「アイアンマン2」で初登場してから約10年。マーベル・シネマティック・ユニバース屈指の人気キャラクターであるブラック・ウィドウ(ナターシャ・ロマノフ)の過去が描かれる待望の新作「ブラック・ウィドウ」がついに公開となる。これだけの人気がありながら、なぜスピンオフ製作までに10年近くもの歳月がかかったのか…。それはこの10年でやっと、女性ヒーローが主人公のアクション大作の製作がハリウッドで行われるようになったからだ。10年前なら、スタジオのトップはこれだけの規模で製作される女性ヒーロー映画にイエスとは言わなかっただろう。
本作で主演と製作総指揮を務めるスカーレット・ヨハンソンは、「『ブラック・ウィドウ』は、Time’s Upと#MeTooムーブメントで何が起こっているかをとてもよく表していると思う」という。
「もしこの映画がそうしたムーブメントに真正面から取り組んでいなかったら、それは製作ミスといえるでしょう。特にケイト(監督)にとって、女性が女性を助けることについての映画を作ることはとても重要だった。ナターシャはフェミニストなのか?と誰かに聞かれたけど、もちろん、彼女は明らかにフェミニストです。おかしな質問ですよね。」
監督のケイト・ショートランドは、「15歳のダイアリー」で愛情を求める孤独な少女の生き様を等身大に描き、母国オーストラリアの賞を総なめにする鮮烈なデビューを飾った人物だ。その後、「さよなら、アドルフ」では第二次世界大戦後のドイツという激動の時代を舞台に、ナチス高官の娘が思春期の葛藤を抱えながら過酷な現実に直面する姿を追った。続くサスペンススリラー「ベルリン・シンドローム」では、旅先で出会った男に監禁される女性の心情の変化を生々しく描いた。主人公を取り巻く大きな出来事が起こる中で、リアルで繊細な心情描写をしてきたショートランド監督が、本作で適任とされたのも納得がいく。ただ、多くの場合で葛藤を抱える女性主人公と男性との関係が描かれてきたようでもある。そんな監督が、本作で女性同士の「シスターフッド」をどのように描くのか、期待が高まる。スカーレットは、監督についてこうコメントする。
「ケイトは、オープンで解放的な監督です。醜さを恐れず、恥ずかしい部分や不快な部分もつつみ隠さず表現する。そうした映画を彼女は作りたいんです。だから『ブラック・ウィドウ』では、弱さすらも力に変える、ナターシャの真の強さを見ることができます。」
このように女性監督が大作を任せられること自体、数年前までほとんどありえなかったことだ。スカーレット・ヨハンソンは、「もしこの映画を10年前に作ったら全く違うものになっていただろう」という。
「多くの人から、なぜこれまでこの映画を作らなかったのかと聞かれます。時間がかかった理由はたくさんあると思いますが、私は、今この映画を作れたことにとても感謝しています。なぜなら、今ならより“リアル”な映画を作れるし、観客もそれを望んでいるからです。観客はずっとそんな映画を望んでいたと思いますが…やっとスタジオが追ついてきたんです。」
その変化の一つが、女性キャラクターの描かれ方だ。スカーレットは、ブラック・ウィドウは10年前のように性的に強調されることがなくなったという。
「女性ヒーローの描き方は間違いなく変わったと思います。私自身も変わりました。10年が経ち、人生にいろいろなことが起こって、もっと自分自身を理解し受け入れられるようになった。それはすべて、このブラック・ウィドウのハイパーセクシャライゼーション(性的な強調)からの脱却に関係があります。」
「『アイアンマン2』では、いい思い出もたくさんありますが…、ブラック・ウィドウは過剰に性的に描かれていました。彼女が人間ではなく物として、誰かの所有物であるかのように語られるシーンも…。あのトニーでさえ、彼女を物のように“あれが欲しい”といった。まるでナターシャに性的対象以上の価値がないような言い方ですが、当時は私自身、それを褒め言葉だと感じていました。おそらく多くの女性がそうであるように、無意識に自分自身の価値をいかに男性に性的対象として見られるかで測っていた。私の感じ方が間違っていたんです。こうした考えは今、変わりつつあります。私自身がこの変化の一部として、古い考えからの脱却を体現できることは最高です。」
「ナターシャは、自分の性的魅力を敵を陥れる手段として利用していました。それは彼女のパワーのひとつとして描かれてきましたが、時間とともに変化したんです。彼女の真のパワーは、彼女の弱さにこそありました。それは私たちがたどりついた彼女の真の姿であり、『アベンジャーズ/エンドゲーム』で愛ゆえに自らを犠牲する姿に重なります。彼女は、友人と、全ての人々を救う。この彼女の変化、仲間のための行動はとてもパワフルです。彼女がこのような成長を遂げたのはとても素晴らしいことだと思っています。」
ショートランド監督は、「『ブラック・ウィドウ』はより多くの女性ヒーローの映画製作への道を切り拓くだろう」という。
「ナターシャの“妹”エレーナを演じるフローレンス・ピューは想像以上に素晴らしかった。スカーレットは、『私は彼女にバトンを渡しているのね』と感心していたほど。『ブラック・ウィドウ』をきっかけにまた新たな女性ヒーローのストーリーラインが生まれるでしょう。」
映画業界、そして人々の価値観の変化は、ハリウッドの女性ヒーロー像に変化をもたらした。そうして生まれた「ブラック・ウィドウ」は、また、スクリーンの中にとどまらない新たなヒーローたちを生むだろう。「ブラック・ウィドウ」がつなぐバトンがどこに向かうのか、これからも楽しみだ。
『ブラック・ウィドウ』 7月8日(木)映画館/7月9日(金)ディズニープラス プレミア アクセス公開
参照:
https://www.empireonline.com/movies/news/black-widow-reflects-times-up-women-helping-women-scarlett-johansson-exclusive-image/
https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/scarlett-johansson-black-widow-feminist-me-too-times-empire-a9704806.html
https://collider.com/black-widow-movie-scarlett-johansson-interview-sexualization/
https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/black-widow-scarlett-johansson-florence-pugh-trailer-release-date-a9605021.html
htps://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/black-widow-scarlett-johansson-florence-pugh-trailer-release-date-a9605021.html
https://screenrant.com/black-widow-movie-scarlett-johansson-set-visit-interview/
https://www.imdb.com/name/nm0795153/
https://marvel.disney.co.jp/movie/blackwidow.html
Watch: Scarlett Johansson and Cate Shortland Discuss the Evolution of “Black Widow” in Featurette
北島さつき
World News担当。イギリスで映画学の修士過程修了(表象文化論、ジャンル研究)。映画チャンネルに勤務しながら、映画・ドラマの表現と社会の関わりについて考察。世界のロケ地・スタジオ巡りが趣味。
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