5月31日より公開され数多くの注目を集めている映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(監督:マイケル・ドハティ)(1)。2014年公開の「GODZILLA ゴジラ」(監督:ギャレス・エドワーズ)の続編にあたり、ゴジラの他モスラ、ラドン、キングギドラが登場し地球の存続をかけて戦いを繰り広げる物語で、芹沢猪四郎博士役の渡辺謙も前作に引き続き出演している。監督のマイケル・ドハティー(「X-MENアポカリプス」等)は今回の制作にあたりリドリー・スコット監督の「ブレード・ランナー」や「エイリアン」などを参照にしたという。「美学的な観点から言って”ブレード・ランナー”を超えるSFは出てきてないと思う。彼らは映像が暗くなりすぎることや、フィルムの粒子が映像に出ることを恐れてなかったよね。僕が目指したのは、その雰囲気がある映像の質感を取り戻す事だった。デジタルの映像はクリーンで完成されているけれども、かつて暗闇や影、閃光によって表現できていた映像の緊張感を失いたくなかった。でも撮影監督のシャーと会った時、彼は自分で集めた映画のコマの写真集を持って来ていて、そこで見せてもらった写真の質感はまさに僕が求めていて、参考にしようとしていたものと同じだったんだ。奇妙な共時性を感じたけど、僕らは同じ映像言語を共有していたんだ」と語る(2)。撮影を担当したローレンス・シャーは「僕は監督たちが映画を細かく気にかけるように僕も映画に接して、準備期間も含め出来るだけ監督達のプレッシャーも減らしたいと思って来た」と言う。以前IndieTokyoで作曲の側面から同映画をご紹介したが(3)、今回は映像の面からクオリティを保ちながら、俳優の感情を撮り逃さないようにフレキシブルに撮影したというローレンス・シャー撮影監督の撮影手法を紹介したい。(4)(5)

ローレンス・シャーは1970年2月アメリカ・ニュージャージー州生まれ(6)。父の職業は医者であったが自然風景の写真を撮ることを好み、それがシャーのキャリアに影響を与えたという。「子供頃に父に写真カメラを買ってもらったんだ。パリに学校旅行で行った時に撮ったりしたんだけど、その写真を見た父が素晴らしいと言ってくれた。それが僕の写真への熱意に火をつけ、自信をもたせてくれた。大学では経済の勉強をしたんだけど、同時に映画の授業も取っていた。卒業後はロサンゼルスに行き、CMやミュージックビデオの撮影助手の仕事をしたり自分で映画製作予算を集めて、友人と脚本を書き長編映画を作り編集と配給もやった。およそ公開まで1本の映画に18ヶ月もかかったから映画学校に行って勉強するのと同じ事だったね」と言う。

撮影監督のキャリアとしては「宇宙人ポール」「ハング・オーバー」シリーズ等コメディ映画を中心に手がけてきたシャーだったが、2014年の前作「ゴジラ」(撮影:シーマス・マカヴェイ)に追加撮影のカメラマンとして参加したことがきっかけになったという。「ほとんどのカメラマンは自分はどんな内容でも撮影できるはずだと思っているけれど、ゴジラのようなSFのジャンルの撮影に経験のないカメラマンが呼ばれるなどかなり難しい事だ。僕の場合は前作に参加したことが契機になり、それがとても良い経験になっていた。この映画で僕たちがやりたっかたのは、観客が実際に映画に参加しているように感じて貰うことだ。今回の撮影方法としてはリハーサルをせず、俳優にも立ち位置を指定せず動いてもらって、2台のカメラを撮影用クレーンに乗せてその都度その都度カメラマン達が反応しながら追いかけて行った。1シーン1カット丸ごと通して撮影し、それを何度かカメラ位置やカメラワークを変えて繰り替えして、この映画の数多くのシーンでそれをやったんだ。僕らはジャズを演奏していたようだったよ。僕と他のカメラオペレーター達はお互いヘッドセット(イヤホンマイク)でコミュニケーションとりながら撮影し、個々のカメラが俳優の動きに応じててクローズアップして行ったり、回転したりしたんだけど、特機技師が持って来てくれたHHアタッチメントという特別な機材のお陰で、ステディカムや手持ち撮影のようなカメラを肩に乗せている感覚でクレーンをオペレートできたんだ」。

撮影の大部分で使われたカメラはARRI社ALEXA65で、PANAVISION社のC,E,G,Tシリーズ アナモフィックレンズを基本的に使っていたと言う。「撮影の哲学としては、なるたけ俳優のそばにカメラが位置し、映像が俳優と近しい関係を築く事だ。Cシリーズの60mmレンズは約50cmの距離でもフォーカスを合わせることができるからクローズアップにはとても重宝した。僕はどんな作品でもできるだけ映画的で真実味のある映像を作りたいと思って来たんだ。そして僕の撮影監督としての最大の関心事は俳優だ。なるたけ彼らのスペースを制限せず、素早く撮影して、彼らのエネルギーが放出し続けれるようにする事なんだ。彼らの感情こそがカメラワークの動力源になったり、照明を当てる理由になったりしているんだ」。またシャーは撮影監督という仕事に関して「周りの人からのプレッシャーより、重いものを自分自身にかけてしまうんだ。でもこれは世界で最も素晴らしい仕事だ。映画制作において、クリエイティビティーの正解はなく、十人十色の答えの出し方がある。撮影監督は嵐の真っ只中にいて、僕はそこにいるのが好きなんだ」と語っている。

(1) https://godzilla-movie.jp

(2) https://ascmag.com/magazine-issues/june-2019

(3) http://indietokyo.com/?p=11789

(4) https://variety.com/2019/artisans/news/the-hangover-joker-godzilla-king-of-the-monsters-1203196221-1203196221/

(5) https://www.lawrencesher.com

(6) http://www.cinematographers.nl/PaginasDoPh/sher.htm

<p>戸田義久 

普段は撮影の仕事をしています。

https://vimeo.com/todacinema

新作は山戸結希監督 「21世紀の女の子ー離ればなれの花々へ」、吉田照幸監督「マリオ AIのゆくえ」、ヤング・ポール監督 「ゴースト・マスター」、越川道夫監督「夕陽のあと」等。CM/ユニクロ/ 映画「かぞくのくに」「私のハワイの歩きかた」「玉城ティナは夢想する」/ ドラマ「弟の夫」「山田孝之のカンヌ映画祭」「東京女子図鑑」等



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