だ。その感覚を正確に伝えるためには、故郷から始めなければいけないと思った。生まれた場所から漂流を始めてこそ、行き先での自分をよそ者だと感じることになるからだ」

ジャジャンクー3

【妻であり、女優である、チャオ・タオから学んだこと】 2000年にジャ・ジャンクー監督作品「プラットフォーム」でデビューを飾って以来、彼の全ての作品に出演しているチャオ・タオ。二人が結婚したのは2012年のことである。今回のトークでは、妻から受けた影響についても語っている。

「『プラットフォーム』のヒロインには、ダンスの才能が必要だった。僕が初めて彼女を見つけたのはダンス教室。子供達にダンスを教えている時だった。彼女はこう言っていたんだ。

「上手に踊るためにはね、自分が喋れないって想像してごらんなさい。自分の思いを表現するには、手を、足を、身体を動かすしか方法がないんだって」

これを聞いてすぐに、僕は映画も同じだと気付いたんだ。言葉で表せない何かを表現する時に、画に、カメラに、頼るんだ、ってね。」

bycecle

 

【目的を見失い、映画の中にそれを見つける】

トークの最中、観客から一つの質問が挙がった。「目的を見失ったり、無気力になることはありますか?」ジャ・ジャクーはこう答える。

「実はよくあるんです。特に『罪の手触り』の後は本当に無気力になり、もう映画製作はやめようとも考えました。ウォールター・サレス監督のドキュメンタリーにはその時の姿が映っています。」

「しかしもう映画は作らない、と思っても、例えばチャップリンの映画を観ると、突然気づいてしまうのです。映画とはなんて美しいものなのかと。こんなにも美しくなれるもの、美しくあるべきものなのだ、と。

『自転車泥棒』の、雨の日に父親と息子が屋根の下に隠れるシーンがあるでしょう。あの感情と、繋がりは、映画にしか表現できないものです。そういうものを観た時に、再び映画をつくろうと思うのです」

また、「何があなたを映画製作に向かわせるのですか?」という質問に対しては、

「私にとって映画をつくることの一番の魅力と動機は、どうにかして様々な、それぞれに違う人間たちを、違う環境、違う生活条件の中で存在させ、表現するかということです」と答えている。

1999年、中国のフェイナンから2025年のオーストラリアまで、3つの時代と場所を経て話が進む「マウンテン・メイ・デパート」。ジャ・ジャンクーは愛と、人間の感情についてを描こうと思ったのだという。それらを綿密に観察するには、時間の経過が必要だった。時間の経過と共に、私たち人間は新しい感情を経験するからだ。また過去を振り返るだけの距離があれば、そこに新しい意味を見つけ、理解することができるのだ、と話している。

そんなジャ・ジャンクー最新作は、カンヌ国際映画祭、トロント国際映画祭を経て、ニューヨーク映画祭ではUSプレミアを迎えることになる。

http://www.indiewire.com/article/jia-zhangke-reveals-how-charlie-chaplin-and-vittorio-de-sica-saved-his-career-20151002

http://www.indiewire.com/article/how-mountains-may-depart-director-jia-zhangke-juggled-past-present-and-future-in-his-latest-epic-20150930

梶原香乃
東京生まれ、東京育ち、1/4ほどロンドン育ち。無防備に、繊細に、大胆に生きていたいです。出演作品「新しき民」(山崎樹一郎監督)12/5から渋谷のユーロスペースにて公開です。思いのつまった、熱のこもった作品です。どうぞ宜しくお願い致します!atarashikitami.jimdo.com 


コメントを残す