映画『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』の配信が10月11日よりNetflixでスタートした。今作は5年以上前に終了したドラマ『ブレイキング・バッド』のその後を、主人公の相棒ジェシー・ピンクマン(アーロン・ポール)を主人公に描いた作品だ。『ブレイキング・バッド』は2008年から2013年まで放送されたアメリカのテレビドラマで、ゴールデングローブ賞など多くの受賞歴がある伝説のドラマとなっている。現在もNetflixでスピンオフドラマ『ベター・コール・ソウル』が製作、配信されている。

同じく大ヒットドラマを映画化した例として、2010年から全6シーズンにわたってイギリスで放送された『ダウントン・アビー』の映画版が今年イギリスで公開されている。こちらも『ブレイキング・バッド』と同じく日本でも放送され、人気を博したドラマだが、『ブレイキング・バッド』と同様にキャストを続投させ、ドラマの続編というかたちで映画化された。さらに2020年には大ヒットゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』の映画版もアメリカで公開される予定だ。

このように、2019年、2020年と大ヒットドラマの映画化の波が押し寄せているが、この流れについてIndieWireは、TVドラマが今日、映画の興行成績を支える主要な素材となっていることを指摘している。ここでは『ダウントン・アビー』、『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』を取りあげている記事の一部を紹介したい。(1)

 

 

作品のプラットフォームを変えて新しい形で打ち出すというのは、大衆向けのエンターテイメントの誕生と同じだけ古い戦略だ。1929~1946年まで、「The Goldbergs」というヒットを記録したコメディードラマが放送されていたことがある。1948年にはそれが『Me and Molly』として舞台化され、1949~1956年にはCBSのTVシリーズに、1950 年にはパラマウント・ピクチャーズの映画に、そしてついに1973 年には『Molly』として ブロードウェイミュージカルにもなった。

『ダウントン・アビー』は、『ミッション:インポッシブル』『スター・トレック』『21ジャンプストリート』といったTVシリーズを映画化した作品に仲間入りしたことになるが、それらは完結した映画シリーズとして制作された。しかし 『ダウントン・アビー』が特別なのは—そしてこれは『エルカミーノ』にも多少言えることだが—TV ドラマが映画のネタになると考えられるようになったはじめての例かもしれないということだ。特にすでに人気のある素材を使って物語を描くという、映画へ新しい需要があれば、映画の新たな可能性を大幅に広げることになるだろう。

『ダウントン・アビー』の映画化は、シリーズを新しいファンにまで拡大させるという安定したビジネスチャンスの典型となった。「このシリーズは大きな成功を収め、世界中に非常に多くのファンができた。」フォーカス・フィーチャーズの代表ピーター・クジャウスキーは語る。 「この映画は、親会社であるNBCユニバーサルにとっても『ダウントン・アビー』に新しいより大きな道を与える良い経営判断になる、という確信の下に製作が進められてきた。」

『ダウントン・アビー』は 『セックス・アンド・ザ・シティ』の戦略に倣った。多くの人から愛されているHBO制作のこのシリーズは、ドラマが2004年に終了した数年後に、ニュー・ライン・シネマが同じキャストでストーリーを継続させた。オリジナルシリーズのファンの心に訴えかけ、世界的に7億360万ドルもの収益につなげた。

しかしピーター・クジャウスキーはフォーカス・フィーチャーズが今後『ダウントン・アビー』の成功をまねて性急に他のTVシリーズを映画化することはないとしている。「もし映画を観に来る観客にとってそれが大きな意味を持つ可能性があるなら、私たちはいつでもそれに挑戦するだろう。」「今言えるのは 『私たちはそこで既に成功を収めていて、その領域は今後私たちがこれから開拓をすすめていくだろう』ということくらいだ。」

映画とテレビがますます友好的な関係で発展し続けていくと考えられる理由はまだ他にもある。一度限りの完結したコンテンツそれだけで孤立してしまう。ポッドキャストから新しい動画配信サービスQuibiに至るまで、主要なエンタメはこれから先数年にわたって展開できるシリーズ作品を始動させるという共通の目標を掲げている。

23作品もの映画を生み出したマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が最もわかりやすい例だ。現在10以上の TVシリーズや、さらに多くの作品をこうした方法で作品を展開している。スターウォーズの世界を舞台とした『ザ・マンダロリアン』(Disney+で配信予定のテレビシリーズ)に続き、MCUはいずれ、まもなく始まる Disney+の配信サービスでも主要なセールスポイントの一つとなるだろう。

同じように『ザ・シンプソンズ』の全30シリーズは、Disney+が配信を開始する11月12日から同配信サイトにて独占配信されることになる。このシリーズを制作したマット・グレイニングは、最近も2007年の映画『ザ・シンプソンズ MOVIE』 の続編がディズニーの下で制作されることに触れた。もしこのきっかけに人気に火が付けば、『ザ・シンプソンズ』の新作映画を目にする可能性も十分あるだろう。 (もしこの企画が進められたとしても映画が劇場公開されるかは不明である。)

「テレビと知的財産の価値が全盛の時代にあって、各スタジオのトップも映画『ダウントン・アビー』の成功に確かに関心を払っている」。エンターテイメント業界の調査を行っているExhibitor Relationsのジェフ・ボックは言う。「この映画は2000万ドル以下で作られており、低コスト、低リスクで大きな報酬を得られるという要素を持った、これまでにないほど望ましい状況を備えているし、スーパーヒーロー映画に興味のない観客を惹きつけていることになっている。」

「ドラマが終わると、そこには素晴らしいチャンスが開かれていると思う。映画がドラマと同じキャストで演じられ、ドラマが終わってから3~5年しかたっていないなら、それは人々が映画館へ行く絶好の機会となる。『ダウントン・アビー』がそうであったように、ファンは姿を現し、私たちははっきりとその様子を理解した。」彼は言う。「一般の人が映画を見に行くには素晴らしいきっかけとなると思う。スタジオもこのトレンドに乗っかって投資を続けるだろう—これは続編ものやスーパーヒーロー映画とは別の形で売り上げにつなげる可能性を示している。」

 

 

 映画版『ダウントン・アビー』は未だ日本では公開されておらず、2020年1月に公開が予定されている。一方Netflixで配信されている『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』は既に日本でも配信がスタートしているので、ご覧になった方もいるかもしれない。

視聴者行動分析サービスを提供しているニールセンによれば、『エルカミーノ』はアメリカでの初日から3日間の平均視聴者数(/分)は650万人にのぼり、初週に視聴したのは合計820万人だという。その上、そのうち260万人が10月11日、配信が開始された日に視聴していた。普段通りNetflix は視聴者数を開示していないが、確実にこの映画が成功を収めていると言えるだろう。 (2)

 

 

日本でもドラマが映画化されることは多く、今年公開された映画でもいくつか例を挙げることができるほどだ。現在公開中の『宮本から君へ』もその一つと言えるだろう。

海外ドラマに関して言えば、各配信サービスがオリジナル作品を制作したり、スピンオフを次々に制作したりと、その規模は拡大していると言える。

MCUのような映画のあり方に関しては、スコセッシが「テーマパーク」「映画ではない」などと発言したことで物議をかもしているが、こちらはスーパーヒーロー映画とは別にターゲットを絞りながらも、テレビで獲得したファンを着実に育てて劇場へと向かわせることで、確実なビジネスにつなげているようだ。

 

≪参考文献≫

(1)https://www.indiewire.com/2019/10/downton-abbey-television-films-analysis-1202179974/

(2)https://www.indiewire.com/2019/10/el-camino-ratings-netflix-viewership-stats-1202182912/

https://www.hollywoodreporter.com/live-feed/tvs-top-5-inside-future-walking-dead-content-chief-scott-gimple-1246882

 

<p>小野花菜

現在文学部に在籍している大学2年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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