本日7月5日(金)より公開される「Girl /ガール」を一足先に鑑賞した。その作品レビューをご紹介したい。

本作はベルギーの新鋭ルーカス・ドンの長編デビュー作となる。

2018年の第71回カンヌ国際映画祭に出品され、カメラドール賞(新人監督賞)、国際批評家連盟賞を受賞した。また、第76回ゴールデン・グローブ賞「外国語映画賞」ノミネート、第76回アカデミー賞外国語映画賞のベルギー代表への選出ほか、世界中の映画祭で高い評価を得た。

製作のきっかけは2009年にベルギーの新聞に掲載された、バレリーナになるために奮闘するトランスジェンダーの少女の記事が元で、ドンは“必ず彼女を題材にした映画を作りたい”との強い思いから、約9年の歳月をかけて本作を完成させた。今や彼は第二のグザウィエ・ドランとの呼び声も高い。また主演のビクトール・ポルスターはアントワープ・ロイヤル・バレエ・スクールに通う現役のトップ・ダンサーで、500人を超える候補者の中から選ばれた。初の映画出演となる。

 

ストーリーはトランスジェンダーの少女ララの物語だ。

男性の体に生まれたものの、彼女の夢は一流のバレリーナになることだ。

強い意志と才能、そして血のにじむような努力の末、難関とされるバレエ学校への入学を認められる。

しかし、成長とともに変化していく体によって思い通りに踊れなく焦りや、クラスメイトの嫌がらせ、嫉妬により、思春期のララは次第に追い詰められていく。

冒頭から、ララと可愛らしい弟ミロのやりとりから始まるところに、素朴な温かみを感じる。トランスジェンダーの女性を描いているが、あくまでも「家族の映画」としての主張を感じる。父親のマティアスは常に子供を責めず、常に受容する姿勢を貫く。性別をもって批判をしない成熟さを感じた。ミロも彼女をとても大切に思い、懐いているのだ。

ララは思春期の女性らしく、男性にも興味をもつし、ピアスも開ける。早く同級生の女の子たちと仲良くなりたい。行動そのものは、トランスジェンダー問わず、とても自然で無理がない。ただ、いつ自分の体が本物の女性になれるのか、ホルモン治療を急ぎたい、体を完全に女性にしたいという焦りや苦しみが常にある。その描写は生々しく、心に迫るものがある。

ベルギー映画といえば著名なダルデンヌ兄弟だが、彼らの作品はドキュメンタリーと間違うくらい、主人公たちとの距離が近い。息遣いや心の機微、ためらいが画面を通して本当に伝わってくるのである。そうした目線からいくと、ドン監督の作品はそこまで主人公との距離は近くない。撮影裏話では、バレエ学校で皆が踊るシーンではカメラスタッフすら映らないように鏡の後ろに隠れた、というエピソードがあるくらいだが、あくまでフィクションなのだろうと想像できる範囲だ。だが他の国の作品と比べ、明らかにごまかしがないし、主人公の心の機微を逃すことがない。ベルギー映画本来の静かで質実剛健な姿勢ははっきり存在し、後半の展開に大きく影響し、そこで心を強く揺さぶられる。

同時に、バレエそのものの美しさも魅力だろう。その優美な世界観を愛し、憧れる人も多いが、ベルギーが世界に誇る振付師シディ・ラルビ・シェルカウイによるダンスシーンは必見だ。新たなバレエ映画の誕生なのは間違いない。

さりげないが管楽器やピアノを基調とした音楽にも、ぜひ注目していただきたい。筆者はララがクラスメイトたちとプールに飛び込むシーンが大好きで、そこで流れる音楽の透明感や映像の繊細さに本作の魅力が表されていると感じた。ソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』や『Somewhere』を思い起こさせた。

以下は以前に筆者が書いた記事になる。よろしければご参考にしていただきたい。

http://indietokyo.com/?p=9764

「Girl / ガール」

(2018年/ オランダ、ベルギー/1時間49分/配給 クロックワークス、Star Channel Movies )

公式ホームページ

http://girl-movie.com/

監督 ルーカス・ドン

脚本 ルーカス・ドン、アンジェロ・ティヒセン

主演 ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ、オリバー・ボダル

(2019年7月5日公開)

鳥巣まり子 ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は接客業をしながら製作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はペドロ・アルモドバルとエリック・ロメール。


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