作曲家でシンガーソングライターのランディ・ニューマンは、『トイ・ストーリー4』までそのシリーズの映画音楽をすべて担当してきた。
現在75歳のニューマンは、パシフィック・パリセーズを背にした家の小さなスタジオのピアノの前で、第1作目の『トイ・ストーリー』で受けた電話を思い出す。「それは恐怖の始まりでした。それまで自分が担当した音楽とは異なっていたからです」と。1995年に、ピクサーは、ニューマンを雇った。そのとき、ニューマンは、子供向けの映画やアニメの映画にスコアを書いたことがなかった。しかし、ピクサーは、一部を担う人物としてニューマンを求めた。彼の音楽の温かいアメリカーナのサウンドだけでなく、鋭さのためである。オーケストラなしでは、コンピュータ・グラフィックスがあまりに冷たく感じられるのではないかと心配したのである[#1]。
ウォルト・ディズニー・スタジオの代表取締役副社長を務めるトム・マクドゥーガルは、ニューマンについて次のように話す[#2]。

「ピクサーは、アンチディズニーに近いです。ミュージカルを求めず、プリンセスの映画でもありません。魔法などが描かれることもありません。ランディは、トム・ハンクスやティム・アレンと同じように大切な存在です。… そこに彼の音楽がなければ、確かにそのことを感じるはずです。彼なしでは、この映画を製作したいとは思わないでしょう。」[#3]

『トイ・ストーリー』シリーズのニューマンのスコアは、跳ねて小走りで走る。おもちゃが動けば音楽も動くのは自然なことであると彼は考えている。ニューマンは、『トイ・ストーリー』シリーズにいくつもの印象深い歌曲を書いている。 “You’ve Got A Friend In Me”(「君はともだち」)は、ディズニー・ソングの殿堂入りを果たしている[#4]。

映画のシリーズが進むにつれて、キャラクターたちは立ち止まって深く考えるようになる。『トイ・ストーリー2』で、ニューマンは、サラ・マクラクランのために、“When She Loved Me”(「ホエン・シー・ラヴド・ミー」)を書いた。『トイ・ストーリー3』では、ウッディと仲間たちは、自分の子供、すなわち、大人になるアンディを失うことへの悲しみに苦しむ。『トイ・ストーリー4』によって、ニューマンは観客の心を強く惹きつける機会を得た。ウッディが人生における目的の喪失に直面したとき、ニューマンはそこに大人の感情を表現した。「それは、ウッディが持っている大人の問題です」とニューマンは笑いながら述べた[#5]。

ニューマンはいまだに、キャラクターたちについてのピクサーとの最初の話し合いを覚えている。「感じていることを、感情を、真剣に汲み取らなければならないです。ある人が気分が悪いと感じているときに、重要ではないというようなことではありません」と[#6]。

1995年のときでさえも、ランディ・ニューマンは感情のあるおもちゃのアニメに、型にはまらない選択をした。『トイ・ストーリー』シリーズで、彼はユーモアと愛情を広く探求したのだ。恐らく、最新作の場合は特にそうであろう。「それは、トイ・ストーリーに私が作曲をした中でベストだという直感があります」とニューマンは語る[#7]。

『トイ・ストーリー4』のレコーディングで、ランディ・ニューマンは、20世紀フォックスのニューマン・スコアリング・ステージの指揮台の上に立った。彼の伯父に当たるアルフレッドに因んで命名された。また、アルフレッド、伯父のエミール、叔父のライオネルは数十年にわたってその場所で指揮をした。そして、それは1930年代に始まる[#8]。

「15、16と17小節ではできるだけドラマティックにしてください。演奏するときは、このような顔で」とニューマンは102人のミュージシャンたちに話して顔をしかめると、オーケストラは笑いに包まれた。彼らは、『トイ・ストーリー4』のクライマックスシーンの長い楽曲を演奏し始めた[#9]。
ニューマンは、ヘッドフォンを身につけて、右手に指揮棒を持ち、小さなジェスチャーで指揮を行う。そして、ひとつひとつのテイクの前後でオーケストレーターのドン・デイヴィスと話し合う。デイヴィスは、「文句なしに仕事において非常に優れたメロディの作曲家」としてニューマンを称賛する(デイヴィスは作曲家でもあり、『マトリックス』シリーズの音楽などを手掛けている)[#10]。

ニューマンが『トイ・ストーリー4』の最後のシーンのために、6M6のキュー(“Parting Gifts”)を指揮すると、ジョシュ・クーリー監督は、ニューマンに「完璧だよ」と伝えた[#11]。

【『トイ・ストーリー4』のサウンドトラックから“Parting Gifts & New Horizons”】

ニューマンは、『トイ・ストーリー4』の音楽を作曲するのには、取り組み易い部分があると述べる。1995年に遡って、シリーズ前3作品を参照できるからだ[#12]。

「この映画(『トイ・ストーリー4』)は取り組み易いです。この映画が求める範囲で、エモーショナルのレヴェルを維持するのは難しいのです。しかし、いくつかのところでは、それは取り組み易いです。以前の音楽から少しの楽曲を使うことができるからです。」[#13]

クーリー監督にとって、『トイ・ストーリー4』のプロジェクトにおけるニューマンの音楽は重要であった。彼は、ランディの音楽が『トイ・ストーリー』シリーズの「声」であると述べる。そして、長年にわたって愛してきたメインキャラクターと同じように大切であり、彼がいなければ、この映画は成し得なかったのだと[#14]。

「私には確実に起用したい3人がいます。彼らからは物語を感じます。トム(・ハンクス)、ティム(・アレン)、そして、ランディです。物語を明確にするのに長い期間を要しましたが、明確になったと思ったら、ランディの家へ行き、彼に売り込みました。彼の賛同がとても大切だったからです。」[#15]

しかし、ニューマンが『トイ・ストーリー』シリーズの音楽を手掛けていく中で、必ずしも監督との関係が円満であったわけではない。ニューマンは、『トイ・ストーリー3』で、リー・アンクリッチ監督とは意見の相違があったことを明かしている。彼は、アンクリッチ監督が映画のファイナルヴァージョンにテンプスコアを使ったことに不満であった[#16]。

「映画はうまくいっています。たぶん、私が間違っているのです。そのことを回想すると、違いの開きが分からなかったのです。しかし、私が試みたであろう方法でグローヴに手を合わせていないのです。そして、彼は(テンプスコアに)心から惚れたのです。」[#17]

そのとき、ニューマンはピクサーが再び自分を起用しないだろうとまで考えた。ニューマンは、ピクサーがマイケル・ジアッキーノ[『Mr.インクレディブル』(2004年)、『レミーのおいしいレストラン』(2007年)『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009年)、『カーズ2』(2011年)、『インサイド・ヘッド』(2015年)、『リメンバー・ミー』(2017年)『インクレディブル・ファミリー』(2018年)]や従兄弟のトーマス・ニューマン[『ファインディング・ニモ』(2003年)、『ウォーリー』(2008年)、『ファインディング・ドリー』(2016年)]との方がうまくやっていけると思っていると述べた[#18]。

ニューマンは『トイ・ストーリー4』に8ヶ月間を費やした。推定で1時間のレコーディングで、『トイ・ストーリー4』ための4分の1の音楽を録音した。それは3回目のレコーディングであった(それ以前の2018年9月と2019年1月にもレコーディングセッションが行われた)。彼は、2つの新たな歌曲を書いた。“I Can’t Let You Throw Yourself Away”(「君のため」)を、自分がゴミであると思っている先割れスプーンのフォーキーのためにニューマンが歌った。さらに、“The Ballad of the Lonesome Cowboy”(「孤独なカウボーイのバラード」)を、カントリー・アーティストのクリス・ステイプルトンがクロージング・タイトルへと歌っている[#19]。

“The Ballad of the Lonesome Cowboy”(「孤独なカウボーイのバラード」)はアンディからボニーへと持ち主が変わるウッディのことが歌われているが、もともと、オープニング・ソングとして考えられていたとニューマンは明かした。しかし、はじめのシーンの変更によって、“You’ve Got A Friend In Me”(「君はともだち」)のリプライズに差し替えられた[#20]。

『トイ・ストーリー4』でニューマンは、新たなおもちゃに新たなテーマ曲を書いたが、それよりも大切であったのは、ボニーの家族(と彼女のおもちゃたち)がRVで出掛けた際に、彼のアメリカーナの特徴的なスタイルによって、ウッディと、後のラグタイムとヴォードヴィルのタッチが、カウボーイヒーローを目覚めさせるシークエンスを前面に取り戻すことであった。過去に彼が音楽を作曲した実写映画『ラグタイム』(1981年)や『ナチュラル』(1984年)を想起させる(彼は、フランス系カナダ人のスタント・ドライヴァーであるデューク・カブーンのために、アコーディオンによって簡潔に楽しいフランスのタッチを加えている)。[#21]

ニューマンは、「トイ・ストーリーの人」としてのみにおいて覚えらえれることを望まない[#22]。ニューマンは『トイ・ストーリー』以前には数々の実写映画を手掛けたが、『トイ・ストーリー』を手掛けた後は、彼にはアニメーションの作曲家としての固定観念が生まれてしまった。2015年に、ニューマンは、もし自分の選択で映画に音楽を書けるとしたら、何を選ぶかという質問には次のように答えている[#23]。

「映画には概観があります。引き離されたカットです。『愛と哀しみの果て』(1985年)を観たことを思い出します。受け持つには良い仕事だと思いました。『アンナ・カレーニナ』(2012年)と『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)は悪くない仕事です。しかし、オファーは来ていません。私には、アニメーションを手掛けるという固定観念ができてしまっています。それは、何よりも厳しいことだと思います。時折、私はむしろドラマティックな映画の作曲をしたいと思います。自分はそれが一番得意だと思うからです。どの程度、映画の音楽について気に掛けられているのかは分かりませんが、たぶん、そのコメントは、過去の自分のもうひとつの場合です。」[#24]

【『トイ・ストーリー4』のサウンドトラックから“You’ve Got A Friend In Me”(「君はともだち」)】

参考URL:

[#1][#2][#3][#4][#5][#6][#7][#22]https://www.npr.org/2019/06/21/734515413/randy-newman-the-musical-voice-of-toy-story

[#8][#9][#10][#11][#12][#13][#14][#15][#19][#20][#21]https://variety.com/2019/music/news/randy-newman-toy-story-4-score-songs-1203250021/

[#16][#17][#18]https://www.classicfm.com/discover-music/periods-genres/film-tv/randy-newman-toy-story/

[#23][#24]https://www.telegraph.co.uk/music/artists/randy-newman-interview/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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