今回のWorld Newsでは映画自体からは離れてしまうが、昨年夏の大幅な減額によって話題となり、その後疑念も高まってきているMovie Passというアメリカのサービスについて紹介したい。

そもそもMovie Passは「映画館のNetflix」と称されるように、定額制で映画館を楽しむことのできるサービスのことである。もう少し具体的に言えば、月額$9.95(以降情報は全て2018/4/26のもの)を払うことでMovie Passのカードを入手でき、アプリで対象の劇場を探してその窓口にてチケットを購入するという方式である。驚くべきことに公式サイト(#1)によると91%もの劇場でMovie Passが使えるのだという。つまり毎月1100円程度を支払うだけで、アメリカのほぼ全ての劇場で映画を見放題だということになる。(なお3DやIMAXは対象外であり、その点において競合と思われるSinemiaというサービスとは区別される。Sinemiaはプランにもよるが月額$9.99で3DやIMAXを含めた映画が劇場で鑑賞でき、最大の利点としてはMovie Passとは違ってネット上でチケットを確保できるということである。Sinemiaというサービスについて詳しくは公式サイト(#2)や、Movie Passとの比較についてはこちらの記事(#3)にまとまっている。)

このサービスは元々月額$50であり、その頃加入者は20,000人ほどであったということだが、昨年夏にその料金が大幅に減額されたことによって話題が沸騰し、一時はサイトがダウンするなどの動乱を巻き起こした。そして現在のところMovie Passの利用者は200万人にまで達している。またこの騒ぎの中でアメリカでの大手の劇場グループであるAMCが公式に懸念を示すコメントを呈したことも話題を呼んだ。大きく要約するとその主張とは、将来的にはMovie Passのような無茶なビジネスは失敗に終わり、人々を落胆させるだけであり、それは映画産業にとっても痛手である、ということである。(#4)

その主張は結局誰もが思い浮かべる次の問いに基づいている。つまり、「Movie Passはビジネスとして成り立つのだろうか?」。当然この種の疑問は人々の間で広がっており、それが株価の下落という形で現れることもあるだろう。そんな人々の不安に答えてか、Yahoo!でのインタビューにおいてMovie Pass CEOのMitch LoweはまずMovie Passの理念のようなものを説明する。
「一方には年間18回も映画館へ行く人々がいて、彼らは全体の11%ながら国内での半分のチケットを購入している。そしてもう一方には残り89%のブロックバスター的なヒット作しか見ない人々がいて、彼らはおそらく年間4、5回ほど映画館へ行っている。……ここ18年でチケットの価格はほぼ倍になっており、つまり映画館側の解決は”年間2、3%ずつ価格を上げていこう”というものだった。しかし知っての通り、このような値上げは最終的に人々を、特には若い人々を遠ざけることになるだろう。……時々誤解されるのだが、我々は劇場へ映画を観に行くという経験を再活性化したいと本当に思っている。我々が本当に望むのはより多くの人々に映画館へ行き続けてもらうことなのだ。」(#4)

そしてYahoo!は同じ記事の中で、彼がMovie Passのビジネスモデルないし今後の展望について語った内容を以下の4点にまとめている。
① 利用者の映画館へ通う頻度が低下すること。最初は無料という自由からたくさんの映画を見に行くが、Loweによると”4、5ヶ月目から通常の頻度に戻るだろう。そしてじきに多数の利用者が4ヶ月目を迎えるのだ。”という。それゆえ一人あたりのコストは軽減される。
② あまり多くの映画を見に行かないような人々、つまり会員カードをあまり利用しないような人々を引き入れようと試みていること。”次の大きな仕掛けではそのような人々を囲い込もうとしているため、次第にそのような人々の割合は大きくなって行くだろう。”
③ チケット代が大都市のように$15ではなく、$7ないし$8である地域にサービスを普及させたいと考えていること。Loweによれば”Farnsworth(Movie Passの親会社のCEO)は発足当時は会員の55%が大都市の利用者で占められていたが、今では30%にまで落ちてきている。”という。
④ 映画館チェーンから上記のような割引を受けたいと考えていること。(#4)

続くCNNの記事によればFarnsworthは年間報告において「Movie Passは発足以来損失を被っており、追加の資金調達が目下必要になっている。これらの要因は継続的な懸念事項として、会社としての存続可能性に対する大きな疑いを生じさせているのだ。」(#6)と語っており、やはり経営陣は人々の意識の変革を望んでいるのだろう。そして実際に昨年度はMovie Passの親会社であるHelios and Mathesonは約160億円もの損失を出していると報じられている。(#7)

MOVIEPASS RULES

今後もこの種のサービスは話題になり続けるだろうし、あるいは日本においてもいつかはその波に飲み込まれるのかもしれない。蛇足ではあるが最後に先ほどのインタビューでのMovie Pass CEOによる発言を掲載しておく。

「……最近Reed(NetflixのCEO)は大きな競合を聞かれた際、”睡眠だよ”(#8)と答えていたが、私は別に彼が冗談で言ったわけではないと思う。我々はまだそこまでは至っていないが、Netflix、Hulu、AmazonなどのストリーミングサービスこそがMovie Passの競合なのであり、また我々が戦っているのは人々のあらゆる余暇の時間なのである。」(#5)

#1
https://www.moviepass.com
#2
https://www.sinemia.com/new-plans
#3
https://finance.yahoo.com/news/move-moviepass-theres-new-movie-pass-deal-town-182400639.html
#4
http://investor.amctheatres.com/file/Index?KeyFile=389925821
#5
https://finance.yahoo.com/news/moviepass-ceo-company-will-finally-break-even-185917883.html
#6
http://money.cnn.com/2018/04/20/investing/moviepass-helios-matheson-analytics-stock/index.html
#7
http://www.indiewire.com/2018/04/moviepass-audit-cost-losses-1201955278/
#8
https://www.fastcompany.com/40491939/netflix-ceo-reed-hastings-sleep-is-our-competition

嵐大樹
World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修3年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。


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