クリスマスを間近に控えた今年最後の“13日の金曜日”のきょう、全米であるホラー映画が公開される。北米に伝わる都市伝説をモチーフにした1974年のカナダ映画『暗闇にベルが鳴る(原題:Black Christmas)』のリメイク版だ。オリジナルのタイトルをそのまま引き継いだ本作は、実は公開前から二つの点がホラー映画ファンの間で物議を醸している。

 

1点目は、監督を務めたソフィア・タカルと本作で脚本家デビューしたエイプリル・ウルフの書き上げた物語は、フェミニズム要素が強すぎるのではないかという懸念。2点目は、スラッシャー映画として名高いオリジナルに対し、本作はPG-13という低いレーティングが付されていることへの失望である。これら2点についてタカル監督とウルフがそれぞれの見解を述べたインタビューを紹介したい。

 

その前に、『暗闇にベルが鳴る』という作品のおさらいをしておこう。

オリジナル版(以下、1974年版)は、クリスマスパーティで賑わう大学の女子寮に侵入した正体不明の殺人鬼が、学生を一人また一人と惨殺していくフーダニット要素の強い作品である。

モチーフとなった都市伝説とは、「ベビーシッターを任された10代の少女が、2階に子どもたちを寝かしつけ、1階でテレビを観ていたところに電話がかかってくる。相手は『今すぐ子どもたちの様子を見に行け』と迫る。少女はいたずら電話だと思い無視をするが、再三かかってくる電話に辟易し、警察に通報する。通話を逆探知した警察は、少女に折り返し電話をかけると、すぐに家を出るように告げる。電話は少女のいる家の中からかけられたものであったのだ。警察が駆けつけると、2階では子どもたちが惨殺されており、少女は難を逃れた」というものである。結末にはバッドエンド(少女も殺され犯人は逃走)からハッピーエンド(少女が子どもたちを助け犯人は警察に逮捕)まで差異はあるが『ベビーシッターと2階の男』として今もよく知られる恐怖の物語だ。

 

1974年版で主役を務めたのは、当時日本でも人気のあったオリビア・ハッセー。その恋人を『2001年宇宙の旅』の船長キア・ドゥレイが、また、殺人鬼の手にかかる学生の一人を、スーパーマンの恋人役として知られるマーゴット・キダーが演じた。

リメイク版(以下、2019年版)の主役はイモージェン・プーツ。その脇をアレイス・シャノン、リリー・ドノヒューといったニューフェイスが固める。2019年版は、都市伝説をベースにというよりも、むしろ1974年版で描かれた(当時としては)画期的なある状況を、#MeToo運動以来高まり続ける女性への(性)暴力は断じて許さないという風潮にのせて拡大させた。デートレイプ、女性の進出を脅威とみなし服従を強いる若い男性といった問題を盛り込み、なおかつ、1974年版ではほとんど無抵抗のまま殺人鬼の餌食となるだけだった学生たちが、2019年版では武器を手に果敢に立ち向かうのである。

リメイクに際し、何を尊重し、何を表現したかったのかと問われたタカル監督は、まず1974年版の大ファンであることを告げた上でこう続けている。「女性キャラクターたちがとにかく素晴らしい。賢くて生意気ではっきりとものを言い、対立も恐れない。ただのふわっとした女の子ではなく、本物の人間として描かれている。私もこういう血肉の通った女性たちを主役にしたホラー作品を撮りたい。制作のブルームハウスからリメイクの話をもらったときには、またとない機会が訪れたことへの喜びでどうにかなりそうでした」。その後、あらためて1974年版を観たタカル監督は、自分の胸に問いかけたという。「なぜ今、この作品をリメイクするのか。そもそも、これ以上ないほどに完璧で素晴らしい作品をリメイクする意味はどこにあるのか」。

 

「2019年は私にとってミソジニーを象徴するかのような年だった。#MeTooとTime’s Upによって、酷い扱いを受けてきた女性たちが次々と声を上げ、事実を語り始めた。ブレット・カバノーは学生時代に起こした性的暴行疑惑をきちんと晴らさないまま連邦最高裁判所陪席判事に就任した。クラレンス・トーマスも同じ。5人の女性へセクハラ行為をしたルイ・C・Kも結局は自身のコメディー番組へ復帰している。女性を食いものにする男たちがのさばる世の中で、女性が安心して暮らせるわけがない。私は、性差別を完全に根絶することができないことに不安を覚えた。この恐怖は、私の中で1974年版と結びついた。今こそこの映画を作り直すときだと感じた。私とウルフは新しく構築する物語の中で、犯人を、ある意味で、根絶することができない女嫌いの代表格として描いてみたいと思った」。

 

大胆なアレンジの加えられた脚本に対し、制作会社のブルームバーグはどんな反応を示したのか。タカル監督は「会社は私たちと同じ気持ちでプロジェクトの進行を見守っていた。制作はとんとん拍子に進み、3月には脚本すらなかったのに、12月に公開されることとなった。この進行の速さも、私たちがためらいなく突き進むことのできた原因だったと思う」と振り返る。

 

一部で懸念される「フェミニズムに偏りすぎではないか」に対しては、「ホラー映画には、ただ怖がらせるだけでなく、政治的な問題を鋭くえぐり出し議論を巻き起こす側面もある。何よりまず観客を楽しませるものだが、同時に、対話のきっかけとなり得るものだ」とホラー映画に対する自身の見解を語った。タカル監督にとっては、いまだ多くの人の関心を引く1974年版をリメイクすること自体に大きな意味があったに違いない。

 

もう一つの懸念、PG-13にとどまったことに関して、共同執筆のウルフは、「脚本を書き始めた段階では、ターゲット層として登場人物たちと同じ18~21歳を想定していた。しかし今はもっと下の年齢層までもが面倒な問題に巻き込まれている。R指定にすればホラー映画ファンから愛される映画になれるかもしれない。私たちは日々の生活の中で自分たちとは違うイデオロギーを持つ人々と難しい議論を試みる年若い女の子たちにも門戸を開くべきだと考えた。これはちょっとした思いつきなどではない。映画の中で起こっていることを受けとめ、議論として発展させてくれたらうれしい」と述べた。この点については、タカル監督も「1974年版がR指定を受けているのは、暴力や残虐性が要因ではなく、性的なテーマが含まれていたからだ。本作について4月の段階で『R指定を念頭に置いて撮影した』と言ったのは、若い女性が性的暴行を受ける内容を鑑み、女性のセクシュアリティに関する映画への評価が厳しいアメリカ映画協会からはR指定をされるだろうと予想していた。このトピックでPG-13の映画を作ることは不可能だと思っていた。しかし実際には、おとがめはなし。これらの話題を含む映画であってもPG-13の指定を受けることはできる」と言う。ただし、撮影には苦労をしたようで、「いくつかの場面は没にしなければならなかったし、『この程度でも許されないのか』と驚かされたこともあった。トーンを変えたりしてPG-13に踏みとどまるよう工夫をした。すべて年若い世代にもこの作品を届かせたい一心からだ。複雑な時代の今だからこそ、撮る理のある作品だった」と自信をのぞかせた。

 

予告編を観る限り、たしかに1974年版とはだいぶ様相が違う。殺人鬼と女性たちの対決というよりも、彼女たちが自身を取り巻く理不尽にいかに立ち向かっていくかという雰囲気が見てとれる。1974年版を愛する身としては、不安を覚えないといえばうそになるが、単なるなぞらえや置き換えを超えて、時代のモンスターを解き放つという大胆な手法で挑んだ監督の手腕を楽しみに、日本公開の報を待ちたい。

【作品情報】
Black Christmas

Director: Sophia Takal
Writers: Sophia Takal, April Wolfe
Stars: Imogen Poots, Aleyse Shannon, Lily Donoghu

92 minutes/111 minutes /  Color / 2.39 : 1  / New Zealand, United States / English

   
   
   
   
   
   

【参照サイト】
https://lrmonline.com/…/black-christmas-interview…/
https://comicbook.com/…/black-christmas-remake-sophia…/
https://variety.com/…/black-christmas-imogen-poots…/


小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。


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