近年の #Metoo運動により二人のコメディアンが告発され、彼らはショービジネスからしばらく姿を消していた。
ショービズの最前線で活躍していた二人だったが、メディアに批判され、多くのフォロワーを失った。
騒動から1年以上が経った今、彼らは復帰を目指している。
特に日本のマスメディア等では一括りに語られがちだが、その背景には大きな違いがある。

アジズ・アンサリはインド系の両親に育てられたアメリカ人、Netflixで主演を務めた”Master of None”やデビュー作”Parks and Recreation”などで知られている。彼の著書「当世出会い事情―スマホ時代の恋愛社会学」は日本の性風俗を詳しく言及していることで知られ、上記タイトルで出版されている。
彼の有名なジョーク”Dumb People at Bars”はこの一言で始まる。「バーには2種類の男がいる、酔ってセクハラをする男と、僕みたいにバーの隅で友達とゴニョゴニョ話している男だ」
このネタではデートレイプを元にナンパ男達がいかに軽率で、また危険かを訴えている。

昨年、#Metoo 運動をエンパワメントするWebサイトBabe.netである女性による訴えが掲載された。
その内容は、アジズが女性のためらいに気づかず合意のない性行為いわゆる”デートレイプ”に及んだとするものだった。
女性の訴えは広くメディアで取り上げられたものの、 #Metoo には数えられないとして女性はバックラッシュに遭った。
その一連の流れをまとめた記事を以前書いたので、詳しくはそちらを参照していただきたい。
「今日までの#MeToo これからのTime’s Up」

先月の中旬、ニューヨークのヴィレッジアンダーグラウンドで開催されたコメディにアジズ・アンサリが出演した。
18,000人が席の予約を試みて、そのうち200人が抽選されたという。観客の一人のVULTURE誌のレポーターによると、路上で声をかけてきた男がハサン・ミンハジとアジズを間違えていたことなどネタにしていたという。
以下に同誌の記事を訳す。

 ”アンサリは椅子に座り、沈んだ声で観客に語りかけた。Babe.netでの告発にまつわる「全てについて」なぜ話さなかったのか、2つの理由があったという。一つは「口にするのが恐ろしかった」「動揺し、傷つき、そして恥ずかしかった。なによりこの女性をこんな気持にさせたことで、ひどい気持ちになった」アジズは震える声で続ける
「1年が経って、進歩していたらいいけど。とても考えさせられたから、自分が少しでも良い人間になっていたらいいけど」

一方でルイC・Kはどうだろうか。

2017年11月、彼の監督作品”I Love You, Daddy”プレミア公開中止が発表された。
その数時間後、NewYork Times誌により、ルイC・Kによりセクハラを受けた女性らの声が掲載された。
彼と仕事をともにした女優たちが口を揃え”自慰行為を見せつけられた”というものだ。

ジュリア・ウォロフ、ダナ・ミン・グッドマンがTimes誌に証言したコメントによると、
2002年、コロラド州アスペンで行われたルイの舞台後に彼女たちは彼のホテルへ呼ばれ、
突然、性器を取り出してもいいか聞かれたという。
彼女らによると、ルイは服を全て脱ぎ自慰行為をし、二人はその場から自由になったという。
2003年、ルイと電話で話していたアビー・シャトナーはルイが受話器越しに自慰行為を始めたのを聞いたという。
「私は絶対に”それ”をそそのかすことはしなかった」と彼女はTImes誌に語った。
2005年、彼と共演をしたレベッカ・コリーによるとルイは「ここで自慰行為をしてもいいだろうか」と尋ねたという。

本件に関してルイC・Kはコメントをしている。
「起こったことに間違いはないが、事前にお願いしたことも間違いはない」
自身のTVシリーズ”Louie”では、
右派キリスト教系団体による”自慰行為禁止キャンペーン”に反対するコメディアンというエピソードがある。
多くのコメディアンが避けるような話題もジョークにするのが彼のコメディスタイルだ。

アジズ・アンサリ、ルイC・K、二人は#Metoo運動で並べて語られる。
アジズに比べるとルイのジョークは過激で、それゆえに炎上しやすい性質はある。
しかしルイの場合は、職場環境で女性に強要をしており、パワハラを孕んでいる。
彼女たちは自身のキャリアを手に取られ、我慢を強いられたのだ。
こうした権力構造を変える力が#Metoo運動にはあり、そして変えなければいけない。

多くの被害者が無視されている現状を僕たちはいつまで許せるだろうか。

ルイC・Kは2018年8月にスタンダップコメディアンとして復帰をした。当時の記事によると、
ショーの撮影をした場合はただちに退場させられるという条件付きのものだったという。

同年12月、彼は銃乱射事件に関するジョークを言った。
 ”乱射事件のあった高校に通っていた生徒だろうが、お前自身には全然興味ないよ。
 どうしてそんな理由で、その生徒の話を聞かなきゃいけないんだ?
 どうしてそんな理由で、その生徒に興味を持たなきゃいけないんだ?
 その生徒は太った他の生徒を突き出したから撃たれてないんだろ”

先月、あるビデオがネットに投稿された。
男がマイクの前に立ち語りかけている。
 ”最近、あるコメディアンがおもしろいジョークを言ったんだ。それは子供が銃で撃たれた話だった。
 その時思った、うーん、子供が銃で撃たれたジョークか。俺も出来るな。こんなのはどうだろう。
 バレンタインの日、ある子どもが学校に着いて父親と別れた。その数時間後に銃で撃たれた、とか。
 彼は18歳になる頃だ、もし死んでいなければ。これはジョークじゃないよ”

このビデオはコロラド州のパークランド銃乱射事件で息子を失った父親により投稿された。
昨年12月のルイC・Kのコメディに対する皮肉が込められている。

アジズ・アンサリのコメントから感じられるのは、相手の女性に対する配慮だ。
アジズはある男友達がデートの度にデートレイプの事を思い出し、考えさせられると言っていたことを引用した
 ”もし今回のことが、自分だけでなく、他の男たちにも考えさせたなら。更には彼らに少しでも思慮があり、気づきがあり、もうしばらく今回のことを考えてくれるんだったら、その時には誰かの気持ちが少しはましになるんじゃないかな、そうなったらいいけど”

二人のコメディアンは過去に素晴らしいTVシリーズを制作し、現代の悩める男性たちを鋭く描いた。

Metoo運動が勢いづいているアメリカでのカムバックは容易では無いかもしれないが、こうした出来事から学び、生み出される作品が私達の目に触れることを期待して待ちたい。

VULTURE 1
https://www.vulture.com/2019/02/aziz-ansari-sexual-misconduct-allegation-new-york-village-underground-show.html
VULTURE 2
https://www.vulture.com/2017/11/five-women-accuse-louis-c-k-of-sexual-misconduct.html
VULTURE3
https://www.vulture.com/2017/11/louis-c-k-on-sexual-misconduct-claims-stories-are-true.html
CBS NEWS
https://www.cbsnews.com/news/state-of-the-union-address-parkland-shooting-father-comedian-louis-c-k-mock-video/
YouTube “Stand Up Against Gun Violence”
https://www.youtube.com/watch?v=TERPmtOw1e0


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