4月上旬より日本でもほぼ全ての映画、ドラマ撮影が中断して約2ヶ月近く経つ。6月以降、日本を含めた世界各国で撮影が再開される作品が有るものの、今後の感染対策や俳優・スタッフの収入減(約半年間に渡り無収入となるスタッフも身近にいる)など懸念も多い。そうした中、どの様な方法であれば安全に撮影を再開出来るか、それを試みた撮影チームをご紹介出来ればと思う。先日、日本映画製作者連盟(1)よりガイドラインが発表されたが基本の撮影現場ににおける感染対策は各国大体同じで、大まかに言えば出来るだけ撮影現場で距離を取る事、換気する事、スタッフのマスク着用、手洗いの徹底、より広い場所で撮影する、クランクイン前・撮影中の感染検査などである。各国のガイドラインは下記リンクを見て頂き、その量も膨大になるので詳細は省きますが、今回はその中でも独自の方法により感染を広げる事なく撮影を完遂したチームのインタビュー記事を中心に翻訳しました。(5月22日時点での情報になります)

アイスランド

1つ目はNetflixの「Katla」というアイスランドで撮影した作品で、3月の中旬に4日間撮影した後にコロナの為一時撮影中断したものだ。撮影再開後の現場では安全責任者がスタッフ同士が近づき過ぎると「2m!」と叫んんでいたと言う。監督はアイスランドのバルタザール・コルマウクル(「2ガンズ」「エベレスト3D」)(2)で「僕が自身の作品よりも、コロナに対応しながら撮影した監督として知られるのが悲しいね」と笑いながら語る。(3)

バルタザール監督達が撮影の為に取った感染対策は撮影スタッフを腕章の色でグループ分けし、それぞれが居る場所を限定する事だった。例えば黄色の腕章を付けたスタッフは現場の撮影カメラ周りのみ許可。プロデューサー、スクリプトスーパーバイザー、CGチームは赤の腕章で映像モニター周りのみ。俳優部・衣装部・メイク部は黒の腕章で、撮影準備・待機中は色の制限がかかっていない場所で過ごす事。青の腕章を付けた者は全ての制限エリアを行き来できる(恐らく監督や各部署の責任者かと思われる)。そして各空間で20人以上になる事を避ける事だ。バルタザール監督は「人は基本的に歩き回る性質があるから、制限するのも大変だけどね」と語る。80%のスタッフは撮影再開前にコロナの感染テストを行い、毎朝の検温、食事は大人数でシェアするケイタリングから個人個人のランチボックスへの変更、部屋のドアノブやトイレは指定の時間に消毒、俳優以外のスタッフはマスク着用、メイク部、美術部は手袋の使用などを行っていると言い「撮影再開後、検温により2人のコロナ感染者が出て2週間の自宅療養となったが、それ以外に感染被害は無い。撮影再開して4週間以上経つが我々の方法はうまく行っていると思う。コロナ感染者を2人見つけて隔離したが、発見してそれ以上の感染予防をする事は社会にとってもフィルターとなり役立つ事だ。そしてそれは映像制作会社だけでなくどの分野の会社にでも出来る事だよね」語る。またアイスランド政府は国内感染者が3人になった事を受けて、撮影事業を支える為にも海外の映画制作者達を積極的に招き入れる方針だと言う。その場合もホテルに一旦隔離し感染テストをした後、撮影をしてもらう事でアイスランドの経済回復に貢献出来るのではないかとバルタザール監督は語る。

オーストラリア

またコロナ感染渦中の3月28日にオーストラリアで撮影を終了した作品がスティーブン・キング原作の「チルドレン・オブ・ザ・コーン」だ。プロデューサーのルーカス・フォスター(3)は「一番大変な決断は感染予防の為に全スタッフ、キャスト、子供キャストの保護者たちをホテル、Airbnb、コテージなどに振り分けて隔離宿泊させつつ撮影する事を決める事で、プロダクションコストが20%上がる事だよ」という。行った感染対策は他のチームと似ており看護師、救急医療師に撮影現場にいて貰い、俳優、スタッフは毎朝毎夕健康に関するアンケートを記入し、検温、撮影現場の消毒と、消毒液を現場の至る所に置くなどを行っていた。また夜のロケーション撮影では体温低下防止のため、俳優にネオプレン素材の衣装を用意して体温を保ちちつつ、感染予防もした。そしてオーストラリアの規定上、カメラが廻っている間は人々が2m以内にいる事は良しとされている。「ストレスは掛かったけど、撮影をできた事やその過程、スタッフの雇用と衛生環境を保てた事に満足している。作品を作って世に出す事が大きな僕らの存在意義だからね。僕はそれを殺したくないんだ」と語っている。

 

その他にヨーロッパ各国の撮影ガイドラインを簡単にご紹介したい。

(詳細は個別のリンクをご覧下さい)(4)

チェコ共和国

5月7日より政府より国内の撮影再開許可が出た。チェコは海外からも撮影クルーが多く訪れるが、その俳優、スタッフ共にコロナ感染の陰性証明書が求められ、且つ入国72時間以内に再度の感染検査と陰性判断が出る迄の隔離が求められる(通常24時間以内には結果が判明)。こうした感染検査の施行を不安視する人々もいるが、チェコのフィルムコミッショナーは「他の入国者には14日間の隔離が要求されるが、撮影関係者は陰性がでれば直ぐに働ける事を意味している」と語る。またマスク着用が義務付けられない俳優は14日ごとの感染テストを受けなくてはならない。

フランス

5月11日よりパリでの撮影許可が政府より下る。撮影を感染者の少ない地域(グリーン・ゾーン)で許可する反面、感染者の多い地区(レッド・ゾーン)では撮影不可。撮影現場は50人までとし、一般の方々への現場公開はしない事。また個別に公園、道路など撮影不可の場所もある。またルーブル美術館も撮影の舞台となるNetflixの「Arsene Lupin,」(俳優のスケジュール都合により9月から撮影)やAMAZON(6月中旬から撮影)の「Voltaire, Mixte」は、初めて女生徒を迎える1960年代の男子校が舞台の群像劇を準備している。またフランス保険省と撮影プロダクション等が合同で作るガイドラインが近々に発表される予定。(5)

アイスランド

5月15日より海外からの撮影クルーを受け入れる。(一般観光客は6月15日より予定)。国内クルーは撮影中、公共交通機関では無く個人又はプロダクションが用意する車などによって移動する事。フィルムコミッションは、今は通常観光客で一杯の美しい自然のあるロケーションを誰もいない状態で撮影出来る機会と語っている。

ポーランド

5月18日より撮影再開許可。50人以下の撮影スタッフに抑えつつ、複数のスタッフが現場内を行き来する事を防ぐ事。

スペイン

5月11日より撮影再開した許可。正し感染者が減少している地域での撮影に限られる為マドリード、バルセロナは除外(国の半数位上の地域では撮影可)。

 

上記ご紹介した他に韓国、フィリピンなどアジア各国も撮影ガイドラインを現時点で出している。膨大な量になる為全てに目は通せないが各国の現場の感染予防対策はの基本部分は大きく変わらないと思う(但し撮影中断の補償金、保険などは様々)。イギリス映画協会はガイドラインを5月末発表予定。イギリステレビ業界はこちら(6)。アメリカの映画撮影現場における統一予防対策・見解は現状見当たらなかったが、労働組合IATSE (International Alliance of Theatrical Stage Employees)は3人の疫学者と契約し、スタッフが一刻も早く安全に仕事復帰出来るように相談しながらガイドラインを作ると言う(7)。組合のプレシデンントMatthew D. Loebは「お互いの距離が近い状態でクリエイティブな仕事をしている撮影スタッフは、安全に仕事復帰する為にもクリエイティブな方法を見つけなくてはならない。彼ら疫学者達が我々が気付かない適切な方法を教え助けてくれるだろう」と語る。またアメリカのコマーシャル制作を担当している美術デザイナー、アートディレクター達が出したガイドラインはこちらに発表されている(8)。

俳優の芝居を常に2mキープするのは、俳優の立ち位置、動線が奇妙になる故、企画や脚本が変わらない限り難しく思えるが、撮影現場の各衛生対策、体調管理、色で分けるかは別にしスタッフ間の移動の制限(撮影部で言うと、カメラ周りとベースモニター側の担当をより分けて現場内のスタッフの移動を少なくする事)は日本でも出来ると思う。今後の政府、保健所の対応にもよるが、クランクイン前に(出来れば撮影中も定期的に)スタッフ・俳優がPCRや唾液による感染テストを行い、撮影現場にコロナを持ち込まない事が、まず求められる。

 

(1)http://www.eiren.org

(2)https://www.imdb.com/name/nm0466349/?ref_=fn_al_nm_1

(3) https://www.nytimes.com/2020/05/15/movies/virus-filming-details.html?searchResultPosition=1

(4)https://www.hollywoodreporter.com/news/starting-production-europe-coronavirus-guide-by-country-1294732

(5)https://variety.com/2020/film/global/coronavirus-netflix-amazon-voltaire-mixte-arsene-lupin-omar-sy-1234609353/?fbclid=IwAR2zCYx4vt5HPt_T087G6Ea34DbE7utwy7BDQPa2mZnUW4BZ2bGQU9iczKs

(6)https://drive.google.com/file/d/1dVqxR2PsdPQoMQLJabYphQ1pJsEhn1z7/view?fbclid=IwAR3bgx15WIS0CTkkqO_lR2rh9JS_iGZ_QjAhyTC9D7d4bw2uqu3nKzmz7qk

(7)https://iatsecares.org/2020/05/18/iatse-hires-epidemiologists-to-consult-on-reopening-procedures/

(8)https://pmcdeadline2.files.wordpress.com/2020/05/covid-19-considerations-doc-wm.pdf

 

<p>戸田義久

普段は映画・ドラマの撮影の仕事をしています。

https://vimeo.com/todacinema

これ迄30カ国以上に行きました。これからも撮影を通して、旅を続けたいと思ってます。趣味はサッカーで、見るのもプレーするのも好きです。


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