[537] ARRI 100年の歴史



ドイツ・ミュンヘンに本社を置くARRI(アーノルド&リヒター社)(#1)は世界で最大の映像制作機器会社で1917年9月12日に設立され、今年で100周年を迎えた(#2)。ARRIは世界に40以上の代理店を持つメーカーであり、映画カメラなどの撮影機材販売レンタルの他、照明機材やレンズ、フィルムスキャン等のフィルムアーカイブ機器も取り扱っている。1917年にフィルムプリンター、1924年にKinarri35カメラを開発した他、1935年に作られたArriflex35はリフレックスミラーシャッターを搭載した世界初のカメラで革新的であった。ARRIは会社設立以来長きに渡って映画制作者たちを支えてきた。

撮影監督のオーウェン・ロイズマンはアカデミー撮影賞にノミネートされた「フレンチ・コネクション」でARRIのArriflexⅡC カメラ(#3) (1964年発売)を使い「それまで作られたカメラの中で最高の物の1つだ。とても体にフィットし、カメラを抱えワイドレンズをつけて手持ち撮影し、街を歩き廻るのに適していた」と語っている。またArriflexⅡCはラズロ・コヴァックスによって撮影された「イージーライダー」でも使われた他、スタンリー・キューブリック監督が最も好み、個人所有していたカメラとしても知られ「2001年宇宙への旅」「時計じかけのオレンジ」「バリー・リンドン」などの一部もこのカメラを使い撮影されている。また1972年発売された同時録音カメラArriflex35 BLシリーズ(#4)も様々な撮影監督に愛された。ヴィットリオ・ストラーロによる「地獄の黙示録」「ラスト・エンペラー」やスヴェン・ニクヴィスト撮影による「ファニーとアレクサンデル」「サクリファイス」、ネストール・アルメンドロス / ハスケル・ウェクスラー撮影による「天国の日々」、マイケル・チャップマン撮影の「タクシー・ドライバー」、ミヒャエル・バウハウス撮影の「グッド・フェローズ」などで使われた。後に3年度連続でアカデミー撮影賞を受賞することになる撮影監督エマニュエル・ルベツキ(「レヴェナント・蘇りし者」)は、メキシコで大学を卒業し初めて撮影した長編映画にArriflex35 BL-4カメラを使い「当時最高のカメラであった。私のメイン機材で何年も使い続けた」と語っている。

ARRIはその後1990年代にArriflex 535シリーズなど優れたフィルムカメラを開発したが、2000年頃映画業界にデジタル化の波がやってくる。今ではほとんどの映画がデジタルシネマカメラで撮影されているが、この変革期をARRIはArrilaserとArriscanを開発することによりデジタル化の波へ着手した。Arrilaserはデジタルの映像をフィルムに記録する機器で、Arriscanはその逆でフィルム撮影された映像をデジタルに変換する機械だ。この時Arriscan内に採用したしたCMOS(撮像センサー)がフィルム映像の質感をデジタルで再現する事を可能にしていた。ARRIのマネイジングディレクターのFranz Krausは「Arriscanを開発したことがデジタルシネマカメラの第一歩となった。絶対に妥協出来なかったのはフィルムカメラが捉える映像と同等のクオリティをもつデジタルカメラを作ることだ」と語っている。その後ARRIは初のデジタルシネマカメラでスーパー35mmセンサーサイズを持ったArriflex D-20カメラを2005年に、続いてその改良版Arriflex D-21を発表した。Franz Krausはこの両機について「販売用ではないが、今後のARRIのデジタルシネマカメラの基盤になり、技術開発を推し進めるものだ」と言う。そしてARRIは2010年にALEXAカメラを発表。このALEXA(#5)カメラシリーズが現在まで続く世界的なヒットとなる。

コーエン兄弟の作品や「007 スカイフォール」の撮影監督であるロジャー・ディーキンスは「ALEXAの最暗部からハイライト部まで表現できるその幅とその階調性が素晴らしく、色調もまた美しい。Arriflex 535などのフィルムカメラと大きく変わる事なく撮影できる」と語った。事実2011年の「TIME タイム」以降、最新作の「ブレードランナー2049」に至るまでほとんど全ての映画をロジャー・ディーキンスはAlexaカメラシリーズで撮影している(「ヘイル、シーザー!」除く)。大学を出て初めての長編をArriflex BL-4で撮影したエマニュエル・ルベツキも近年「ゼロ・グラビティ」と「バードマン」でALEXAを、「レヴェナント・蘇りし者」でALEXA65(センサーサイズが65mm)を使いアカデミー撮影賞を3年連続で受賞した。ルベツキは「ARRIがALEXAを開発してくれなければ、私の作品は全く違ったものになっていただろう。人々に見過ごされがちなのは、映画言語は撮影機材と密接に結びついていると言う事だ。「ゼロ・グラヴィティ」も「バードマン」もALEXがなくては成立し得なかった」と語っている。 Panavision社がMillenium DXL(8K)(#6)を昨年発表し、REDがWEAPON 8K S35カメラを、SONYがVENICE(6K 36mm x 24mmのフルサイズセンサー)(#7)などのCineAltaカメラ、PanasonicがVaricam35シリーズで追従する中、ARRIのALEXAシリーズが現在世界で最も使用されているデジタルシネマカメラといっても良いだろう。ARRIがフィルムカメラからデジタルシネマカメラの過渡期を経て、100年にわたりカメラを開発しなければ、現在我々が見ている映像も全く違ったものになっていたかもしれない。(#8)

 

(#1)http://www.arri.com

(#2)https://ascmag.com/articles/arris-second-century

(#3)http://cinematechnic.com/resources/arri_35-2

(#4)http://cinematechnic.com/resources/arri_35bl

(#5)http://www.arri.com/camera/alexa/

(#6)http://dxl.panavision.com

(#7)https://pro.sony.com/bbsc/ssr/show-highend/resource.solutions.bbsccms-assets-show-highend-Venice.shtml

(#8)http://www.arri.com/100_years/ 

戸田義久
普段は撮影の仕事をしています。https://vimeo.com/todacinema これ迄30カ国以上に行きました。これからも撮影を通して、旅を続けたいと思ってます。趣味はサッカーで、見るのもプレーするのも好きです。


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