今回のWorld Newsでは11月に刊行される英仏語圏の映画本を10冊紹介したい。

 まずはオックスフォード大学出版から①『サウンドトラックの諸理論』(2018/11/1)である。著者のJames Buhlerはテキサス大学の音楽理論の教授であり、本書の特徴としてはサウンドトラックの現代的な理論に関する初の包括的な書籍であることが挙げられる。そして構成としてはクロノロジカルかつトピカルであり、前者はトーキー映画の商業利用の始まった頃から現代的な批評理論へと順に進むことを、後者はそれぞれの時代の中心的問題をピックアップすることを指している。節のタイトルにはいわゆる映画理論のなかで挙げられる名前が多く、例えばエイゼンシュテイン、バラージュ、アルンハイムといった古典的な理論家から、ドゥルーズ、シオン、キャロル、ボードウェルといった比較的新しい理論家も登場している。また視覚的なものへの注目で語られることの多い装置論や精神分析に関する章が1つ設けられている。(#1)

 続いてはBloomsburyから②『ヨーロッパ映画と大陸哲学:思考実験としての映画』(2018/11/29)である。著者はアムステルダム大学の名誉教授であり、2013年よりコロンビア大学にて客員教授でもあるThomas Elsaesserであり、本書はこれまでElsaesserが過去の著作で進めてきたナショナルかつ作家主義的な手法を発展させている。というのもグローバリゼーションや多文化コミュニティ、ポスト国民国家民主主義などの挑戦を受け明らかな危機にある現代ヨーロッパにおいて、もはやワールドシネマと化しつつある同時代のナショナルシネマを題材に、哲学の言説も用いてヨーロッパの啓蒙的価値の未来を提示しようとしているからである。例えばそれはクレール・ドゥニとジャン・リュック・ナンシーであったり、アキ・カウリスマキとジュリア・クリステヴァであったりするが、概ねグローバルな時代における倫理的なものと政治的なものの境界を疑問に呈している。(#2)

 続いてはウェイン州立大学出版から③『映画的暗号(cryptonymies):戦後映画における不在の身体』(2018/11/19)であり、著者はオハイオ大学でフィルムスタディーズを教える准教授のOfer Eliazである。本書のタイトルは第二次世界大戦に従って世界が直面した、社会的、歴史的に消し去られた者たちの弔うことのできない幽霊たちを扱うことに由来し、著者は主に精神分析的手法を用いて、すなわち歴史的トラウマへの応答として何が隠されたままになっているかということについて、いくつかの映画作家を詳細に分析することで明らかにしようとする。具体的にはジョルジュ・フランジュのパリ描写、マリオ・バーヴァのホラー映画、ゴダールのモンタージュ、Naomi Umanのトランスナショナルな映画を対象としている。(#3)

 続いてはイリノイ大学出版から④『映画的邂逅:インタビューとダイアローグ』(2018/11/30)である。本書は映画批評家ジョナサン・ローゼンバウムの40年以上にもわたる、シネアストたちとの対話を収録したインタビュー集である。彼の経歴等についてはウィキペディア(#4)や彼のHP(#5)などを参照されたいが、例えば対談の相手としてはウェルズ、タチ、ゴダール、フラー、ジャームッシュなどが挙げられる。(#6)

 続いてはフィルムノワールに関連する3冊をまとめて紹介することにする。まずRoutledgeから⑤『現代映画におけるナスティーウーマンとネオ・ファムファタル』(2018/11/16)であり、トランプの時代における主に女性によって撮られた女性主人公の映画を分析している。(#7)次はI.B.Taurisから⑥『古典的フレンチノワール:ジェンダーと破滅的欲望(Fatal Desire)の映画』(2018/11/30)はフィルムノワールを1941~1959年のフランス、すなわち占領、解放、戦後の文化的、社会的要因の生産物として捉え直すことを目指し、さらにはセクシュアリティのメカニズムや再生産をも明らかにする。(#8)そして3冊目が仏語文献ではあるが、800ページにもわたる⑦『フィルムノワール事典』(2018/11/15)である。(#9)

 最後に仏語圏の新刊を3冊紹介したい。

 まずバザンに関して、Editions Maculaから1,2冊目に引き続き(#10)、バザンの書いたテクストを集めた⑧『全集3巻』(2018/11/10)が出版予定であり、また刊行済みだがMinuitから出版の10月のクリティックのバザン特集、⑨『クリティック857号:アンドレ・バザン、汲み尽せない視線』(2018/10/18)ではド・ベックやナルボニの論考のほかに、テレビについての論考が2つ掲載されている。(#11)

 続いてContemp Favorisより⑩『シネマにおける非人称化:トラウマから創造へ』(2018/11/22)である。著者のVirginie Foloppeはパリ第一大学などで美学や美術だけでなく、精神分析や(応用)心理学も教える横断的な活動を行っているが(#12)、本書は非人称化の持つ2つの側面、すなわち衰弱した環境に対する心理的反応と創造を考察する。例えば著者は非人称化について、一方では1つの芸術作品に達するかどうかにかかわらず創造があり、他方ではトラウマに直面しあらゆる勢いを奪われた諸存在の悲劇的な運命を通して知覚できるような破壊の中に到達するという。(#13)



#1
https://global.oup.com/academic/product/theories-of-the-soundtrack-9780199371082?cc=se&lang=en&#


#2
https://www.bloomsbury.com/us/european-cinema-and-continental-philosophy-9781441129499/


#3
https://www.wsupress.wayne.edu/books/detail/cinematic-cryptonymies

https://www.amazon.com/Cinematic-Encounters-Interviews-Jonathan-Rosenbaum/dp/0252083881/ref=sr_1_80?s=books&ie=UTF8&qid=1541454544&sr=1-80&keywords=film&refinements=p_n_publication_date%3A1250228011
#4
https://en.wikipedia.org/wiki/Jonathan_Rosenbaum
#5
https://www.jonathanrosenbaum.net/
#6
https://www.press.uillinois.edu/books/catalog/72gsa4py9780252042164.html

https://www.amazon.com/Fatale-Contemporary-Cinema-Routledge-Feminism/dp/1138586447/ref=sr_1_50?s=books&ie=UTF8&qid=1541453971&sr=1-50&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A1250228011
#7
https://www.routledge.com/The-Nasty-Woman-and-The-Neo-Femme-Fatale-in-Contemporary-Cinema/Piotrowska/p/book/9781138586444

https://www.amazon.com/Classic-French-Noir-International-Library/dp/1784539716/ref=sr_1_29?s=books&ie=UTF8&qid=1541453880&sr=1-29&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A1250228011
#8
https://ibtauris.com/Books/The-arts/Film-TV–radio/Films-cinema/Film-styles–genres/Classic-French-Noir-Gender-and-the-Cinema-of-Fatal-Desire?menuitem=

https://www.amazon.fr/Encyclop%C3%A9die-film-noir-Patrick-Brion/dp/2753303541/ref=sr_1_70?s=books&ie=UTF8&qid=1541455539&sr=1-70&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A183198031
#9
https://livre.fnac.com/a12136334/Patrick-Brion-Encyclopedie-film-noi
#10
http://www.editionsmacula.com/livre/119.html

https://www.amazon.fr/Ecrits-complets-en-trois-volumes/dp/286589102X/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1541455881&sr=1-2&keywords=andre+bazin

https://www.amazon.fr/Critique-857-Andre-Regard-Inepuisable/dp/2707345016/ref=sr_1_3?s=books&ie=UTF8&qid=1541455881&sr=1-3&keywords=andre+bazin
#11
http://www.leseditionsdeminuit.fr/livre-Critique_n%C2%B0_857___Andr%C3%A9_Bazin._Le_regard_in%C3%A9puisable-3278-1-1-0-1.html

https://www.amazon.fr/D%C3%A9personnalisations-Cin%C3%A9ma-Du-Traumatisme-Cr%C3%A9ation/dp/2909140377/ref=sr_1_31?s=books&ie=UTF8&qid=1541455367&sr=1-31&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A183198031
#12
http://univ-parisi.academia.edu/VirginieFoloppe
#13
https://nouveautes-editeurs.bnf.fr/annonces.html?id_declaration=10000000442267&titre_livre=D%C3%A9personnalisations_au_cin%C3%A9ma._Du_traumatisme_%C3%A0_la_cr%C3%A9ation#dte-parution

嵐大樹
World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修4年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。


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