6週間の孤独な籠城生活の末、ヒース・レジャーが手にした「史上最高のジョーカー」の称号は、この『ダークナイト』以降、ジョーカーに挑む俳優たちにとってひとつ大きな壁になっているに違いない。誰がジョーカーを演じるのか、と同等、あるいはそれ以上に、役作りのプロセスについて注目が集まるキャラクターはほかに類を見ない。

『スーサイド・スクワッド』に際しては、若きジョーカーを演じたジャレット・レトが、撮影に入る前、ウィル・スミス、マーゴット・ロビーを含む“部隊”の共演者たちへ不気味な贈り物をしたことが報じられた。その狂気ぶりは新たなジョーカー像に期待を寄せるファンたちを狂喜乱舞させた。メディアに明らかにされた一部は以下のとおり。

 生きたネズミ/ビデオメッセージ/弾丸/死んだ豚/アナルビーズ/使用済みコンドーム/ポルノ雑誌/ラブレター

キラー・クロックを演じたウェイロン・ジョーンズの「話題にしたくない項目もある」というコメントから、レトからのギフトにはさらに常軌を逸したものが含まれていたことがうかがえる。これらの奇妙な品々を共演者に送りつけた理由について、レトは「ジョーカーは人との距離感や人と接するときに守られるべきルール、ガイドラインを全く尊重しない人物。あらゆる壁をぶち壊す必要があった」と述べている。[1]

このサイコパスともいえる怪物は一体どのように誕生したのかを描いた映画『ジョーカー』が、10月4日より日米同時公開される。今回、ジョーカーに扮するのはホアキン・フェニックス。まずは、52ポンド(24キログラム)の減量をしてあばら骨の浮かび上がったシルエットを挨拶代わりとばかりに披露して、ファンの好奇心を満たした。[2]

ジョーカーを演じるに当たってホアキンは「プレッシャーは感じていない。人がどう思うかについては気にしていないから。この作品だから特別というわけではなく、私の映画に対するアプローチはいつも同じだ。私が興味を持つのは、誰が手がける映画か、それと、演じるキャラクターをいかにつくりあげていくかだ」。[3]

では、ジョーカーの役づくりにはどのように取り組んだのか。ヴェネツィア映画祭でのプレミア上映に先立って、ホアキンはイタリア『il Venerdì』誌のインタビューの中で、「情動調節障害に苦しむ人々のビデオを見た」ことを明らかにした。この「情動調節障害」というのは、多発性硬化症やパーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷などを患っている人に時々見られる、非自発性の情動発作を特徴とする神経性障害の一つ。発作の出現や感情変化の多くは制御困難であり、怒りを覚えているにもかかわらず笑い続けるなど、場にそぐわない感情表現に至ることも多いという。[4][5]

「笑いの仮面をかぶれ(PUT ON A HAPPY FACE)」という映画キャッチコピーがあらわすように、『ジョーカー』のなかで「笑い」がキーポイントとなる。第一弾として公開された予告編に現れるジョーカーは、残忍というより悲痛さを秘めた孤独な男に見える。ゴッサムシティという狂った都会を救うために届けようとした彼の「笑い」は、どのように歪められ、世界を壊す凶器へと変貌を遂げていくのか。当初、製作者として名を連ねていたマーティン・スコセッシの初期の映画(作品名は明らかにされていないので、あれこれと推察するのも楽しいだろう)に触発されたというストーリーにも注目だ。

監督のトッド・フィリップスは、「みんなが大好きな原作コミックには従っていない」とイギリス『Empire』誌に語っている。「ジョーカーのような男がどこから来たのかを描いた。それこそ私が興味を持っていることだった。これはジョーカーがジョーカーになる物語だ」。

『ジョーカー』10月4日(金)より全国ロードショー

原題:Joker/2019年製作/118分/アメリカ

配給:ワーナー・ブラザース映画

公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

監督:トッド・フィリップス

脚本:トッド・フィリップス/スコット・シルヴァー

出演:ホアキン・フェニックス/ロバート・デ・ニーロ/ザジー・ビーツ ほか

<参照ページ>

[1] https://screencrush.com/jared-leto-joker-creepy-gifts-suicide-squad/

[2] https://www.insider.com/joker-joaquin-phoenix-lost-52-pounds-2019-8

[3] https://www.cinemablend.com/news/2456259/why-joaquin-phoenix-doesnt-feel-any-pressure-about-playing-the-joker

[4] https://www.esquire.com/entertainment/movies/a28719757/joaquin-phoenix-joker-inspiration-laugh/?utm_source=twitter&utm_medium=social-media&utm_campaign=socialflowTWESQ&src=socialflowTW

[5]https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%85%E5%8B%95%E8%AA%BF%E7%AF%80%E9%9A%9C%E5%AE%B3

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。


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