[669]8月頃刊行の映画本について


 今回のWorld Newsでは8月頃刊行の映画に関連した英仏語圏の書籍を紹介したい。

 まずエディンバラ大学出版による①『ジャック・ランシエールと芸術映画の政治学』(2018/8/01)である。著者のJames Harveyは現代のグローバルな政治学や大陸哲学に関心を持つインディペンデントな学者とのことだが(#1)、彼によるとランシエールのテクストは、我々に全く同じ言葉において芸術と政治学について語ることを可能にするのだという。では本書の構成を確認してみると、
導入:政治と芸術映画 
第一部:政治の映画
 第一章:パナヒの不合意
 第二章:ララインの両義性
第二部:映画の政治学
 第三章:カウフマンの不和
 第四章:ジェイランの平等
第三部:政治と映画のあいだ
 第五章:Akomfrahのよそ者(Akomfrahはガーナの映画作家 #2)
結論:現代の政治的芸術映画
と主に現代の第三世界の映画監督の固有名詞が冠されており、「不和」や「平等」といったランシエールの概念を用いたそれらの映画作品の分析が予想される。また芸術と政治を同時に語るという彼のランシエール観が、構成における「政治(学)」と「映画」という単語の配置からも伝わってくる。最後に、エディンバラ大学出版HPによると本書は「ランシエールの映画に関する思考への、単著としては初めての取り組み」とされているが(#3)、例えば同じくエディンバラ大学出版から『ランシエールと映画』(#4)という論集は出版されている。

 続いては同じくエディンバラ大学出版の②『ジル・ドゥルーズの結晶を砕く:ジャン・ルノワールの映画作品における物語の時空間』(2018/9/1)である。まずタイトルに驚かされるが、「ドゥルーズの結晶」というのは「ドゥルーズ『時間イメージ』第四章:時間の結晶」におけるルノワールへの言及([113-117]邦訳p116-121)をさしているのだろう。実際に構成にも、導入の章の「ルノワールへのドゥルーズを読む:批判的意見」や、「第四章-ルノワールの非リアリズム的危機:凍結された時間(le Temps Gelé)のフレーミング」という形でドゥルーズの議論を引き継ぐようにルノワール論を展開していることが示されている。またエディンバラ大学出版のHPによると、本書は「ドゥルーズの映画哲学と明快な空間的思考との複雑な関係を説明」し、「時間と空間を含む様々なキー概念を理論化」し、「ルノワールの作品をキャリアに沿った各フェーズから分析」しているのだというが、ともかくドゥルーズのルノワール論に関心のある方は是非確認していただきたい。(#5)

次はコロンビア大学出版による③『映画/政治/哲学』(2018/10/30)であり、著者はコロンビア大学のフィルム・メディアスタディーズ准教授のNico Baumbachである。タイトルは約50年前、カイエ・デュ・シネマが左傾化していた頃ジャン・ルイ・コモリとジャン・ナルボニによって発表されたマニフェスト「映画/イデオロギー/批評」に由来している。著者は近年特にフィルムスタディーズが政治化された理論から離れてしまったという危機感を抱いており、本書において大いに蔑ろにされてきた70年代の映画理論を再考しようとしているのが第一の特徴である。また第二に彼は思考の様式と政治の形式として映画を見る、という新たな哲学的アプローチが我々には必要だとし、ランシエール、バディウ、アガンベンのテクストの精読を通して、批判理論やドゥルーズ的映画哲学の再考をも促している。(#6)

 哲学や政治と映画に関わる書籍が続いたが、次はBloomsburyによる④『サミュエル・ベケットと映画』(2018/8/23)である。『ゴドーを待ちながら』などが有名なベケットはアイルランド出身の劇作家・小説家であるが、『運動イメージ』におけるドゥルーズの記述から『フィルム』(1964)という作品を残していることを思い出す者もいるだろう。しかしそれ以前にも1936年というサイレント末期にエイゼンシュテインへ熱烈な手紙を書いていたこともあったらしい。本書はそのような近年公表された書簡や草稿などを手掛かりに、「ベケットの映画への取り組みを全て包括的に説明する初めての書物」らしく、著者はベケットをヴェルトフ、キートン、ラング、エプシュタイン、フラハティ、ドライヤー、ゴダール、ブレッソン、レネ、デュラス、Lionel Rogosin、ヒッチコックなどの、映画製作の第一と第二のモダニズムの波のあいだに位置付けている。(#7)

 次もまた文学関係であるが、⑤『サドと映画:視線、身体、暴力』(2018/8/23)というトロント大学で教鞭をとるAlberto Brodescoの”Sade e il cinema (Mimesis, 2014)”のフランス語への翻訳であるが、ひとまず紹介文を引用する。「サド作品の映画へのアダプテーションが含みこむ表象の袋小路を問いに付す著者は、映画的芸術に挑戦を仕掛けるようなヴィジョンの諸装置(=サドのテクスト)をより良く定義するため、テクストの美学的、主題的、哲学的ないし物語的賭け金に戻ることを試みる。それゆえ彼の試みは書かれたものからスクリーンへの移行への、イメージと暴力の関係のための理論への、感覚による反射と知覚の間の緊張への、そして身体のための映画への、1つの考察であるのだ。」(#8)

 最後に紹介するのは、日本においても近年流行し始めている「人新世」という概念を取り入れた⑥『人新世における映画:哲学、エコロジー、サイバネティクス』(2018/9/7)である。著者のDaniel WhiteはWilkes Honors College of Florida Atlantic Universityの名誉教授らしいが、HPによると本書は「人新世の文脈における映画の学際的な分析」を提供し、「未来と過去の両方を見るヤヌス(ローラ神話の双面神のこと)の古典的形象」を導きに研究を展開している。そこで目次を見てみると、「哺乳類的コミュニケーションとしての映画」「ヤヌスのセルロイドとデジタルの顔」「ヤヌスの、種をまたぐ(Interspecies)顔」など独特の単語が並べられている。(#9)ともかく「人新世」概念の活用に興味のある方などは是非確認していただきたい。また人新世に関しては今年の4月にオックスフォード大学出版より⑦『荒れ果てた(Inhospitable)世界:人新世の時代における映画』という本も出ている。


https://www.amazon.com/Jacques-Ranci%C3%A8re-Politics-Art-Cinema/dp/1474423787/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1533135527&sr=1-2&keywords=ranciere+cinema&dpID=41WMaXAkeXL&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch
#1
http://independentscholar.academia.edu/JamesHarvey
#2
https://en.wikipedia.org/wiki/John_Akomfrah
#3
https://edinburghuniversitypress.com/book-jacques-ranciere-and-the-politics-of-art-cinema.html
#4
https://www.amazon.com/Ranci%C3%A8re-Film-Critical-Connections-EUP/dp/0748647368/ref=sr_1_4?s=books&ie=UTF8&qid=1533135610&sr=1-4&keywords=ranciere+cinema&dpID=512Gb1455xL&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch

https://www.amazon.com/Cracking-Gilles-Deleuzes-Crystal-Space-time/dp/1474426298/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1533133204&sr=1-1&keywords=cracking+gilles+deleuze&dpID=51x-SrpiekL&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch
#5
https://edinburghuniversitypress.com/book-cracking-gilles-deleuze-s-crystal-hb.html

https://www.amazon.com/Cinema-Politics-Philosophy-Film-Culture/dp/0231184239/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1533136790&sr=1-1&keywords=cinema+politics+philosophy
#6
https://cup.columbia.edu/book/cinemapoliticsphilosophy/9780231184236

https://www.amazon.com/Samuel-Beckett-Cinema-Historicizing-Modernism/dp/1350081612/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1533138013&sr=1-1&keywords=beckett+cinema
#7
https://www.bloomsbury.com/uk/samuel-beckett-and-cinema-9781350081611/
⑤#8
https://www.amazon.fr/Sade-cin%C3%A9ma-Regard-corps-violence/dp/2915083932/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1533139526&sr=8-1&keywords=sade+cinema

https://www.amazon.com/Film-Anthropocene-Philosophy-Ecology-Cybernetics/dp/3319930141/ref=sr_1_3?s=books&ie=UTF8&qid=1533141479&sr=1-3&keywords=cinema+anthropocene&dpID=515TGwhERBL&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch
#9
https://www.palgrave.com/de/book/9783319930145#aboutBook

https://www.amazon.com/Inhospitable-World-Cinema-Time-Anthropocene/dp/0190696788/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1533141479&sr=1-1&keywords=cinema+anthropocene&dpID=41Je2zl%252BA4L&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch

嵐大樹
World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修3年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。


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