[717]コロラドの闇歴史に迫る『ブラック・クランズマン』と日本人襲撃事件


ロッキー山脈を西に抱え、緑ときれいな水に恵まれた風光明媚なまち、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングス。ビール好きの人間には、世界最大級を誇るクアーズの工場がある場所として有名だろう。スパイク・リーの新作で来年3月に日本公開が決定した『ブラック・クランズマン』はこの土地を舞台に起こった実在の事件をモデルにした映画である。

1978年にコロラドスプリングス警察史上、初めて警察官として採用された黒人(アフリカ系アメリカ人)ロン・ストールワースの9カ月に及ぶKKKへの潜入捜査を描いた物語。署内ですら白人至上主義が横行するなか、ロンは新聞で見つけたKKK(クー・クラックス・クラン)の団員募集広告に「過激な人種差別主義者の白人」を装って電話をかける。

この「電話」というのがポイントだ。ほぼ同じ時期にハリウッドのグローマンズ・チャイニーズ・シアター近くに和中折衷の超人気レストランがあった。クリント・イーストウッドがフォードで乗りつけ、ロッド・スチュワートが夜な夜な違う女性を伴って現れた店。ネットの発達していない時代だから当たり前だが、席の予約は電話のみで受け付けていた。店側は、電話口のしゃべり方で相手が「黒人」であると判断した場合、空席があっても「満席お断り」をしていたという。唯一、入店を許された「例外」がシドニー・ポワチエであったというのも当時のハリウッド界隈の状況を象徴するようなエピソードである。

日本公開は未定だが、以前World Newsで取り上げたミュージシャンのブーツ・ライリー初監督作『Sorry To Bother You』でも「電話トリック」が使われている(World News[640] http://indietokyo.com/?p=8323)。テレコミューターとして働く黒人青年が売り上げを伸ばすために「白人の声色」を使って案内を始めたところ、一躍トップセールスマンに躍り出ることになるという設定だ。ちなみにライリー監督はこのリー監督の『ブラック・クランズマン』に対しては批判的な見解を示している(World News[675]http://indietokyo.com/?p=8909)。

『ブラック・クランズマン』で白人の声マネを駆使したロンは見事、KKK幹部の関心を買うことに成功するが、「実際に会いたい」といわれ行き詰まってしまう。そこで頼ったのが、同僚でユダヤ系白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)であった。彼に実際の潜入を任せ、ロンは情報収集など後方支援に回る。連絡手段は固定電話のみという世界、急な危機を知らせようにも方法がないというアナログなスリルが随所で効き、物語を盛り上げる。

そもそもなぜコロラドスプリングスなのか。KKKの興りは南北戦争終了後のテネシー州であったといわれている。合衆国の押し進める占領統治(レコンストラクション)に対抗して結成された集団だが、メンバーは当時の流行であった「秘密結社」の形をとり、ボール紙と白布でつくった簡単なマスクを身につけていた。彼らの主張にはのちに反奴隷解放が加わり、運動は黒人への威嚇行動、さらには過激な暴力行為に発展していく。この時期の運動は「第1期KKK」とされ、コナン・ドイルがつくりだした名探偵シャーロック・ホームズの物語「オレンジの種五つ(『シャーロック・ホームズの冒険』収録)」では、この第1期KKKを終焉に導いたという架空の人物が絡む事件が描かれている。遠く離れたイギリスの地にもKKKの名は知れわたっていたことがうかがえる。

レコンストラクション運動の終息とあいまってKKKの活動はいったん下火になるが、第一次世界大戦勃発直後に「第2期」が興る。頭の先からつま先までを覆う特徴的な白装束は、この時期に完成されたとされる。第2期KKKの活動は幹部の暴走(女性への暴行)などが明るみに出るにしたがって急速に力を失い、第二次世界大戦後に「第3期」が始まる。『ブラック・クランズマン』で描かれるのは、この第3期の部分である。第3期KKKの活動を支えた州の一つがコロラドだ。当時の州知事が公然とメンバーである旨を明らかにしていたことからも、関与の深さがわかる。秘密結社という性格は失われておらず、劇中でも集団の最高幹部をあらわす位として”Imperial Wizard“という用語が登場する。その他の職位を見てみると、Grand Exchequer、Grand Dragon、Great Titanといった「中二病か」という称号がずらりと並ぶ。大の大人が至極真面目にこのような称号で呼び合っているのは滑稽に見えるが、当の本人たちはまぎれもなく真剣であるところに不気味さを感じる。

今でこそ「美しいリゾート地」として知られるコロラドスプリングスには、こうした負の歴史があった。第3期KKKが力を失ったのち、デンバーをはじめとするコロラドの各都市では人権意識の高まりと、差別を許さないという風潮が大きく育つことになる。そこへもって、市民に大きな衝撃を与えた日本人絡みの事件が1990年に勃発した。当時、帝京大学がデンバーに持っていた分校、ロレットハイツ大学に在学する日本人学生6人に対し、地元の若者4人が野球のバットなどを用いて殴る蹴るの暴行を加えたという事件である。幸い死者や深刻なけがを負った者はおらず、被害学生の大半は1日の入院で復帰している。事件後は日本からもマスコミが取材に訪れ、久米宏時代の『ニュースステーション』などでテレビ報道もされているため、記憶にある人もいるかもしれない。

若者たちは地元ではギャングと見なされており、ほかの集団と小競り合いを繰り返したり、窃盗や器物破損をはたらくなど、トラブルメイカーであった。主犯格のクロース兄弟のうち、弟のほうがKKKの連絡先とカードを持っていたため、この事件は「ヘイトクライムだ」と物議を醸すことになる。実際、葬ったはずの黒歴史であるKKKの名前を再び目にしたことで、市民の間には動揺が広まり、裁判の行方に注目が集まった。故意の殺人を含めた罪に問われた兄弟には75年の禁固刑という判決が下りている。事件の詳細はジャーナリストの青木冨美子氏によって『デンバーの青い闇』という本にまとめられている。現在は廃刊となっているが、古本などで入手は可能。襲撃事件自体もちろん興味深いが、大学設立の経緯も面白い。KKKとコロラドの関係、白人の貧困といった当時の周辺事情も当事者証言に基づき浮かび上がっており、アメリカの闇が垣間見える。『ブラック・クランズマン』の雰囲気をより楽しむためにお勧めの一冊だ。

主役の警察官ロンを演じるのは、デンゼル・ワシントンの息子のジョン・デヴィッド・ワシントン。ドウェイン・ジョンソン主演のコメディドラマ『Ballers/ボウラーズ』にプロフットボーラー役で出演し、本作が映画デビュー作となる。警察内部での冷遇と戦いながら相棒の刑事と邪悪な組織に挑む姿を、時に皮肉たっぷりの映像を差し挟んでスリリングに送る『ブラック・クランズマン』はスパイク・リーらしさを存分に味わえる快作。2019年3月TOHOシネマズ系にて順次全国公開の予定。

《参照》

https://en.wikipedia.org/wiki/Ku_Klux_Klan_titles_and_vocabulary#Membership

https://www.chicagotribune.com/news/ct-xpm-1990-11-18-9004050509-story.html

http://articles.latimes.com/1990-12-18/news/mn-6772_1_japanese-students

『デンバーの青い闇―日本人学生はなぜ襲われたか』https://www.amazon.co.jp/dp/4103732024/ref=cm_sw_r_cp_tai_f-LaCbGCYF130

小島ともみ

80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。

 

 


コメントを残す