警察による暴力を追いかけたドキュメンタリー『Un pays qui se tient sage(おりこうな国)』(2020)が、フランスで9月30日に公開された。本記事では、インタビューを交えて本作についてまとめたい。

「黄色いベスト」運動について

 ガソリン税の値上げがきっかけとなり、フランスでは「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」運動が巻き起こっている。コロナ禍においてデモ参加者は減っているものの、2020年10月現在もなお、この運動は続いている。車なしでは買い物さえ行くことがままならない郊外の人々、なんとなく生活が苦しい、ピエール・ブルデューが『世界の悲惨』で聞き取りを行ったような、「内部において排除」されているものたちによって立ち上がった「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」運動。それは、「夜、立ち上がれ(ニュイ・ドゥブ)」運動との連続性においてあらわれたものであり、マクロンによる富裕層優遇政治に対抗するものとしてある。

 2018年11月17日に行われたその第一回全国行動では、平和に行進するデモ隊に対し、警察は、催涙弾やゴム弾を使用することで彼/女らの排除を試み、参加者およそ500名が負傷、15人以上が重傷の傷を負い、事故によって1名が亡くなった。警察はこれら武器使用の理由を、暴徒化した一部のデモ隊への対抗措置であると正当化するだろう。しかし、そもそも彼/女らの暴力行為は、ネオリベラリズムという社会的暴力(1)、あるいは警察による直接的な暴力を発端としてはいないだろうか。たとえば、ラジ・リ『レ・ミゼラブル』において描かれているのは、そのような構造であっただろう。

『Un pays qui se tient sage(おりこうな国)』について

 今年のカンヌ映画祭監督週間に選出された本作は、これまで警察による過度な暴力を告発してきたジャーナリストであるダヴィッド・デュフレンヌによるドキュメンタリーである。デュフレンヌはこれまで、「黄色いベスト運動」における警察の暴力を記録してつづけてきた。Twitterを用いながら、ほとんどがスマートフォンで撮影された警察による暴力行為をallo @Place_Beauvauと題してアップロードしつづけている。SNSを用いたこの運動によって、これまで1000以上もの報告が作成されている。デュフレンヌは本作で、デモ参加者たちが携帯電話などで撮影した映像を引き受けながら、国家によるこうした過剰な暴力行為の正当性に疑義を投げかけるのである。(2)(3)

 LE TEMPSは本作を、たんなる警察の暴力に関するドキュメンタリーとして捉えてはいない。そうではなく、「フランスを「変革」したいというエマニュエル・マクロンの願望に煽られた、社会的で政治的な白熱を提示している」(2)と語っている。この映画によって解剖され、明らかになるのは、もはやフランスは「Un pays qui se tient sage(おりこうな国)」ではない、ということである。LE TEMPSは、フランスの若き大統領が問題の根源にあると論じているが、事実マクロンは、ガソリン勢の値上げのほか、前年の2017年には住宅援助の減額をしながら中間層の人々の生活を切り詰め、他方で富裕税を撤廃し、資本課税を廃止するなど、富裕層を優遇する政治を行ってきたのである。

 この作品は、抗議活動を行う「黄色いベスト運動」のデモ参加者だけではなく、デモに参加する疑いのある諸個人を攻撃する警察の、忌まわしい光景の数々を映し出している。酒井隆史は『暴力の哲学』において、「暴力はいけない」というモラルこそが暴力を蔓延させると論じているが、警察によるデモ参加者に対する暴力を正当化するのも、こうしたモラルやセキュリティの要請によるだろう。暴力を憎むことは、暴力をふるうものへの抑止としての暴力を容認する。ここで、「暴力をふるう可能性のあるものたち」とみなされたデモ参加者は、前もって暴力によって排除されるべき存在となる。「暴力はいけない」というモラルは、むしろこのような、警察による排除の暴力を許容し、促進さえするのである。

ダヴィッド・デュフレンヌ監督

 本作は、警察による暴力行為の記録だけではなく、社会学者や弁護士、歴史家、ゴム弾によって片目を失明したデモ参加者など、「黄色いベスト運動」について知っているあらゆるものたちのインタビューによっても構成されている。l’Humanitéによる「なぜあなたは、さまざまな意見に場を与えることを選ぶのですか?」という質問に対し、デュフレンヌはこう答えている。

私の知識は他の人の仕事によっても養われます。この映画はなにより、[暴力現場の動画を撮影した]ビデオグラファーたちへの敬意なのです。それらがなければ、多くのことが無視されたでしょう。階層的な思考はありません。1980年代後半、警察は馬鹿馬鹿しくもに私に関心を寄せました。私は、一般的な諜報機関で同人誌を作っていましたが、その機関はアナキストの巣を収容していると信じられていました。それ以来、とりわけ私は警察に興味を持ちました。ツイッターのハッシュタグ#Allo Place Beauvauで視聴者が増えましたが、それは議論を巻き起こす方法でした。私の話で最後に取り上げるのは、警察の暴力に対する私の個人的なビジョンです。『Un pays qui se tient sage』は、ほぼ最上階にあります。本作は、この問題を知っている社会のほとんどすべてを代表する、様々な分野の人々との議論を活発にするのです。高齢者、若者、郊外の人々、高級住宅街の人々。警察官、弁護士、社会学者、歴史家。アラブ人、白人など…私の考えは、集団的な分析をすることなので、すべての人々が取り上げられているのです。(6)

『レ・ミゼラブル』との比較

 RFIはラジ・リ『レ・ミゼラブル』と本作を比較しながら、その両者が「国全体の心を刻み、物事を変化させたいという強い願望を持った最初の映画」であると論じる。ラジ・リもまた、警察の暴力行為を記録したドキュメンタリー制作でそのキャリアをスタートした。しかし、ラジ・リの『レ・ミゼラブル』が警察組織と郊外の人々との和解の映画であるなら、「デュフレンヌは、大画面によって示される、不当で、無差別で、あまりに常軌を逸した警察の暴力についての議論を展開する」映画なのである。(7)

 本作のタイトルは、2018年12月6日に「黄色いベスト運動」に参加したことで拘束された151人の高校生に対して吐いた警察による暴言が元になっている。『レ・ミゼラブル』と本作とを比較しながら、デュフレンヌはこう語っている。

『レ・ミゼラブル』では、取り締まりを行う警察が、まずいことを行った自分たちが撮影されていることに気づいたときに大きく変化します。『Un pays qui se tient sage』の基盤は、こんにちの警察による取り締まりが撮影されているということです。ここから、言葉の高貴な意味で、文書化し、観察し、議論することが可能になるのです。ですから、[『レ・ミゼラブル』と本作は]明らかにつながりがあるのです。『レ・ミゼラブル』は、郊外のモンフェルメイユで展開されます。『Un pays qui se tient sage』は、高校生たちがいるマント=ラ=ジョリーと同じように、黄色いベストたちがいる都市の中心部で展開されます。この映画のタイトルは、パリ郊外のマント=ラ=ジョリーで、ひざまずく151人の高校生を撮影した警察官の有名なフレーズ「Ah, voilà une classe qui se tient sage(ああ、おりこうな=従順なクラスだね)」から引用しています。このフレーズを受け取り、私たちは次のように言い返したのです。「おりこうな国」だと。したがって、この二本の映画には明らかにつながりがあるのです。これらのつながりとは、警察に役割、その管理、その性質、その限界、その可能性、その正統性への問いなのです。警察は、具体的にいうところの警察機関は、緊張感が高まっている議論を一掃するのは間違っているでしょう。(7)

 デュフレンヌは本作を、物語に対抗するために制作したと語っている。「物語récit」と「語ることparole」を比較しながらデュフレンヌが言いたかったこと、それはおそらく、何ごとかの物語を形づくるのではなく、つねにその形を変化させつづける動力となる対話や議論の重要性であるだろう。ここで映画のイメージは、われわれの対話のため、議論のための素材として機能するのである。

この映画はとても強烈なイメージを持っていますが、何よりも物語récitと戦っているのです。それは、はじめに登場するマクロンが「警察の暴力や抑圧について語らないでne parlez pasください。これらの言葉は、法治国家では受け入れられません」と語っているためです。この映画は、このときに生まれたのです。無意識的か意識的か、国家の最高元首は大雑把に、これらのイメージを提示することをやめるように要求するのです。しかしほとんどの場合、語ることができる主題とそうでない主題があるのです。私たちは、この物語に戦わなければならないのです。なぜなら、対話の長所、つまり発言=語ることparoleの効果をまさに信じているからです。(6)

集団、独立メディア、弁護士、研究者によってなされた仕事があります…それは強制的に、反物語の生態系を作ります。そして、映画は、とりわけそのあいだに組み込まれるのです。(8)

 

(1)https://blog.mondediplo.net/fin-de-monde

(2)https://www.letemps.ch/…/un-pays-se-tient-sage-voir…

(3)https://www.davduf.net/alloplacebeauvau?lang=fr

(4)https://www.letemps.ch/…/un-pays-se-tient-sage-colere…

(5)https://www.lemonde.fr/…/david-dufresne-la-camera-c-est…

(6)https://www.humanite.fr/avec-un-pays-qui-se-tient-sage…

(7)https://www.rfi.fr/…/20201002-david-dufresne-pays-tient…

(8)https://www.revolutionpermanente.fr/Cinema-Un-pays-qui-se…

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。


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