555523366 先頃開催されたフランス映画祭において傑作『アクトレス~女たちの舞台~』(日本公開は10月から)が上映され、その素晴らしさが大いに話題となっているオリヴィエ・アサイヤスだが、この作品に続きはじめてアメリカ資本で撮る予定だった『Idol’s Eye』は撮影直前にキャンセルとなってしまった(#1)。しかし、好調アサイヤスはさらに次なる企画に既に取りかかっているようだ(#2)。

 『Personal Shopper』と題されたこの作品で、アサイヤスは再び『アクトレス』製作チームと組むことになる。CG Cinema、MK2、Les Films du Losangeといった製作会社だ。ヨーロッパのプロダクションであるため、『Idol’s Eye』で味わった「恐怖と苦痛」を再び味わうことはないだろう。脚本はアサイヤスによるオリジナルで、ファッション界のアンダーグランドな側面を描いたゴースト・ストーリーであり、作品内で使用される言語は英語となるとのこと。『アクトレス』同様、セリブリティと年齢の問題をテーマの一部に持ち、そこにジャンル映画とファンタジーの要素を持ち込むとのことだ(#3)。撮影はパリで、2015年後半を予定している。

sils_maria 『Personal Shopper』最大の話題は、しかし、『アクトレス』でアメリカ人女優としてはじめてセザール賞を獲得したクリステン・スチュワートが主役にキャスティングされていることだろう。スチュワートは現在ケリー・ライヒャルト作品の撮影を済ませ(#4)、アン・リーの『Billy Lynn’s Long Halftime Walk』(#5)を撮影中である。この後、ウディ・アレンの新作(#6)に主演した後、『Personal Shopper』の撮影に入ることとなる。『トワイライト』シリーズで名声を得た彼女だが、このように一方で有名映画作家によるインディペンデント作品にも積極的に出演し、順調にキャリアを築きつつあるように見える。『アクトレス』に続く『Personal Shopper』への出演によって、アサイヤスの新たなミューズとしての地位も獲得したようだ。

 セレブリティでありつつ女優としても着実に成長するスチュワートについて、アサイヤスはインタビューで次のように述べている(#7)。因みに、『アクトレス』でスチュワートをキャスティングした際、すでに資金集めは完了しており、その選択は経済的なものではなかったとのことだ。さらに、スチュワート以前にはミア・ワシコウスカが彼女の役を演じる予定だった(スケジュールの都合で降板)との話である。

「もし君が女優だったとすれば、自分のキャリアをある程度はコントロールできるだろう。でも、完全にじゃない。つまり、どうしたって環境に左右されることになるんだ。今日において有名女優であると言うことは、ブロックバスター映画の役をオファーされたり、一方で、よりシリアスに登場人物を探求するタイプの映画作家から役をオファーされたりもする。インディー作家からオファーも受けるだろう。舞台もだ。さらに、君の人生の様々な断片がインターネットに撒き散らされてしまう。こうした全てから、君は自分自身で選んで何か首尾一貫したものを作って行かなくちゃいけないんだ。そしてそれは、とても難しいことなんだ。なかでも映画のキャリアは女優にとって最も難しく、したがって最も実りあるものだと僕は思う。」

「僕はクリステンにすごく感謝してるし、彼女を尊敬している。だって、彼女はあらゆるオプションを手にしていながら、インディペンデント映画に出演し続けているから。彼女はこの世界の一部でいたいと思っているんだ。彼女はリスクを引き受け、努力している。それに、僕らとライプツィヒで2ヶ月にわたって撮影を続けていたとき、それは世界から切り離される体験だった。週末ちょっと家に帰りたいって場所じゃないからね。釘付けにされてしまうんだ。彼女がそんな場所まで来てくれたのは、おそらくジュリエット・ビノシュから何かを学びたいと思ったからだろう。」

assayas だが、「フランスのインディペンデント映画監督」と自らを位置づけるアサイヤスは、決してその内部に自足している訳でもない。彼は同時に「フランスのインディペンデント映画」最大の批判者でもあるのだ。挫折に終わったが『Idol’s Eye』ではアメリカ資本での映画製作にチャレンジし、『Personal Shopper』でも英語が使用される。作品内容的にも、たとえば『アクトレス』のジュリエット・ビノシュは国際女優であり、また作品の背景となるアルプスにおいても、その美しい風景はGoogle検索された無国籍な画像や動画と無造作に並置されていた。

「僕はフランス映画の境界の外側に視線が及ぶような映画を作ろうとし続けている。そして、仏インディペンデント映画のエコノミクスやシステムから自由でありたいと思っているんだ。と言うのは、僕の考えでは、それは余りに閉塞的なものだからだ。今日、グローバル社会が如何に変容しているかについて有意義にその作品の中で対話している映画作家は数えるほどしかいない。フランスでは、クレール・ドゥニやアルノー・デプレシャンくらいだろう。アルノーは、こことは別の方法での映画作りに自らを開こうしている。そしてそれは、とても重要なことなんだ。」

 クリステン・スチュワートと再びタッグを組む最新作で、アサイヤスはどのような現代社会の相貌を私たちに見せてくれるだろうか。期待して待ちたい。

#1
http://indietokyo.com/?p=1144
#2
http://variety.com/2015/film/news/kristen-stewart-ghost-story-shopper-olivier-assayas-1201497322/
#3
http://wegotthiscovered.com/movies/kristen-stewart-olivier-assayas-personal-shopper/
#4
http://www.imdb.com/title/tt4468634/combined
#5
http://www.imdb.com/title/tt2513074/combined
#6
http://www.imdb.com/title/tt4513674/combined
#7
http://www.indiewire.com/article/interview-olivier-assayas-on-admiring-kristen-stewart-and-the-challenges-of-bigger-films-20140903

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

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