第67回カンヌ国際映画祭まで、ついにあと一週間を切り、海外の映画雑誌やサイトで注目作品が次々と話題に挙がる中、最も注目が集まっている作品の一つは、やはりジャン=リュック・ゴダールの『Adieu au Langage』である。
 ゴダールの作品はこれまでにカンヌ映画祭のコンペティション部門で6回出品されており、(『勝手に逃げろ(人生)』(1980)、『パッション』(1982)、『ゴダールの探偵』(1985)、『アリア』(1987)、『ヌーヴェル・ヴァーグ』(1990)、『愛の世紀』(2001))『愛の世紀』から実に13年ぶりのコンペティション部門への出品となる。いずれも賞を逃している事と、今回がキャリアを締めくくる最後の作品であるという憶測もあり(題名に”Adieu”(さらば)などが付いていることから)、今年度のパルム・ドール有力候補として名前が挙がっている。
 しかし、そんな注目が集まる一方で、4年前にゴダールの『ゴダール・ソシアリスム』(2010)がカンヌ映画祭の「ある視点」部門に出品された時は、オーディエンスに冷ややかに受け止められ、あまり話題にも挙げられないといった冷遇も受けている。現代におけるゴダールの存在は映画史において最も重要な人物の一人であると同時に、作品がオーディエンスに受け入れられにくい監督という印象が一般的にあるようだ。彼の代表作ともいうべき『はなればなれに』、『軽蔑』や『気狂いピエロ』といった作品は古びること無く、老若男女問わず人々に愛され続けているが、そういった60年代のノスタルジーが年を重ねていく反面、一般のオーディエンスの関心から少しずつ離れていってしまったのも事実である。ここ30年ほど、彼の映画は作品数を重ねるごとに観客の動員数が減っており、そのことを彼自身も嘆いているようだ。
「私は上手く行かない映画で生計を立てている。(・・・)我々は単なるイメージにすぎない、そして私はまだ何かを象徴している。(・・・)私はまだシネマトグラフを象徴している。しかし人々は私の映画を見ないし、見なくなってしまった。私は単なる自分の作品の奉仕者に過ぎないというのに。それは心が痛むし、自分の責任だ。ああ、なんということだ。」 (*1)
(ベルナール・ピヴォとのインタビューにて、Bouillon de culture、1993年9月10日)
 そして『ゴダール・ソシアリスム』から4年後、ゴダールは3Dの新作映画と共に、またカンヌへと戻ってきた。
『Adieu au Langage』予告編
http://www.wat.tv/…/bande-annonce-adieu-langage-6rc9n_2exzl…
公式ホームページのシノプシス:(*2)
結婚した女性と独身の男性が出会い
彼らは愛し合い、口論し、殴り合う
犬が都会と田舎のあいだを彷徨い
季節が過ぎ
二つ目の映画が始まる・・・
 公式ホームページのシノプシスからも伺えるように、作品の詳細は謎に包まれている。去年、配信された3分ほどの予告編に見られる一連のイメージは、どこか映画や記録映画、そしてホームビデオのような要素が混在しているかのような印象を受ける。『Adieu au Langage』=“言語との別れ”という意味の挑戦的な題名からも、本作でゴダールが3Dという新しい映像技術を用いて、映像言語を再発明しようという意気込みを感じさせる。
 いずれにせよ伝説的な映画監督でもあるジャン=リュック・ゴダールが13年ぶりのコンペティション部門で、未だ多くの謎に包まれている新作を公開するという事態は、人々の関心や好奇心を駆り立てずにはいられない。2012年にレオス・カラックスが『ホーリー・モーターズ』で批評家ならびに一般の観客へも大きな影響を与えていったように、ゴダールの『Adieu au Langage』も同じ現象が起こることを願ってやまない。
楠 大史
*1
http://www.lesinrocks.com/…/ledito-de-frederic-bonnaud-eve…/ 
*2
http://www.wildbunch.biz/films/goodbye_to_language_3d
http://blogs.indiewire.com/…/new-images-unveiled-from-jean-…


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