去る2月24日に行われた第91回アカデミー賞。Netflix製作、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA／ローマ』が、作品賞こそ逃したものの、監督賞、撮影賞、外国語映画賞の3部門を受賞し、アメリカ最大の映画の祭典におけるNetflixの存在の大きさを知らしめる結果となった。かねてよりNetflix製作の映画がアカデミー賞にノミネートされていることに対して不快感を示しているスティーブン・スピルバーグは、今回の結果を受け、アカデミー賞の主催である映画技術科学アカデミーの会合において、ルールの変更を提案することを予定していると、複数のメディアが報じている。[1][2]
かつてスピルバーグはITVのインタビューの中でこう語った。「一旦テレビのフォーマットに合わせてしまったら、それはもうテレビ映画だ。たとえそれが秀作だったとしても、確実にエミー賞にこそふさわしい。アカデミー賞ではなく」。クリストファー・ノーランも、Netflixの公開方法について、「奇妙」で「愚か」と批判したが、後に謝罪している。[3]
今回、作品賞を『ROMA／ローマ』が受賞する可能性があったことに対し、ハリウッドのメジャースタジオは激怒し、以下のような苦情を申し立てた、とIndieWireは報じている。
・Netflixは費用をかけすぎている。あるアカデミー賞のストラテジストは、『グリーンブック』が5万ドルであるのに対し、『ROMA／ローマ』には、アカデミー賞関連で50万ドルが費やされていると試算した。（The New York Timesは25万ドルであると報じ、当のNetflixは、すべてマーケティング予算の中に組み込まれていると主張している）。
・『ROMA／ローマ』により、他の外国語映画の配給がつぶされた。ソニー・ピクチャー・クラシックスの共同代表を務めるMichael Barker氏は、経済的な理由から、ノミネート作品である『Never Look Away』と『Capernaum』を、ホリデーシーズン明けの劇場公開にせねばならず、そのために、投票権のあるアカデミー会員に観てもらう機会が減った、と語る。
・『ROMA／ローマ』の劇場公開は三週間のみであった。
・Netflixはボックスオフィスに報告を行っていない。
・Netflixは90日間の公開ルールを尊重していない（注：劇場公開から90日間は他媒体への展開を行わないという慣習）。
・Netflixの映画は190か国で、24時間毎日見ることができる。[3]
Netflix側は、これらの動きに対し、3月4日に公式ツイッターで、以下のように発言している。
“私たちは映画を愛しています。そして、次のことも同じくらい愛しています。
―好きなだけ観る余裕のない、あるいは映画館のない町に住んでいる人たちに、見られる環境を届けること
―どこの誰でも、同じタイミングで公開作を見られるようにすること
―映画製作者たちに、作品をひろめる、よりたくさんの手段を与えること
これらは、相容れない事柄ではないはずです。“ [1]
この論争について、スピルバーグの盟友でもあるポール・シュレイダーは、Facebook上で、自身の作品『First Reformed（邦題：魂のゆくえ）』がNetflixには受け入れられなかったものの、A24の配給により劇場公開されたことに触れ、「もしNetflixがこの作品を拾い上げていたら、これほど広く受け入れられていただろうか？」と語りつつも、インディペンデント作品は、映像配信サービスと手を組み、新しい配給の仕組みを提案していくべきだ、という自論を述べている。[4]
映像配信の拡大により、映画と一言で言っても、必ずしも劇場公開されるものだけではなくなった。また、巨額の投資により、新進気鋭の若手監督だけではなく、今やマーテイン・スコセッシなどのベテラン監督もNetflixで作品を制作するようになっている。シュレイダーの指摘するように、必ずしも全ての作品が配信に向くとは言えないものの、インディペンデント映画にとっては、新しいチャンスを生み出す可能性も広がってきていると言えるのではないだろうか。メジャースタジオの強い影響下にあったアメリカ映画界が、これからどう変わっていくのか、注視していきたい。
[1] [2]https://www.indiewire.com/2019/02/steven-spielberg-vs-netflix-oscar-academy-wars-
1202047846/
[3]https://www.vulture.com/2018/03/steven-spielberg-thinks-netflix-films-dont-deserve-oscars.html
[4]https://www.theguardian.com/film/2019/mar/04/netflix-steven-spielberg-streaming-films-versus-cinema
佐藤更紗
国際基督教大学卒。映像業界を経て、現在はIT業界勤務。目下の目標は、「映画を観に外へ出る」。
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