[521] 越境する撮影監督達


先月、今年の11月にポーランドで開かれる映画祭CAMERIMAGEのメインビジュアルポスターが発表された。CAMERIMAGEとは優れた撮影監督、または高い撮影技術によって撮影された映画に注目し作品を選定する国際映画祭で、今年でちょうど25周年を迎える。(#1)新しいヴィジュアルスタイルや技術革新等を撮影を通し実現した撮影監督たちに賞を授与しているのが特徴で、撮影に特化しているという意味においては世界最大の映画祭と言える。映画祭ディレクターのMarek Żydowiczは「映画はゴシック形式の大聖堂の様なもので、映画におけるビジュアル面の構築をする撮影監督の仕事は通常表立たない。しかし脚本と同じ様に、映画にはその優れた撮影技術が必要不可欠である」としている。ゴシック形式の大聖堂とは恐らく、各パートのプロフェッシナルが集まって作り上げる劇映画の巨大な複雑さを例えていると思われるが、この映画祭の部門としてはメインの劇映画コンペテイションの他に、ドキュメンタリー部門、学生映画部門、ミュージックビデオ部門、映画新人撮影監督部門、テレビパイロット部門などがある。また非常に沢山の撮影技術に関するワークショップやセミナーが開かれているので、毎年多くの撮影に関心を寄せる人々を引き寄せている。遡って見れば、映画祭初年度は「ピアノ・レッスン」(撮影スチュアート・ドライバーグ)に始まり「アモーレス・ペロス」(ロドリコ・プリエト)、「パンズ・ラビリンス」(ギレルモ・ナバーロ)「潜水服は蝶の夢を見る」(ヤヌス・カミンスキー)「キャロル」(エド・ラックマン)等がグランプリに当たるゴールデンフロッグ賞を受賞しており、映画のジャンル、系統、撮影監督の国籍などを問わず作品を選定するので古今東西様々な映画が一同に会するのが面白い。

今年のCAMERIMAGEの特集の1つは、去年惜しくも亡くなったフランス人撮影監督ラウル・クタールの功績をたたえ(それまでの撮影所における伝統的なフランス映画の撮影方法とは違い、ヌーベルバーグの監督たちと共にカメラを持ってスタジオの外に繰り出し、街や人々の息吹を見事に写し取った)、彼がジャン・リュック・ゴダール監督と撮影した「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」など5作品を特集上映する事だ。またもう一つの特集としてはアメリカの撮影監督ジョン・トール(「ブレイブ・ハート」「レジェンド・オブ・フォール」)の長年の撮影技術貢献に敬を表しLIFE TIME ACHIVEMENT賞を授与する。

何故この様な映画祭が開かれているかの背景に、ポーランドが言わずと知れた映画大国であることが挙げられるだろう。映画監督ではアンジェイ・ワイダ、アンジェイ・ムンク、ロマン・ポランスキー、イエジー・スコリモフスキ、クシシュトフ・キェシロフスキ、イェジー・カヴァレロヴィチ、パヴェウ・パヴリコフスキなど枚挙に暇がないが、撮影監督も国際的に多く輩出しており、古くはボリス・カウフマン(「新学期・操行ゼロ」「アトランタ号」「波止場」「12人の怒れる男」の撮影監督でありジガ・ベルトフの実弟)から、ルドルフ・マテ(「裁かるゝジャンヌ」「吸血鬼」「海外特派員」「生きるべきか死ぬべきか」)(#2)、アダム・ホレンダー(「真夜中のカウボーイ」「スモーク」)(#3)アダム・グリーンバーグ(「最前線物語」「ターミネーター」「ゴースト/ニューヨークの幻」、スワヴォミール・イジャック(「トリコロール・青の愛」「ガタカ」、「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」、ピョートル・ソボチンスキー(「トリコロール・赤の愛」「アトランティスのこころ」)、パヴェル・エデルマン(「戦場のピアニスト」「レイ」)、アンジェイ・セクラ(「レザボア・ドッグス」「パルプ・フィクション」)などを輩出し続けている。そして今、最も活躍しているポーランド出身の撮影監督と言えば「シンドラーのリスト」からスピルバーグ作品を手がけるヤヌス・カミンスキーと、リドリー・スコット監督とのコンビや「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズなどで知られるダリウス・ウォルスキーと言えるだろう。(#4)

しかし全ての撮影監督がその高い技術を買われ、他国へ移住しているわけではない。
例えばアダム・ホレンダーが第二次世界大戦の戦禍を逃れロシアへ移った他、81年にポーランドに布かれた戒厳令を嫌いアメリカへ渡ったヤヌス・カミンスキーの様に、撮影監督達の越境もまた社会的背景と無関係では無い。(#5)しかしポーランドの撮影監督たちが、映画のビジュアルに関する様々な側面を歴史的に支えてきたのも事実である。そして今、海を越えた撮影監督達が撮影技術を塗り替えているのも1つの映画の流れかもしれない。カミンスキー自身「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」で米国アカデミー撮影賞を2度受賞しているが、ここ最近の5年間を見てもクラウディオ・ミランダ(「ライフ・オブ・パイ」チリ出身)、エマニュエル・ルベツキ(「ゼロ・グラビティ」「バードマン」「レヴェナント」メキシコ出身)、リヌス・サンドグレン(「ラ・ラ・ランド」スウェーデン出身)がアカデミー撮影賞を受賞している。

まだ現時点で今年のCAMERIMAGEで上映される映画のラインナップは発表されてない。しかしこの11月、様々な撮影監督の作品が集まるCAMERIMAGEを通して、どの様な撮影が評価されて撮影技術が何処に向かおうとしているか注目してみるのも面白いかもしれない。

(#1)http://www.camerimage.pl/en/Remembering-The-Masters-Raoul-Coutard.html
(#2)https://www.britannica.com/biography/Rudolph-Mate
(#3)http://culture.pl/en/artist/adam-holender
(#4)http://www.imdb.com/name/nm0003011/
(#5)http://culture.pl/en/artist/janusz-kaminski

戸田義久
普段は撮影の仕事をしています。https://vimeo.com/todacinema
これ迄30カ国以上に行きました。これからも撮影を通して、旅を続けたいと思ってます。趣味はサッカーで、見るのもプレーするのも好きです。ここ数年のテーマは英語の習得です。


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