2019年の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の音楽は、ベアー・マクレアリーが担当した。マクレアリーは、音楽のアイデンティティを持つシリーズを引き受けた際に、この日本のレガシー、特に伊福部昭の貢献に敬意を払うことに多大な責任を感じていた。「オマージュ」という言葉では十分に表せないくらいに、初期のゴジラの映画を愛していたからだ。しかし、マクレアリーによれば、そのことと同時に、2014年のギャレス・エドワーズ監督による『GODZILLA ゴジラ』がシリーズにもたらしたスケールを保っている[#1]。

マイケル・ドハティ監督は、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が「モンスター・オペラ」であるという観点から、スコアについて話し合いをした。マクレアリーはその言葉を初めて聞いたが、その際に彼はピンときた。その言葉によって、彼はそれまで映画のように行っていたアプローチの方向性を変えたのである。すなわち、オーケストラやスコアの多くを占める声はオペラのように創作されている。そのアイデアは、それぞれのキャラクターへの声、芝居がかった感覚、映画を形作るスケールに反映されているのだ[#2]。

マクレアリーは、伊福部昭による「ゴジラのテーマ曲」と、古関裕而による「モスラの歌」を自身のスコアの中に組み込んだ。彼が目指したのは、「伊福部昭のスタイル」と「現代におけるブロックバスターの美学」を繋ぐことであった[#3]。
一方で、2014年の『GODZILLA ゴジラ』では、一度も伊福部昭のゴジラのテーマ曲が登場しない。『GODZILLA ゴジラ』の音楽を担当したアレクサンドル・デスプラは、独自にゴジラのテーマ曲を作曲したからだ。その点から『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の音楽と比較すると、構成が大きく異っているといえるだろう。エドワーズ監督はゴジラが登場する箇所を選別したが、その点においてモンスターの存在を伝えることは一層重要になったかという質問に対して、デスプラは以下のように述べている[#4]。

「まったくもってその通りです。映画のオープニングでゴジラを見ますが、それから長い時間にわたって見ることはありません。すぐにテーマ曲を差し挟むことで、音色を配置します。テーマ曲とリズムが戻ってきたとき、ゴジラが周辺にいたり、移動してくるのが分かります。その通りなのです。そのことはとても扱いにくかったのです。ゴジラが戻ってくる前の長い期間には、ムートーに取り組まなければなりませんでした。だから、早い段階でゴジラのテーマ曲を差し挟みました。」[#5]

【『GODZILLA ゴジラ』における音楽のメイキング】

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で、マクレアリーはモナークや4体のモンスター(ゴジラ、モスラ、ギドラ、ラドン)にテーマ曲を与えた。彼は、ゴジラには伊福部によるテーマ曲、モスラには小関によるモスラの歌を使用し、ギドラとラドンには新たなテーマ曲を作曲したことを詳細に説明している[#6]。

「テーマ曲のスコアについてですが、4体のモンスターがいます。モナークはそのモンスターに対処する準軍事的な組織ですが、テーマ曲が必要でした。さらに、人間のキャラクターがいます。わずかな他のテーマ曲がありますが、それらは、6つの最も大切なテーマ曲なのです。
映画を通して、それぞれの4体のモンスターにテーマ曲を持たせることを決めると、問題をうまく避けることができました。テーマ曲をどのようにするのか、古い数々のテーマ曲からひとつだけを使うのか?私は、(新しいテーマ曲と過去のテーマ曲を)半分ずつに分けて使うことにしました。ゴジラには、古典の伊福部のマーチと大きくて低い金管楽器のファンファーレを使っています。それらには、過去とゴジラに付随している楽曲から、2つのテーマ曲の要素が含まれています。モスラには、(古関裕而が作曲した)モスラの歌を使っていますが、極めて優美な声を取り入れました。私は自分のスタイルを(過去の)両方のテーマ曲に取り入れるために、自分自身を指し示すオーケストラ演奏や音を加えました。そして、ギドラとラドンには、私が作曲した独自のテーマ曲があります。非常に着想を与えてくれて、具体的な2つのアイデアを思いつきました。私がそれぞれのモンスターに心から使いたいと思うテーマ曲となったのです。それは、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』への哲学的なアプローチとともにあります。私は、レトロなスコアになってほしくはなかったのです。2019年におけるブロックバスターのスコアのサウンドを心から望みました。最も大切なキャラクターへのテーマ曲のマテリアルが過去のレガシーを持つことは、よくあることです。しかし、私の目標は… もし、誰かがそれらのテーマ曲を知らなければ、そのテーマ曲が古い音楽としては目立たないということです。ゴジラのマーチを聞いたことがない人に『2019年に作曲されたすごくいいテーマ曲だね』と思ってもらいたいのです。」[#7]

スコアには、日本の仏教僧による詠唱、さらに、力強いパーカッション、世界各国からの文化的に様々なソリスト、東京を拠点とする太鼓奏者たちによるヒロイックな喉音の発声が取り入れられている。太鼓奏者たちは太鼓を演奏せずに、声を使って伝統的な掛け声を行った。また、マクレアリーによって書かれた文章のサウンドスケープが織り込まれている。それは古代バビロニア語に翻訳され、スコアの中で合唱団によって歌われている[#8]。
マクレアリーは、スコアにおいて気に入っている音楽のシーンを尋ねられると、ひとつはブルー・オイスター・カルトのカヴァー楽曲であると述べたが、もうひとつの箇所には自身が文章を書いた合唱曲を挙げている[#9]。

「スコアにおいて、私が文章を書いた合唱曲があります。私はすべての文章を書きましたが、バビロニア語に翻訳されています。最も古い言語で、今日において学者たちは、その言語が話されていたときに、どのような音であったのかを再び作成しています。バビロニア語の専門家を見つけ出し、私は合唱曲を書きました。それは突然現れます。太鼓奏者の歌手たち、または詠唱する仏教僧、または極めて優美な合唱団から突然取って代わるのです。それは、文章の音楽です。観客の中で誰も理解していないと私は思いませんが、たとえそうであっても、その言葉が入ってきます。きっと、私のバビロニア語の専門家はその言葉を理解してくれています。しかし、それにはインパクトのレヴェルがあります。本当に重要なことが起こっていると伝えるのです。効果音が消失するミックスでの数少ない箇所のうちのひとつです。脳が認識する出来事は非常に騒がしいので、映画の効果音は静まります。そして、合唱とともに取り残されます。自分にとって、この瞬間とは、『ゴジラ』の映画の中に存在しているということなのです。それは思いがけないことではありません。『シン・ゴジラ』において数箇所の瞬間を考えた際に、その瞬間は予期できます。『シン・ゴジラ』には、このような瞬間があるからです。ゴジラの側面には、そのレガシー、美しさ、詩的な神秘主義があるのです。私は、大きなブロックバスター、レンジェンダリー/ワーナー・ブラザースの映画において、そのことが大好きです。その瞬間はそこにあります。そして、たぶん、この映画において自分が最も誇りに思う瞬間です。」[#10]

【『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』における音楽のメイキング】

参考URL:

[#1][#2][#6][#7][#9][#10]https://musiquefantastique.com/further-examinations/bears-massive-monster-opera/

[#3][#8]https://www.forbes.com/sites/joshweiss/2019/05/23/take-flight-with-rodans-introductory-theme-from-godzilla-king-of-the-monsters/

[#4][#5]http://www.filmmusicmag.com/?p=13888

https://www.bearmccreary.com/blog/blog/films/go-go-godzilla-reimagining-the-blue-oyster-cult-classic/#blog/blog/films/go-go-godzilla-reimagining-the-blue-oyster-cult-classic/

https://www.bleedingcool.com/2019/05/24/bear-mccreary-chats-godzilla-netflixs-rim-of-the-world-interview/

https://screenrant.com/godzilla-2-king-monsters-michael-dougherty-interview/

https://www.rollingstone.com/music/music-news/system-of-a-down-serj-tankian-blue-oyster-cult-godzilla-826686/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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