作曲家のアレクサンドラ・ハーウッドは、ロンドンにある王立音楽大学で、クラシックの教育を受け、その後、ニューヨークのジュリアード音楽院で勉学を続けた。2010年から彼女はイギリスの短編映画の音楽を多く書いた。『ガーンジー島の読書会の秘密』は、作曲家としてハーウッドが音楽を担当した長編映画である[#1]。
ハーウッドは、古い家族ぐるみの友人として6歳のときからジェームズ・ホーナーと知り合いであった。ホーナーは、ハーウッドにいつもサウンドのアイヴァイスをしてくれたという。また、クラウス・バデルトを通してハンス・ジマーのリモート・コントロールに招かれて数週間を過ごし、ラミン・ジャワディと座って彼の日々の仕事を見学した経験を語っている。そのことによって、ハーウッドは創作を追い求めたいという自分に気づいた[#2]。

エージェントであるマギー・レッドフォードは、直接マイク・ニューウェル監督ではなく、プロデューサーたちにハーウッドをその映画へと推薦した。プロデューサーたちは、彼女のほかの映画音楽を聴いて気に入り、ニューウェル監督と編集技師のポール・トットヒルへとその音楽を送った[#3]。
ハーウッドによれば、制作のプロセスは通常とは異なっていた。撮影の間のとても早い段階で、ニューウェル監督、プロデューサーのポーラ・メーザーとグレアム・ブロードベントは彼女の音楽を知り、アセンブル編集でテンプスコアとして彼女の音楽を使ったからである[#4]。

「撮影をしている際に、アセンブル編集で私のテンプミュージックを付与しました。自分にとってそれは本当に素晴らしいことでした。映像へとまだ音楽を書いていませんでしたが、自分の音楽を気に入ってくれたことのほかに、自分の音楽が映画の一部になり始めていたからです。」[#5]

その6ヶ月後に公式にスコアリングを始めるまでに、ハーウッドはその映画と原作に詳しくなっていった。そのとき、始めの方のカットへとすでに15のキューを書き上げていた。その残りのスコアには、ハーウッドが以前に担当した映画からテンプミュージックが使われた。ハーウッドによれば、マイクとポールはその音楽を完璧に配置した。そして、彼らには、従来のスポッティングセッションがほとんど必要なかったと述べている[#6]。

ニューウェル監督は、1964年に始まる長いキャリアの中で、様々な作曲家たちと仕事をともにしてきた。アン・ダッドリーやレイチェル・ポートマンのような女性作曲家たちも含まれている。ニューウェル監督が、『ガーンジー島の読書会の秘密』にも女性作曲家を求めたのかという質問に、ハーウッドは次のように答えている[#7]。

「一般的に、マイクは、女性作曲家であるか男性作曲家であるかではなく、相応しい作曲家であるのかを考慮していると思います。ですが、彼は、『ガーンジー島の読書会の秘密』では女性作曲家は重要であると感じたと思います。ジュリエットという女性について主に描かれているからです。彼女は女性の主人公です。彼は、女性作曲家が感受性を持っていて、彼女というキャラクターを理解するだろうと考えました。男性が同様の共感を持ち得るかどうか?もちろん、違った共感があるでしょう。私には確かなジュリエットとの繋がりがありました。彼女は、とても現代的なキャラクターです。第二次世界大戦後に設定され、戦争を回想する映画にとって、彼女は現代のフェミニストです。彼女は自分のために立ち上がり、映画にはロマンスがあったとしても、彼女を規定するものではありません。彼女を定めるのは、執筆への情熱を通して、自分自身の再発見を探求することです。映画の始まりで、彼女はその情熱を失います。彼女は両親を失い、第二次世界大戦から抜け出します。それは、再び自分自身を見つけ出すガーンジー島への旅なのです。それが主たる物語だと思います。自分にとって、書くことは、情熱であって救世主です。だから私はジュリエットというキャラクターととても強く繋がっていました。そのことによって、映画のために音楽を書くのを助けられたかどうかは分かりません。ベストを尽くすため、物語を伝えるのを助けるために、物語とキャラクターたちの頭の中に入り込まなければなりませんでした。それこそが作曲家が試みるべきことなのです。物語を伝えるのを助けることです。」[#8]

『ガーンジー島の読書会の秘密』には、多くの音楽が存在する。しかし、ハーウッドは音楽が映画を支配してはいないと述べる。この映画では、観客を先導し過ぎない音楽や、映画を支えてる音楽を求めたからだ[#9]。
その音楽の中心は、オーケストラのスコアである。56人で構成されたオーケストラは、レコーディングセッションでオリジナルスコアを演奏した。ハーウッドは、クラシックの教育を受けた作曲家であり、オーケストラによるコンサート用の音楽を書くことは、彼女のバックグラウンドとなっている。しかし、オーケストラだけではなく、ハーウッドはスコアの中にミステリーを表現するためにサンプルライブラリーであるOmnisphereを使って、エレクトロニクスを取り入れた。ハーウッドによれば、それは少しばかりの別世界のフィーリングを与えてくれるのだという[#10]。
また、そのスコアには、数々のテーマ曲が登場する。多くのキャラクターたちが登場し、感情に満ち溢れている映画において、テーマ曲が物語の進行を助けている[#11]。

「私たちは、早い段階でテーマ曲について話し合いました。たとえ私がコンセプトの中でテーマ曲を事前に決めていたとしても、自分が音楽を書く方法においては、それよりももう少し自然な過程です。私が作曲するときは、自分の決定にあまり自覚的ではないのです。だから、作曲をしながら、テーマ曲は進展して現れてきます。」[#12]

そして、ハーウッドは、数々のテーマ曲の中でどのように鍵となるテーマ曲ができたのかについて以下のように説明をする[#13]。

「マイクにとって大切なキューのひとつは、馬車でジュリエットが初めて荷台へと乗せられて朝食をとるシーンです。そこには遠くの崖のショットを伴います。彼は説明しました。『アレックス、それらの崖が映画の中心だ』と。それは、助けになるディレクションでした。彼が言いたいことが分かったからです。それは、ガーンジー島についてでした。映画の中心なのです。彼女の旅の始まりです。このガーンジー島のテーマ曲は、映画の中で何度も登場します。」[#14]

さらに、ハーウッドは別のテーマ曲についても説明をする。ひとつは、ジュリエットがタイピングをしているときに流れる「タイプライターのテーマ曲」である。そこに、弦楽器とともに、テナーサックス、オーボエ、ファゴット、クラリネット、フルートの音色を聞くことができる。タイプライターのキューは、ジュリエットのエネルギーと、書こうとすることへの執着を伝える[#15]。
また、「愛のテーマ曲」、数回だけ静かに微かに挿入されている小さな女の子の「キットのテーマ曲」がある[#16]。

ハーウッドにとって最後のジュリエットとドーシーのロマンティックなエンディングは挑戦であった。それは、「停滞」と「始まり」のシーンであった[#17]。

「ロマンティックなキューを書くのは挑戦であると分かったのです。クリシェを避けたかったからです。彼らにとってのロマンティックなエンディングはクリシェであったからです。それに拍車をかけたくはありませんでした。最後のシーンには、本当の盛衰があります。お互いに走ってきて、立ち止まって会話をします。それから最後のクライマックスに突入します。….. それは停滞と始まりであり、音楽での本当の挑戦でした。」[#18]

このクライマックスシーンの元々のキューは、数ヶ月の間に書かれて編集の上で協議された。そして、レコーディングセッション前の2晩で、すべてのスコアは準備とオーケストレーションがなされていた。しかし、そのとき、ひとりのプロデューサーから別のヴァージョンを書いてくれないかと依頼の電話が入った。以前よりも長い時間のヴァージョンのために、さらなるクライマックスの音楽を求められたからだ。ハーウッドは、午後9時から午前3時まで、自分に問いかける時間すらない中で集中して新たな音楽を書いた。後になって、ハーウッドは思いがけないリクエストであったと語っている。その映画のほかのパートのために後の段階で書いたテーマ曲を繋げることができたからだ。新たなヴァージョンを書く前の元々のキューにはなかった部分である[#19]。

シーンや個人的な好みへと感情を加えられたと感じる音楽かどうかという観点で、ハーウッドが気に入っている自身の楽曲を尋ねられると、次のように答えている[#20]。

「私には、映画の中で創作するのを心から愛した2、3の楽曲があります。シーンから私のお気に入りになりました。“Goodbye to their my Children”は、港での避難のシーンに伴う音楽です。映画への音楽を調整しているときに書いた楽曲です。まだ映像を観てはいませんでした。ですが、原作を読んでいました。非常に早い段階で使われたキューでしたが、映像が固定された最後までそのままでした。そのシーンは原作の中では鮮明で、心を捻じ曲げられます。
ドーシーがジュリエットに手紙を書いてどのように豚を盗んで食べたのかを思い出すシーンは、もうひとつのお気に入りです。そのシーンは温かくて友情とユーモアがあります。編集の早い段階で書いたもうひとつのキューです。編集が変わるにつれてそのキューも変わりましたが、そのキューには、最終的に残りのスコアに現れる数曲のメインテーマを付与しました。
さらに、ペネロープ・ウィルトン(アメリア・モーグリー役)の心を動かす演技のための音楽を純粋に気に入っています。彼女の夫が海でどのように亡くなったのかをジュリエットに伝えるときに、彼女を支える音楽が大好きです。
ロンドンのエアー・スタジオで録音されましたが、オーケストラは繊細さを演奏し、非常に美しく感情を引き出してくれました。」[#21]

【参考】<『ガーンジー島の読書会の秘密』の第一楽章 指揮:ピート・ハリソン 演奏:ウェルズ・カテドラル・スクール・シンフォニー・オーケストラ>

参考URL:

[#1][#3][#5][#7][#8][#9][#10][#11][#12][#13][#14][#15][#16][#17][#18]https://scoremagazine.nl/archief/197/interview-with-alexandra-harwood/

[#2]https://www.thesoundarchitect.co.uk/interview-alexandra-harwood/

[#4][#6][#19]https://airedelcouk.wordpress.com/2018/04/20/an-interview-with-the-guernsey-literary-and-potato-peel-pie-society-composer-alexandra-harwood/

[#20][#21]https://hiddenremote.com/2018/08/06/interview-guernseys-alexandra-harwood/

https://www.flickeringmyth.com/2018/08/exclusive-interview-composer-alexandra-harwood-talks-the-guernsey-literary-and-potato-peel-pie-society-and-musical-influences/

https://www.flickeringmyth.com/2018/08/exclusive-interview-composer-alexandra-harwood-talks-the-guernsey-literary-and-potato-peel-pie-society-and-musical-influences/2/

https://meettheartist.online/2017/10/30/alexandra-harwood-composer/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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