[694] 音を撮る 撮影監督シャルロッテ・ブルース・クリステンセン


 

「サウンドデザイナーが、登場人物のすぐ側に観客がいるかのように音響設計を出来るように、私はこの映画のために改良したレンズを用いて手持ちカメラで人物に近づき、彼らが立てる衣摺れや足音、周りの微かな物音を意識的に撮りに行った。そのことで家族間の親密さや、恐怖感も表現できると思ったし、映像でもサウンドデザインを手助けする事を意識していた。それが私たちの音を撮る、という映像行為だった。」と語るのは新作映画「クワイエット・プレイス」が現在公開中の撮影監督シャルロッテ・ブルース・クリステンセン(1)(2)。シャルロッテは1978年生まれのデンマーク出身のカメラマンで、「光のほうへ」や「偽りなき者」等のトマス・ヴィンターベア監督作品の撮影を担当している他、アメリカに渡った後は「ガール・オン・ザ・トレイン」、「モーリーズ・ゲーム」、「フェンス」などのハリウッド映画を撮影している。映画「クワイエット・プレイス」(監督:ジョン・クラシンスキー)は盲目だが卓越した聴覚により、些細な物音にも反応して襲ってくるモンスターに支配された世界で、手話でコミニケーションを取りながらひっそりと生きる家族の物語だ。必然的にセリフは少なくなり、サウンドデザインと映像による映画世界観の構築比重が大きくなってくる。この映画はモンスターに囲まれ物音を立てれない緊迫した恐怖感と家族間の愛情を、音響を意識した映像設計と暖色を使った色彩効果で描くことに成功している。30代前半で若くして第一線で活躍するカメラマンとなり、業界では未だ少ない女性撮影監督の内の一人でもあるシャルロッテ・ブルース・クリステンセンの、映像アプローチについて紹介したい。

「クワイエット・プレイス」(3)は、大部分をモンスターに破壊された後の世界を舞台としており、主人公(ジョン・クラシンスキー/エミリー・ブラント)家族が住むのは広いトウモロコシ畑を持つ田舎の農場だ。自身もデンマークの農場で育ったシャルロッテは、家にいるような感覚で撮影できたと語る。「父が農場を経営していてそこで育ったんだけれど、親のカメラを借りて私はよく写真を撮っていた。ある時父が、映画の作曲家に農場の一つを売ったんだけどその彼が、私の写真を撮っている姿を見て”世の中にはカメラでストーリーを語る仕事があるのを知っているかい?”と撮影監督という仕事がある事を教えてくれた」という(4)。「クワイエット・プレイス」の撮影の大部分は実際にニューヨークにある農場で行われた。ジョン監督のノスタルジックだが、時代を超えていくような映像ルックを目指したいという狙いの元、コダックのフィルムを用いてシネマスコープ(画面比1:2.39)撮影が行われた。広大なトウモロコシ農場の中、会話も満足に出来ない4人家族の息詰まる緊張感が映像で巧みに表現されている。シャルロッテ撮影監督が目指したのは、モンスターからひっそりと隠れる登場人物たちの、微かな息遣いや足音などを捉えるためなるたけ俳優の近くにカメラを置き、映像に音を感じさせることで恐怖感を表現することだった。「もしカメラが人物から離れた所に置けば、彼らが立てる小さな物音が捉えられないし、聞こえる音に説得力はなくなってしまう。サウンドデザインの事を考え、メインで使ったのは約40cmの至近距離までフォーカスが合う様に改良されたアナモフィックレンズ、パナビジョン Cシリーズと更に至近で撮影できるTシリーズというレンズ。狙ったのはこれらの至近距離撮影が可能なレンズを使い俳優たちの立てる物音をリアルに感じさせ、まるで観客が登場人物と一緒にいるかの様な恐怖感を作り出すことだった」と語る。また撮影監督は主人公達の聾者の娘リーガンが感じている無音世界を映像で表現するため、通常ビスタサイズの映画フォーマット(画面比1:1.85又は1:1.66)で使用されるアナモフィックとは別種のレンズを時に使い、彼女のアップ撮影や主観カットで使用した。「このレンズはツァイス社のレンズグラスとパナビジョン社のレンズ筐体を組みわせたもので、約60cmの至近距離で撮影ができる。このレンズを使うことでリーガンの、音で迫り来る危機を察知できない無音の恐怖感を表わし、観客をまるで彼女の頭の中に入っていく様な感覚にさせたかった。ただその他のアナモフィックレンズで撮影した映像との統一感を考えパナビジョン社の副社長で光学エンジニアのダン・ササキにレンズの細かな調整を特別にしてもらい、極端には目立たないが他とは異質な映像のタッチが表現できる様にしてもらった」と言う(5)(6)。

 

シャルロッテ撮影監督は、至近距離撮影で恐怖感を作り出す映像演出とは対照的に、色味では温かみを出そうと試みた。「監督と話し、色で家族間の温かみや絆を感じさせたかった。家族の中でもめ事も発生するけど、それも全て愛情に端を発した出来事だからロウソクなど温かみのある環境照明で家族の愛おしさを表現してみた。撮影は夏の終わりの時期で、作物や畑、太陽光も黄金色ががり、衣装ではエミリー・ブラントには緑の服、子役のミリセント・シモンズには黄色のセーターを着てもらった。ただ赤色に関しては、映画後半から家族に危機が迫っている事を知らせる赤色ランプが色効果として際立つ様に、前半では慎重に扱った」と語る。

 

「クワイエット・プレイス」は音響を意識した近距離撮影により恐怖感を生み出し、色味で家族間の愛情を表わすことでこれまでのホラー映画とは違った味わいを出している。以前Indie TokyoのWorld Newsでもご紹介した、こちらの音響・作曲からのアプローチも合わせて読んでいただくとまた違った角度から映画を楽しんで頂けるのではないかと思う(7)(8)。

最後に映画業界で女性撮影監督でいることについて問われたシャルロッテのインタビューを紹介したい。「女性撮影監督でいることを、不都合や損得という視点で考えたことはない。人々が私を雇うのは性別故ではなく、そのプロジェクトで私のカメラマンとしての仕事を期待してのことだし、撮影現場でも率直に意見を言ってきた。映画制作に参加したい女性も増えて変わってきているし、これまでも撮影の世界に興味のある女性達と接点を持ってきている。できる限り彼女達が映画の仕事を始められる様に励まし、手助けを今後もしていきたいと思う」と語っている(9)。

 

(1)https://www.mpaa.org/2018/04/cinematographer-charlotte-bruus-christensen-on-breathing-life-into-a-quiet-places-terrifying-apocalypse/

(2)https://www.imdb.com/name/nm1401820/

(3)https://quietplace.jp

(4)https://filmmakermagazine.com/105175-a-very-old-fashioned-kind-of-filmmaking-dp-charlotte-bruus-christensen-on-a-quiet-place-on-35mm/#.W7faJi-KVE4

(5)https://ascmag.com/magazine-issues/may-2018

(6)https://www.panavision.com/dan-sasaki-panavision-vp-optical-engineering

(7)http://indietokyo.com/?p=9014

(8)http://indietokyo.com/?p=8158

(9)https://www.goldenglobes.com/articles/behind-charlottes-lens

 

<p>戸田義久

普段は撮影の仕事をしています。

https://vimeo.com/todacinema

これ迄30カ国以上に行きました。これからも撮影を通して、旅を続けたいと思ってます。趣味はサッカーで、見るのもプレーするのも好きです。


コメントを残す