現在の中国映画は日々躍進している。

著名なところでは、第6世代と呼ばれるロウ・イエやジャ・ジャンク―、ワン・ビンだが、それ以降の世代は特出した人材、傑作の誕生がなく、現代中国映画においては発展途上の時期にさしかかっていると言えるだろう。

ジャ・ジャンクーは、1117日より開催されている第19回東京フィルメックスでもクロージング作品に最新作「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」の日本初上映が予定されており、人気、評価、共に高い監督だ。

また、ワン・ビンは長編作品「無言歌」やドキュメンタリー「苦い銭」といった映画祭での受賞歴のある作品を手がけているが、政治的な弾圧にも屈服しない姿が素晴らしい。個人的には山奥に暮らす貧困の家族の姿を描いたドキュメンタリー「三姉妹 雲南の子」が大好きなのだが、人間も動物も共に暮らす、日本からみれば昔ながらの生活スタイルを過酷な事情があったとしても日々生活していく幼い三姉妹の姿が描かれている。子供たちの息づかい、無邪気さと共に、苦しいなかの真剣な表情も美しかった。

新人ならば、「凱里ブルース」で話題をさらったビー・ガンが注目株だろう。この監督もまた、最新作「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」が東京フィルメックスで上映予定だ。

こうした流れで、今回は10月に開催された釜山国際映画祭で注目を集めた中国の監督たちを紹介したい。

**Yang Pingdao  ヤン・ピンダオ**

ヤン・ピンダオは1980年生まれの広東省出身だ。National Academy of Chinese Theatre Arts NACTA)を卒業後、監督、脚本、そして作家として活動し始めた。彼の処女作であり、ドキュメンタリー「River of life」は世界の映画祭で数々の賞を受賞した。「My Dear Friend」はフィクションとしての映画デビュー作である。​

ストーリーとしては、中国南部の田舎に都会育ちのセクシーな女性がやってくるところから始まる。彼女は恋人を探すために、彼の祖父の家にたどり着いたのだ。彼女の偉そうな態度に誰も反応を示さず、恋人を見つけることもできないが、代わりに彼の祖父が60年もの間隠していた秘密の友情に出会うことになる。長い間ずっと言語障害があった秘密の友達は、死が近いのを悟り、祖父に葬儀の手続きを頼むのだが。。

ピンダオのデビュー作は、都会的な女性の登場により、現代的価値観と伝統的価値観の合間で苦しむのも忘れてしまうくらい、早く変化する現代中国社会に生まれる感情や回顧の想いを描き出す。

ポスト・プロダクション・ファンドの出資も一部受けて製作されたもので、商業作品にはない、中国のインディペンデント映画の価値観や興奮を再び呼び覚ます、魅力的な作品になっているようだ。

The film stageは以下のように述べている。

「この東洋的でミステリアスな作品を徹底的に楽しむには、中国的な死や生まれ変わりに興味をもつ意志は必要だが、作品のもつ催眠的な魅力に抗うのは難しい。

都会育ちのジンジンは中国南部の山々に囲まれた村にたどり着く。目的は、彼女を打ちのめした恋人ヤン・ユイミンに会うためだが、果たすことができなかった代わりに、彼の祖父シウミウとその妻と知り合う。そしてこの老夫婦に近づくうち、シウミウの古くからの友人 チャン・シェンと出会う。

彼はいつもしかめつらで、シウミウと年齢が近い、聾唖の男性だ。彼は言葉を発することもできないし、普通に見ることもできない何かに苦しめられているようだ。

映画は、ジンジンがこのふたりの紳士と一緒に300キロ離れた、チャン・シェンが来たと思われる町に出かけることに決めてから、全く違う色を帯びた、魅力的な展開をむかえる。

次に何か起こるか、語ってしまうのはものすごく野暮なことだろう。期待できるのは時間軸の混乱、存在するかあやふやな、古代的な神話やキャラクターの登場による、現実の消滅だ。

記憶というものは、創作されたものと同じくらい頼りにならないもので、時間はとても繊細な意味をもつ。そのすべては、広大な死の概念を理解するのに何とか役立つものなのだ。

この作品が、作家、映画監督であり、ドキュメンタリー出身のヤン・ピンダオの劇画作品デビュー作であるのは驚きである。

作中の霧の深い尾根や伝統にのっとった葬列に表現される、中国南部の独特の景観や文化に対する鋭い目線があるかと思えば、また一方で、理論性を捨ててしまう。ヤン・ピンダオは神秘性を世界で最も自然なものごとのように描く。何かものすごいことを証明しようと特殊効果を用いなくても、時間はただそこに存在し、すべては他に類を見ない物語の一部なのだ。この魔術的なシュールリアリズムは、渦の中に巻きこまれたような映画的経験ができるだけでなく、夢のようなエッセンスとして、悲しいシーンに希望を与える。

登場人物に関しては、シウミウとチャン・シェンを演じる俳優たちが素晴らしい。展開があやふやになっていっても、彼らの演技は地に足がついており、彼らの顔つきや目に表れている。長年の温かい友人関係を静かに裏切ることになるのだが、そこにこの作品の肝がある。

撮影監督のロン・ミンヤンの白黒の映像はそこまで驚くべきものではないが、ものごとを単純に描くところから、難解なパズルのピースをひろうように解明していくことに終始する。ベテランの音楽家ディクソン・ディーの音楽は、自由に魂から表現される。ギザギザとした音を加えるベースラインは、時間を超越している息づかいのようだ。

本作は、ややスタートアップに時間が必要で、終わりには明快な答えを残そうとはしない、トリッキーな作品だ。だがその報いに値するくらい、感情的で脳内を活性化するような、スピリチュアルな経験ができるのは間違いない。」

個人的に何より心を奪われたのが、劇中のモノクロの謎めいた映像たちだ。まるで日本の有名なゲーム「サイレントヒル」から出てきたかのようだ。後にアメリカで映画化もされているゲームだが、そのミステリアスさに、どうやって撮影をしたのか、とても興味を持った。内容は精神性や宗教観が描かれ、難解さもあるようだが、「ブンミおじさんの森」などで有名なタイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンを思い起こさせた。そしてそうした雰囲気と相反するような、心温まるタイトルのセンスも印象的だ。ぜひとも日本で観たい作品である。

 

My dear friend

監督・脚本 ヤン・ピンダオ

音楽 ディクソン・ディー

主演  ロバート・ロウ、ギャビー・ソウ

(中国/ 2018/ DCP/ 106min) 日本公開未定

 

 

**Song Wen  ソン・ウエン**

ソン・ウエンは映画監督であり、本作が監督デビュー作である。彼は中国のサンダンス国際映画祭とも評される、若手映画監督にフォーカスした中国の映画祭の創設者のひとりでもある。

ストーリーとしては、ロンは同級生の友達たちとつるみながら若さをやり過ごしているが、ドンドンという若い女性が現れたことで、彼らは皆恋に落ち、友情関係がゆらぎだす。そしてドンドンがあいまいな形で姿を消したことから、彼らの友情は終わりを迎えてしまう。

数年後、彼らは再会するが、若さが取り戻せないように、友情も元に戻ることはないと気づく。本作の英語タイトル、「 The Enigma of the Arrival(謎の到着)」はミステリアスである。この作品は、女性の存在と失踪によって人生を変えられる男たちの物語だ。彼らにとって女性は永遠の謎であり、観客にとっても女性というのは、突然現れ、人生を揺るがし、みたこともない世界に引き出す魅力的なものの象徴だ。本作にとって女性が魅了される対象ならば、映画そのものに魅了されるシネフィルにとって、本作こそが魅了される対象である。

Asian movie pulseでは以下のように述べられている。

「作品は、日本の温泉旅館のようなところで男たちが会話しているところから始まる。彼ら4人は言い合いをしているようだ。観客はTVドラマ「Law Order」の始まりのように何が起こっているのかわからず、混乱させられる。時代がいつでどんな人物たちなのか、まだクリアになっていない。

少しずつ、私たちはこの4人の男たちが以前は仲の良い友達だったことを理解する。彼らはドンドンという女性に出会い、彼女は失踪する。4人のうちのメインキャラクターであるロンは何が起こったのか知ろうとし、仲間たちの輪がゆっくりと崩れていく。

最初のうち、この作品は探偵もののように思える。私たちはドンドンに何が起こったのか、知りたくてたまらなくなるからだ。しかし実際は本作の主題はそちらではない。かつては深い絆で結ばれた男たちが、暗黙の出来事をこえていく成長の物語であり、ノスタルジックな雰囲気がある。

 

監督のソン・ウエンは、中国のアート系作品を扱う著名な映画祭の設立者のひとりだ。そういった事実から、本作がまさにそのままの方向性であるのがわかる。つまり映画のあり方を問うている。美しく目をみはる映像があり、カラー、モノクロ、ホワイトの色がある。ロングショットもあれば、ミディアムショット、クロースアップもある。ソン・ウエンは映像で遊んでいるのだ。それによって一貫性がないと感じるとしても、シネフィルであればそれすら楽しんでしまうだろう。人生、あるいは映画に何を求めていくのか、という問いかけは作中に多数見受けられる。例えば冒頭のシーンで4人のなかの1人、サン・パイが言う台詞は”人生は創造と現実のはざまでプリズムのように浮かんでいる。”というものだ。

4人を演じる俳優たちは親近感をもちやすく、人間味あふれるよう、それぞれの役柄を演じている。それが最も重要なことだ。メインキャラクターのロンを演じるリー・シアンの演技は完璧ではないが、カリスマ性と強さがある。

この作品は、少々一貫性がなかったり、アーティステックな方向性によりすぎたりするが、ノスタルジックな雰囲気が印象的で、純粋なエンターテイメントとして楽しめるものだ。」

The film stageでは以下のように述べられている。

「本作はのノスタルジックな味わいのある、ドラマティックなスリラーだ。非常に高いゴールを達成できているわけではないが、商業作品でこれだけ創造性があり、驚くほど繊細な色をもつ映画は珍しい。

冒頭のシーンが印象的で、サン・パイによる、深みがありくたびれたトーンのナレーションから始まり、幼い頃、仲の良かった仲間たちが話しているというのがわかる。そこから素早く続く、温泉宿と思われる場所の短いカットが連続的に入る。フラッシュバックのモノクロのカットから合間にカラーで謎のイメージも混ざり、とても個性的だ。

そこから舞台は移り、90年代初め、4人の男たちが出会った頃が映し出されていく。彼らは長江沿いの港町の同じ高校に通っている仲間たちで、学校に通うでもなく、女の子をナンパしたり、深夜にポルノ映画を観に行ったり、若さを怠惰に費やしている。彼らがドンドンという少女と出会い、皆が恋に落ちてしまう。表面上は何もなかったようにふるまう4人だが、深刻な事態は素性の悪い男とトラブルになり、船を燃やしてしまった事件から、悪いことが悪いことを呼び寄せてしまうように、ドンドンの失踪へとつながる。

ソン・ウエンは、著名なポップ・カルチャーを引用することで、デジタル世代になる前の若者たちのノスタルジックで愛にあふれた物語を描いていく。2つのパートに作品を分けることで、ドンドンの失踪が彼らのイノセンスの喪失を表すと共に、変わったものは永遠に元には戻らないのを伝えている、私たち多くの人と同じように。

最近の作品では、今年のカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した韓国のイ・チャンドンの「バーニング」と似ている。どちらにも共通するのは、不安定な三角関係から失踪した女性によって、水面下で眠っていた真実が浮き彫りになるところだ。ただ違うのは、イ・チャンドンは芸術的で、残酷なまでにミニマリズムを徹底しているが、ソン・ウエンは犯罪映画の要素が強く、まさにフィルムノワールである。ドンドンに何が起こったのか、作中ではっきり表現される。それに対する4人の男たちの怒り、恥、罪悪感、否定はすべて腑に落ちるのだ。洗練さや話の展開にやや難があったとしても、投げかけた疑問に対する答えをはっきり出すことで、本作の映画としても魅力が強まる。」

ノスタルジーに、男同士の友情、運命の女と、青春映画に犯罪的な匂いを漂わせるあたりは、香港のジョニー・トー、ウォン・カーウァイなどのフィルムノワールに似た雰囲気と感じた。もしくは、同じ中国映画ならジャ・ジャンク―の「青の稲妻」だろうか。The film stageの中にもあるように、イ・チャンドンと比べられる時点で、素晴らしいことだ。アート系の作品を愛する監督らしく、モノクロであったりカラーであったり、映像に純粋なこだわりがあるようだ。

今後中国の映画市場はアメリカのように拡大していく為、より多く才能のある映画製作者の発掘が求められているようだ。決して100%の評価を受けている監督たちではないが、筆者は作品をとても観てみたいと感じたし、中国の映画界の将来が楽しみになった。

 

The Enigma of the Arrival

監督 ソン・ウェン

撮影 リー・ユウ

主演 リー・シュアン、グ・ジュアン、ドン・ボルイ、サン・パイ

(中国/ 2018/ DCP/ Color/ B&W / 114min) 日本公開未定

 

 

参考リスト

Busan International film festival

http://www.biff.kr/eng/html/program/prog_view.asp?idx=37035&c_idx=319&sp_idx=#self

http://www.biff.kr/eng/html/program/prog_view.aspidx=37030&c_idx=319&sp_idx=&QueryStep=2

The film stage

https://thefilmstage.com/reviews/busan-review-my-dear-friend-is-a-hypnotic-mystifying-piece-of-surrealism/

https://thefilmstage.com/reviews/busan-review-the-enigma-of-arrival-is-a-dreamy-dramatic-thriller/

Asian movie pulse

https://asianmoviepulse.com/2018/10/film-review-the-enigma-of-arrival-2018-by-song-wen/

鳥巣まり子

ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は派遣社員をしながら制作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はエリック・ロメールとペドロ・アルモドバル。

 


1 Comment
  1. こんにちは
    以前見たことのある現代中国映画で「盲井」「盲山」の李陽監督や、「Fujian Blue」という映画を作ったWeng Shoumingという監督などが何か作っていないかと思ってグーグルしてみましたが、アクションなどのエンタメ系以外の映画の情報はほとんど無いのでこの記事に出会え嬉しく思います。

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