日本では先日、新型コロナウイルス感染拡大で影響を受けている独立系映画配給会社が『Help! The 配給会社プロジェクト』を立ち上げた。このプロジェクトの「配給会社別 見放題パック」では、配給会社ごとの過去作をオンラインで視聴し、視聴者が配給会社を支援できる仕組みだ。 (4)

一方フランスの配給会社は、従来の制度を変更することで、この状況を生き延びる道を探っている。

 

フランスで映画館が閉鎖されたのは3月14日だ。現在でも再開のめどは立っておらず、次々と新作の公開が延期されている。このような中で経済的に大きな打撃を受けている映画館、配給会社、制作に携わる映画関係者に対し、CNC(フランス国立映画映像センター)は様々な支援策を講じてきた。(※)

そして4月、配信に関する新たな規定が設けられ、配給会社に新たな道が開けることになった。

 

 

従来、フランスは法律で“media chronology rules”と呼ばれる規定を設けていて、劇場公開から一定の期間が経たなければオンラインサービスで映画を配信することができない。「映画は映画館で観る」という文化を残すためだ。これは、イギリスやアメリカでいう“release windows”と同じようなものだが、フランスではこの規定が厳しく、これまでも様々な議論がなされてきた。現在、例えばネットフリックスで配信するには劇場公開から36か月待たなければならない。しかし配信のプラットフォームがその作品に出資していたり、CNCへ資金を投入している場合にはその期間が短くなるなど、細かい規定がなされている。(1)

 

しかし今回、3月23日に可決された緊急法案の範囲で行える取り組みとして、CNCはこの規定を例外的に緩めることを許可した。

これにより、フランス政府の要請で劇場が閉鎖された3月14日に劇場でかかっていた映画は、配給会社と製作者が望んだ場合、すぐにオンライン配信で観られることになる。(ただし、劇場公開が既に終了していて、現在配信サービスの開始を待っている段階の映画にはこれに当てはまらない。)(2)

 

この発表を受け、配給会社は現在劇場公開作を配信へと切り替え始めている。

 

Pyramide は、自社の配給作品である『Our Mothers』を6月16日に配信で公開することを決定した。2019年のカンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞した作品で、本来は4月8日に劇場公開される予定だった。

5月13日にはさらに多くの作品が配信のリストに追加された。『Vivarium 』 (The Jokers /Les Bookmakers配給、公開予定日5/11)、『A Mermaid in Paris』 (Sony Pictures Entertainment配給、公開予定日5/11)、さらにドキュメンタリー映画の『Woman 』 (Apollo Films 配給、公開日3/4)や『Lara』 (KMBO配給、公開日2/26)なども全てオンラインで視聴可能となる。他にも、3/4、3/11に劇場公開された様々な映画、そして映画館が閉鎖された際に劇場公開中であった映画の多くは、既に配信の道を選択した。そこにはStudioCanalやLe Pacteなどが配給する作品も含まれている。(3)

 

しかし、全ての配給会社がこのような選択をしているわけではない。これまでのように「映画は映画館で公開する」という姿勢を取っている会社もある。Memento配給の『How To Be A Good Wife』やJour2Fête 配給の『A Son』は、早い段階で映画館の再開を待ってからの劇場公開を発表した。さらにPaname Distribution配給の『Three Summers』や、NDの『De Gaulle』、他に Bodega Films 、Pyramide 、Les Valseurs 、Norte Distributionなどの作品も、現段階でオンラインでの配信を発表していない。(3)

 

新型コロナウイルスが各国の配給システムに与える影響は大きい。

アメリカでは先日、ユニバーサルが最新作 『Trolls World Tour』を、劇場公開を待たずにPVODで配信したことが物議を醸した。これはユニバーサルがアメリカで設定されている90日間の“release window”を破ったことを意味している。各国に映画館を展開する大手劇場チェーンのAMCはこれを受けて、「AMC はアメリカ、ヨーロッパ、中東、どこの劇場でも、今後ユニバーサルの映画を上映することはないだろう」とコメントした。(6)

フランスではCNCが率先して制度を例外的に緩めることで、このような配給と劇場のトラブルを避けたが、経済的な事情や公開のタイミング、映像作品への向き合い方などが影響し、各配給会社の選択は分かれている。特にフランスは、映画のオンライン公開に関しては厳しい姿勢を取ってきた国だが、新型コロナウイルスの感染拡大が及ぼす影響はやはり大きい。

 

 

※CNCはフランス政府が行っている一般向けの支援に加え、映画業界に対して様々な支援を行っている。

3月から業界のニーズに応じて支援策を発表しているが、その内の一つとして、コロナウイルスが流行する以前からすでに劇場公開を予定していた作品に対しても資金援助をし、オンライン配信を促している。通常であればこの支援金はCNCに払い戻さなければいけならないが、このような状況下では返済を求められていない。

また、もともと将来のプロジェクトへの投資目的で作られたシステムを使い、すでにこれに登録している場合には、CNCの事前の承認を得ることで与えられた資金の内30%を現在の必要性に応じて使うことができる。さらに、フランス政府が小規模な企業を支援するために導入した基金と連動するなど、支援策は様々だ。(2,5)

 

 

《参考》

(1)https://www.forbes.com/sites/sheenascott/2018/11/12/the-importance-of-media-chronology-for-french-cinema/#19abaed472c2

(2)https://cineuropa.org/newsdetail/387449/

(3)https://www.cineuropa.org/en/newsdetail/388379/

(4) 「Help! The配給会社プロジェクト」:  https://note.com/help_the_dsbtrs

(5)https://cineuropa.org/newsdetail/387135/ 

(6)https://variety.com/2020/film/news/amc-theatres-trolls-world-tour-dispute-1234592445/

小野花菜
現在文学部に在籍している大学3年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。


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