はじめに。

 昨日4/7夜に政府から緊急事態宣言が出され、東京をはじめ7都府県で様々な企業、店舗が一時休業を余儀なくされている。色々な方が発言されている様に映画館において、特にミニシアターが経営上致命的なダメージを受け閉館に追い込まれて行く事が懸念されています。一方、映画制作者側もまた3月中旬辺りから撮影中止、無期限延期などが相次ぎ、今年末迄の仕事をすべて失ったと言うスタッフも身近にいます。映画館が閉館し、スタッフもまた職を失い、詰まるところ映画の可能性や存続も危ぶまれているとも言えます。これは映画業界に限った話では全く無いと思いますが、しかし個人的には、世界に対する接点であり、発見の場であった映画館を失いたく無いと言う想いがあります。そして映画自体にとっては、観られもしなければ語られもしなかったと言う事が大変残念な事ではないかと思っております。そうした観点から今回のWorld Newsではあくまで非常事態宣言で上映中断となってしまった映画、宣言が出されていない地域で公開が継続されている映画、又は本来であればこの時期に公開されていたはずの2本(コゴ・ナダ監督の「コロンバス」、ジム・ジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」)についてカメラマン達のインタビューを中心に翻訳し、映画の紹介記事を書いております。両作品共にアプローチは違うが世界の変容に対してどう身の置き方を選ぶのか、世界と身体の関係を対峙させて描いた作品で、安全に観る事が出来る状態であれば是非映画館で見て頂きたい素晴らしい映画です。映画館が営業を再開できる頃にまた上映が始まるのではないかとも思っております。またIndieTokyoではメルマガの方で、自宅でオンライン鑑賞できる国内外の映画の紹介をしております(#1)。日本でも瀬田なつき監督が『あとのまつり』を、濱口竜介監督が「『天国はまだ遠い』をオンライン無料公開し(こちらも素晴らしい作品です)、各映画館、団体もクラウドファンディイング等動き始めております。こちらは下記にまとめてリンクを貼らせて頂きます。

以下、映画紹介の本文となります。よろしければ最後までお付き合いください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「コロンバス」(#1) (コゴ・ナダ監督 )

 

(渋谷イメージフォーラム、シネ・リーブル梅田一時休館。4/8現在では名古屋シネマテークにて上映)

 韓国出身で、以前は映画批評家でもあり、小津安二郎、ロベール・ブレッソン、アルフレッド・ヒッチコック、イングマル・ベルイマンら映画監督をテーマにビデオエッセイを制作していたというコゴ・ナダ監督の初長編映画(#2)。ストーリーは、意識不明の重体になり入院している父親の為、美しい建築の立ち並ぶアメリカ・インディアナ州コロンバスにやって来た韓国系アメリカ人のジン(ジョン・チョー)と図書館で働きながら建築ツアーガイドの勉強をしているケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の、二人の出会いと関係を中心に進む。街から出れないジンを、ケイシーは建築巡りに繰り返し誘い、建築に込められた思想や歴史について語りあいながら、徐々に二人は自身の人生について振り返っていく。

 父の昏睡状態という、生と死の中間の時間に取り込まれ自身も身動きの取れなくなってしまった男性と、コロンバスに生まれ育ち其処を出て行こうとしない女性が、人間社会とは別の時間を生きるかの様な建築物を通して邂逅していく様を映画は描いている。時間の流れを独自に身体的に刻む建築や木々や河、それぞれの家族の関係に思い悩み建築の前に佇み対話する人々、様々な次元が映像空間上に折り重なり、どこか懐かしい場所に帰ったかの様な、ミニマルな舞台でありながら何か大きな物語にも触れる様な不思議な映画になっている。

撮影を担当したのはエリーシャ・クリスチャン(#3)。撮影方法に関して「コゴ監督は本当に映画の知識が豊富で、建築と映画は鏡の関係にあると言っていました。この映画のテーマの一つは、存在と不在です。我々は映画の殆どのショットで俳優達を撮影した後、同アングルで俳優達なしの空舞台を撮りました。背景となるコロンバスもまた映画の重要な登場人物であり主題であったからです。画面をシネスコ(1:2.40)ではなくアメリカンビスタ(1:1.85、シネスコよりも上下の空間が広いフレームサイズ)にしたのも、俳優だけでなく、建築との関係を含めてフレームを決めたかったからです。ココ・ナダ監督はワイドショット、ミドルショットで映画を構成する事に拘っていて、クローズアップを撮るのを極力避けたいと言っていました。ただ僕は映画を通して数カ所入れたほうが良いと考えていていました。時折入るクローズアップにより登場便人物の印象が強くなるし、建築と人間の顔をそれぞれ造形として関連付けて撮ることが面白いと思ったからです。それは光もありますが、カメラアングルと構図、被写界深度等それらの要素が一体となることで強い印象の映像を作るのです」と語っている。

またカメラワークについて「監督はカメラも極力動かしたく無いと言っていて、カメラが動くときは ”本当に良い理由がそこにある時だけだ”と言いていました。こうした撮影のルールをを撮影準備の段階で決めておくのは大切な事だと思う。それはある時は予算によって決まってしまうかもしれないし、またある時はどの様にこの物語を語るかという方法論によって決まり、それが固有の映画言語にもなる。そしてまた強い印象を残すためには、一度決めたルールを意識的に壊していく事も良いと思う。大変だったのは、これはミケランジェロ・アントニオーニ監督の影響でもあり、当初固定ショットで撮ろうと思っていたシーンなんだけど、ジンとケイシーがフェンス越しに初めて出会う場面で約36mの長さのレールを引いて、二人の歩きながらの会話を1カットのトラックバックで撮ろうと変更した時だ。二人が止まった状態をカットバックで撮ると恣意性が出過ぎるのではないかと思い、動きのある1カット撮影にしたんだけど、30m以上芝居しながら歩き予定された場所に良きタイミングで俳優達もカメラも止まるというのは難しかったよ。でも結果は上手くいったね。ワイドショットやミドルショットが多い映画だけど、ある人物の肩越しに別の人物を撮る映像も客観的になる気がして基本ルール上は避けた。コゴ・ナダ監督は繊細な眼と独特の感性を持ちながら素晴らしい共犯者であったよ」と語っている。(#4)

———————————————————————————————————————

「デッド・ドント・ダイ」(#1)

(ジム・ジャームッシュ監督 / 全国公開延期)

 

物語の舞台は、アメリカの田舎町センターヴィル。町に突如として湧いて来たゾンビ達に対し、警察署に勤めるロバートソン(ビル・マーレー)とピーターソン(アダム・ドライバー)達、葬儀屋のゼルダ(ティルダ・スウィントン )がその対応に四苦八苦しつつ、それぞれ格闘していく様がコミカルに描かれている。生前の性格を維持した状態で蘇ったゾンビ達(イギー・ポップ、サラ・ドライバー、キャロルケイン等)と警官、地元住人らのやり取りがおかしい。ジム・ジャームッシュ監督が撮った初めてのゾンビコメディで、映画にはジョージ・A・ロメオ監督へのオマージュが込められているという。

カメラを担当したのはフレデリック・エルムス撮影監督(「ブルー・ベルベット」「ワイルド・アット・ハート」「コーヒー&シガレッツ」「ブロークン・フラワーズ」「パターソン」)(#2)。幼少期に父親に買ってもらった写真カメラをきっかけに撮影に目覚め、自分で暗室を作ってフィルムの現像も自らやっていたと言う。後にニューヨーク大学大学院やアメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)で撮影を勉強し、AFI在学中に同級生のデイビット・リンチ監督(#4)と出会い「イレイザー・ヘッド」を撮り、一時的に同大学院で教鞭を取っていたジョン・カサベテス監督(#5)の撮影にも参加する事になる。「カサベテス監督の事は凄く尊敬していて、彼はユニオン(撮影労働組合)に縛られず緩やかな撮影隊を作りたがっていたしハリウッドとは違う映画のルックを求めていたから、初めは学生だった僕を「こわれゆく女」の撮影助手として、そして後に「チャイニーズ・ブッキーを殺した男」や「オープニング・ナイト」で照明もやるカメラオペレーターとして呼んでくれた。尊敬する監督と数ヶ月一緒に過ごし、彼の映画制作過程を間近で見るのは素晴らしい経験だった」と語る。ジム・ジャームッシュ監督との出会いは「突然ジムから電話がかかってきて”ナイト・オン・ザ・プラネット”の撮影を依頼されたんだ。5つの物語が違う国で、異なる言語で語られる、初めは凄く独特な映画の企画だなと思ったよ。でも数年前に「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を見ていてユニークな視点を持った監督で、皆に注目されていく人になるのではないかと感じた。だからジムが電話を掛けて来てくれたのは本当にびっくりしたし、それ以来友達で映画やMV含めて色々な作品を一緒に作っているよ」と語っている。

 

「デッド・ドント・ダイ」の撮影に関してフレデリック撮影監督は「実を言うと僕はゾンビ映画のファンではなっかったけど、ロメロ監督の作品には見ていたよ。ジムは違うジャンルの映画に挑戦するのが好きだし、ゾンビ映画を撮るための作戦を密かに練っていた。前作「パターソン」の撮影中にゾンビ映画を一緒にやりうとなった時に、尊敬するロメロ監督に最大限の敬意を我々のやり方で示そうとジムと話し合ったんだ。そしてビル・マーレーやアダム・サンドラー達の出演が実際に決まった時に、ジムは彼らに合わせて脚本を書き換え撮影に望んだ。ジムがゾンビ映画にどんなアプローチをするか本当に楽しみだったよ。撮影前も撮影中も僕らはロメロ監督の作品、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」などを沢山見た。それはゾンビが登場するシーンだけでは無く、人間の行いにより狂ってしまった世界、奇妙に立ち込める雲やおかしな天気、嵐、つまり世界が滅茶苦茶になっていく描写の参考にしたんだ。(#3,4,5) また撮影手法に関しては「そのチグハグになってしまった世界観を作るためにオールドレンズをリハウジングした様々な味を持つレンズを使って時に不思議なフレアを出したり、線の細かいネットやフィルターをレンズの前後に付けて柔らかくしたりして映像に統一感が出ないようにしたんだ(カメラは ARRI ALEXA-LF/ ProRes4444 Log-C収録。レンズはARRI DNA)(#5,6)。またこれは予算が潤沢ではなかったから夜のシーンも、DAY FOR NIGHTというやり方で昼に撮影する事にしたんだ(昼中、レンズで絞って映像を暗くし、青味を加えたりする事によって擬似の夜景に見せる。実際の夜の撮影ではないので大量の照明を必要としない場合が多い)。これは初期のゾンビ映画の撮影方法と一緒で面白い効果が得られたし、ロメオ監督へのオマージュになったと思うよ。またジムは、POOR MAN’S PROCESSという撮影方法を意図的にやりたいっと言って、撮影現場近くの倉庫を借りて車の走行シーンを車を止めた状態で撮ったんだ。(夜の設定のシーンで、車を停止させた状態で撮影し、車外にある撮影用ライトなど動かしたり色を変える事により車窓の移動感を出す技術。車外は暗幕で覆うか、暗い状態にして背景が動いてない事を見えなくしている。基本的にはグリーンスクリーン合成や、車外の映像をスクリーンに映写したりはしないシンプルな技法)(#7)。こちらも技術的に完成されていないチグハグ感が残る形にしているんだけどね」と語っている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

序文

(1) IndieTokyo メルマガ

 https://www.mag2.com/m/0001684150.html

『あとのまつり』

https://bit.ly/3c1yfAq

『天国はまだ遠い』

https://vimeo.com/206682021

Save The Cinema

https://bit.ly/39LwCpa

Save Our Local Cinemas

https://bit.ly/3bXsGmL

アップリンク

https://www.uplink.co.jp/cloud/features/2311/

出町座

https://motion-gallery.net/projects/demachiza2020

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――-

「コロンバス」

  1. https://columbus.net-broadway.com
  2. http://kogonada.com
  3. https://elishachristian.com
  4. https://bit.ly/2RfxbBd

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「デッド・ドント・ダイ」

(1) https://longride.jp/the-dead-dont-die/

(2)http://fredelmes.com

(3)https://britishcinematographer.co.uk/fred-elmes-asc-the-dead-dont-die/

(4)https://bit.ly/2RhTeXJ

(5)https://www.focusfeatures.com/news/interview_cinematographer_frederick-elmes

(5)https://www.nacinc.jp/rental/digital-cinema-camera/alexa-lf/

(6)https://www.arrirental.com/en/lenses/dna

(7)https://www.youtube.com/watch?v=o_0zawviWQI

 

 

<p>戸田義久

普段は映画・ドラマの撮影の仕事をしています。

https://vimeo.com/todacinema

これ迄30カ国以上に行きました。これからも撮影を通して、旅を続けたいと思ってます。趣味はサッカーで、見るのもプレーするのも好きです。


コメントを残す