日本では毎年たくさんのドキュメンタリー映画が公開されています。しかし、アーカイヴはどうなっているのでしょうか。例えば、TSUTAYAのDVDコーナーはほとんどが物語映画で占められ、ドキュメンタリー映画は隅の方に押しやられています。また、○○特集、○○映画祭などと題されて行われる、過去の映画を見直す試みもドキュメンタリー映画の場合は少なく感じます。ドキュメンタリー映画は誰が語り継ぐのでしょうか。

 

アメリカでは、ドキュメンタリー映画保存会議というものが開かれました。この会議はIDA(国際ドキュメンタリー協会)とDOC NYCによって二日間、ニューヨークのIFCセンターで行われました。今回はこの会議についてIndie Wire誌が纏めてくれた記事を元に紹介したいと思います。

 

DOC NYCのThom Powersによれば「アーカイヴの仕事をしている人とドキュメンタリー映画の監督は十分に密なコミュニケーションが取れていない、だからこのギャップを埋めたい」ということが開催目的のひとつです。しかし、今回の会議は少し違うようです。「何故なら、作品そのものの保存に議題があるだけではなく、作品と観客の間にある法的な問題、あるいはどうしたらきちんとオーディエンスが作品を自由に見ることが出来るのか、ということが問題になるからです。」つまり、これまでのように作品そのものが単に修復されることだけでなく、きちんと上映されて紹介する場所や、それをするときに生じる権利関係などを含めた広い意味でのアーカイヴ問題が議論されたようです。

 

「私たちはそれぞれ自分自身でアーカイヴをしていかなければなりません。これは私自身が、身を痛めて実感した教訓です。自分の生活と映画監督としてのキャリアは並行しているのです。(…)自分の作品が如何に守られないといけないか、というみなさんの話を聞いて、私はこの部屋にいるほとんどの人が私と同じ経験をしているということに賭けています。」(Sandra Schulberg, IndieCollect)

 

映画監督はいまや単に作品を作るひとに留まりません。それを如何に見せるか、ということを含めてキャリアと呼ぶべきものなのです。という呼びかけ。そのためには、現在広まっているシステムを有効活用することが望ましいと思われます。そのシステムとは言うまでも無くインターネットです。

 

インターネットを介した制作手段であるクラウドファンディングは新しく作品を作ることだけでなく、修復にも有効であるということも語られました。「私がこれまで見てきたフィルムの修復プロジェクトは全て上手く行っています。思うにKickstarter(クラウドファンディングのサイト)は大きなプラットフォームです。もし修復する権利があるなら世界に向けて、呼びかけることが出来ます。いくらコストがかかるか、などと。また、お客さんがいるならそこから修繕費を回収することも出来ます。」( George Schmalz, Kickstarter)

 

そしてそのインターネットは新しい観客作りを可能にします。「これまで何人かの映画監督と自分の映画のアーカイヴをサイトに載せることについて話し合ってきました。私が思うに、考えるべきことはどこに作品が置かれるかです。ウェブは違った領域の違った観客に情報を送り、その観客全員が出会える場所を築くことが出来るのです。そのようにして映画が広がる流れを作ることが可能なのです。」(Jeremy Boxer, Vimeo)インターネットによる観客作りは、自発的に広がっていくネットワークを作ることでもあるのです。

 

フィルムが修繕されてもそれを見るひとがいなければ、観客にとっては存在しないのと同じです。どれだけドキュメンタリーが過去の真実を伝えるものであっても、それを見て伝えていくネットワークが存在しなければ、その使命は果たされません。

 

インターネットによる可能性がドキュメンタリー分野でも活発に議論されている、ということは私たちにこれからどのような可能性をもたらしてくれるのでしょうか。

 

元の記事

http://www.indiewire.com/article/5-key-takeaways-from-the-documentary-film-preservation-summit-20150401

三浦翔
アーティクル部門担当、横浜国立大学人間文化課程3年、映画雑誌NOBODY編集部員、舞踏公演『グランヴァカンス』大橋可也&ダンサーズ(2013)出演、映画やインスタレーションアートなど思考するための芸術としてジャンルを定めずに制作活動を行う。


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