『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)

アラン・シルヴェストリは、これまで4作品のMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の音楽を作曲してきた。それらは、シルヴェストリ自身だけでなく、それぞれの作品の監督の意向のもとで創作が行われてきた。

その第1作目にあたるのは、2011年の『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』である。シルヴェストリにとって、テーマ曲は全体の構成の面でも重要である。例えば、この時に作曲されたキャプテン・アメリカのテーマ曲は、後に彼が手掛けたMCUの作品群でも聞くことができる。ジョー・ジョンストン監督との最初のミーティングで思い付いたアイデア、さらに、始めからアプローチは明確であったのかを問われると、シルヴェストリは以下のように振り返った[#1]。

「ある程度は明確でした。それはジョーと取り組まなければならなかったことであり、映画に関する根本の考えです。『キャプテン・アメリカ』は、非常に面白い影響を併せ持っています。平行世界を扱っています。未来的で、高いテクノロジーのSFの環境に設定されている時代の曲だからです。ジョーは、それら2つの異なるジャンルの世界の移動を考慮した上での徹底したオーケストラのスコアを求めました。彼は、とてもそのことに直感的でした。自分にとってそれは素晴らしいことでした。そして、最初で最後のミーティングで彼は『テーマ曲』という言葉を口にしました。私が大好きな言葉です。キャラクターや映画のある側面のために、音楽のシグネチャーを持たせることで、スコアがまとまります。テーマ曲によって、音楽は、ある程度ひとつの楽曲のようになるのです。」[#2]

シルヴェストリは、『キャプテン・アメリカ』のスコアを考える上で、参考にした音楽として1942年のアーロン・コープランドの『市民のためのファンファーレ』を挙げている[#3]。

「特定の映画のスコアをまったく考えていなかったとは言いませんが、長い時間を掛けて、ヒロイックなステートメントと関連付けられたある種の要素があることは確かです。例えば、アーロン・コープランドの『市民のためのファンファーレ』に立ち戻ります。そこには、明確で力強いステートメントを奏でるフレンチホルンと共に、あるタイプのパーカッションの要素、音程、器楽編成法があります。ファンファーレを考慮する際に、フレンチホルン、トロンボーン、トランペットを考えるのが普通です。弦楽器上での、または弦楽器による闘いにおけるラッパの響きは、普通ではありません。繰り返しになりますが、愛国的な事柄において金管楽器が奏でる響きとの非常に根強い関係性があることは確かなのです。だから、長年にわたって観客がこのヒロイックな側面と関連付けられているというヴォキャブラリーがあるのです。『キャプテン・アメリカ』は、それにうまくあてはめる機会でした。音楽で一緒に観客が勇敢になることができ、音楽で観客に自分の名前さえも与えてくれるキャラクターなのです。」[#4]

『アベンジャーズ』(2012年)

2012年の『アベンジャーズ』では、ジョス・ウェドン監督と組むこととなった。シルヴェストリは、前年の『キャプテン・アメリカ』での起用がこの仕事へと繋がったと考えていると述べている[#5]。シルヴェストリの言葉からウェドン監督への信頼が高かったことが窺える。

「ジョスは、映画の熱心な研究家で、とてつもなく多くの映画のヴォキャブラリーを持っています。とても仕事がやりやすかったです。彼が求めていることがとても明確だからです。特定の監督のように、ジョスは起こっていることについて多くを話しません。自分の作品において、そのことは美しく表現されているからです。ベストなコミュニケーション部分は、『アベンジャーズ』そのものです。音楽として映画に必要なものの観点において、私たちの間にはとても多くのシンクロニシティがあるように感じました。」[#6]

『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』のジョー・ジョンストン監督は明確にテーマ曲を求めた。キャプテン・アメリカのテーマ曲は、『アベンジャーズ』の中でも使われているが、限られた部分にのみに用いられた。さらに、マーベルとジョス監督は、キャラクターをまとめる音楽や映画の様々な側面を明確に識別するマテリアルを望んだ。シルヴェストリは、グループとしてのアベンジャーズのテーマ曲を作曲することで、その要求に応えた[#7]。
シルヴェストリは、別の作曲家によるマイティ・ソーやアイアンマンといったキャラクターたちの過去のテーマ曲を参照することに関する話し合いが行われたかという質問に対しては次のように述べた[#8]。

「そのことに関する話し合いは、まったくありませんでした。例えば、キャプテン・アメリカのテーマ曲に関しても同様です。グループとしてのアベンジャーズのためのテーマ曲を望むということについての話し合いだけです。この映画でそれぞれのキャラクターへのテーマ曲があれば、音楽には魅力がなくなり、教訓的になると思ったのです。だから、それを避けたのです。ロキのモチーフを思い付きましたが、この映画で中心のヴィランだからです。音楽を書いている途中で、ジョスはブラック・ウィドウが登場するシーンを観ていました。そこに彼は、彼女のちょっとしたテーマ曲を求めましたので、私は曲を書きました。しかし、皆が期待していた瞬間とは、ニューヨーク市の中心部のシーンです。アベンジャーズの皆がそこに立ちます。アベンジャーズのテーマ曲がどうであろうが、それはその場所でうまく機能します。」[#9]

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)

2018年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で、シルヴェストリは再びMCUの音楽を担当した。ジョー・ルッソ監督、アンソニー・ルッソ監督、マーベル・スタジオの代表のケヴィン・ファイギは、非常に早い段階のプロセスでシルヴェストリとともに同映画に取り組んでいた[#10]。

「最初のミーティングは、『それぞれのキャラクターへの音楽のテーマを使うことに賛成するか?』という質問で始まりました」とシルヴェストリは述べて、批判的な見解を示した。「そのことを進んで取り入れますが、しかし、それを試みることで散漫になってしまうという意見が大方でした。」[#11]

しかし、シルヴェストリは、ワカンダへと向かう際に、作曲家のルドウィグ・ゴランソンの『ブラックパンサー』のテーマ曲を使うことに賛成した。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のスコアは、オーケストラで演奏されるが、それはルッソ兄弟が望んだことであった。一方で、シルヴェストリは、決して映画に先立って、2人の監督と仕事をせず、そのプロセスについても留保していたことを認めた[#12]。

「私は、はじめ懐疑的でした。監督は、主観的な仕事を行います。男性であろうと女性であろうと、船のキャプテンです。決定的な答えを求めるならば、キャプテンに尋ねます。」[#13]

シルヴェストリの不安は、最初のミーティングの後に、すぐに解消されていった[#14]。

「その兄弟が一緒に仕事をする方法は本当に驚くべきものでした。2人が同時に話し始めることは一度もありませんでした。彼らは、直感的に仕事の分担が、『ルッソ兄弟』として存在が知られる中にあるということを分かっていました。本当にひとりの人物と仕事をしているかのようでした。」[#15]

シルヴェストリは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の中心は、サノスにあることを明らかにした[#16]。

「サノスには、自分のテーマ曲があるだけではありません。彼には感覚が備わっているのです。この映画で彼が占める地位の全体量を考えるだけで、それに値するのです。」[#17]

ほかの敵対者にとって、サノスの4人の子供たちは、ブラック・オーダーとして知られている。シルヴェストリは音楽の繋がりを確立しようと試みた[#18]。

「サノスとその仲間は、皆がサノスのように扱われます。彼らは、音楽の特徴を持っています。彼らが実行するヴィジョンは、サノスのものだからです。」[#19]

インフィニティ・ストーンは、映画の中で色濃く描かれる。しかし、それに音楽のシグネチャーを与えないことを決めた[#20]。

「最初のキャプテン・アメリカにおけるテッセラクト(インフィニティ・ストーンのひとつ)で、いくつか行ったことがあります。声やハープの音色を響かせたのです。インフィニティ・ストーンへの音楽は、サノスの反応の周辺で形作られます。彼がひとつ手に入れるたびに、その瞬間は、常に重要で、しばしばエモーショナルなのです。」[#21]

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)

2019年の『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、前作に引き続き、ルッソ兄弟が監督を務めた。アンソニー・ルッソ監督は、テーマ曲の観点から以下のように音楽について言及している[#22]。

「MCUのテーマ曲を保つ観点から、キャプテン・アメリカ、以前のアベンジャース、特にインフィニティ・ウォーからのアランのテーマ曲を用いたかったのです。インフィニティ・ウォーには、(インフィニティ・)ストーンのひとつに紐付けられたひとつの特定の音楽があります。」[#23]

“Portals”(サウンドトラックの中の楽曲の名称で、アベンジャーズが集結する最後のクライマックスシーンの音楽)のシーンは、早い段階で鍵となる瞬間として決められてた。そのヒロイックな瞬間を創り上げるのには、多くの異なるアプローチが試された。スリング・リングで開かれたひとつひとつのゲートが際立つように、それらを分けて見せていく方法とったが、それを行えば行うほど、うまくいかないことが分かった。それには、もっと全体を見渡すことが必要であったからである。そして、そのアプローチを彩るのは、シルヴェストリの音楽である[#24]。以下はシルヴェストリの言葉である。

「感情を概観することなのです。『ねぇ、見てよ。皆がやってきて、皆のことを見渡せるよ。皆が戻ってきたんだ。活気が戻ってきたんだ』と。だから、全体を見渡すことに落ち着いたのです。そこに新たなテーマ曲を使いました。それに対処するものはほかにはなかったからです。それは楽曲のひとつで、何度も繰り返され、キーが変化し、大きく壮大になっていく、同様のテーマ曲です。この最後、キャップ(キャプテン・アメリカ)が囁く『アベンジャーズ・アッセンブル』のセリフがもたらされた後に、オリジナルのアベンジャーズのテーマ曲を挿入しなければならないことは分かっていました。攻撃が始まるとき、オリジナルのアベンジャーズのテーマ曲で完全に没入できます。だから、観客は、しばらく経ってから最も満足させるアプローチであると分かるのです。私は、最終的に自分たちが非常にうまく機能するものに到達したと思いました。」[#25]

【“Portals”(ゲートを抜けてきたアベンジャーズとその仲間たちが集結するシーンの音楽)】

『アベンジャーズ/エンドゲーム』で、シルヴェストリは気に入っている音楽のシーンがあるかどうかを尋ねられると、同じテーマ曲が流れる最初と最後のシーンについて語り始めた[#26]。

「そのほとんどは、自分の大好きな子供のようになると思います。映画に早い段階で取り組んだとき、面白いと思いました。トニーとの別れが訪れ、マーベル映画で葬儀に出席する皆とともに、5、6分間を過ごす最後のシーンです。これは、能力が試される箇所でした。そして、そこになにをすべきなのかを考えました。畏敬の念、厳粛さを必要としていましたが、美しさ、約束、解消の感覚がなければなりませんでした。あまりに恐れたために、そこに向かい合って取り組むことができなくなりかけました。
宇宙でトニーが困った状態に陥り、ペッパーへのメッセージを終えるという最初の場面の音楽に取り組んでいました。彼はジャケットを着て、横たわります。とてもシンプルで、エレクトロニックで、ひとつの楽器がこのテーマ曲を奏でます。トニーがネビュラに椅子に座らせてもらう際に、支えてくれるテーマ曲です。
そのテーマ曲を思い付いたとき、それが映画の最後の葬儀へのキーとなることに少し気付いていました。映画の最後まで再びそのテーマ曲を聞くことはありません。しかし、映画の最後を恐れる必要はないと分かったとき、非常に素晴らしいシーンのひとつとなったのです。最初のリールでキーを思い付いたからかもしれません。それは、とてもエキサイティングであったことは確かです。」[#27]

【“The Real Hero”(トニー・スタークの葬儀のシーンでの音楽)】

参考URL:

[#1][#2][#3][#4]http://www.filmmusicmag.com/?p=8199

[#5][#6][#7][#8][#9]http://www.filmmusicmag.com/?p=9475

[#10][#11][#12][#13][#14][#15][#16][#17][#18][#19][#20][#21]https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/avengers-infinity-war-composer-had-hardest-time-thanos-scene-1106131

[#22][#23]https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/avengers-endgame-composer-his-poignant-journey-score-1204799

[#24][#25][#26][#27]https://editorial.rottentomatoes.com/article/avengers-composer-alan-silvestri-endgame-moment/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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