[727]J.J.エイブラムスが放つ一筋縄ではいかない戦争映画『オーヴァーロード』


第二次世界大戦末期、西ヨーロッパを占領するドイツ軍を目指し、200万人近い兵士がドーヴァー海峡を渡ってフランスのノルマンディー海岸に上陸した。今もなお史上最大の上陸作戦と称されるこの作戦の別名「オーヴァーロード」を冠した“戦争”映画が先月、全米で公開された。製作は、スター・ウォーズやスタートレックシリーズのJ.J.エイブラムス。監督は、ユアン・マクレガーがアウトローを演じた豪産ノワール『ガンズ&ゴールド』のジュリアス・エイヴァリー。脚本は、『レヴェナント』のマーク・L・スミスに『キャプテン・フィリップ』のビリー・レイが務める。

 

YouTubeで公開中の予告編は、極めてオーソドックスな戦争映画のスタイルで始まる。海上を進む飛行部隊。そのうちの一機には、不安げな面持ちで降下のタイミングを待つ連合軍の兵士たちがひしめく。彼らはこれから、ナチスが待ち構えるノルマンディー海岸へと送られるのである。突然、爆音とともに機体が吹っ飛ぶ。悲鳴と怒号が飛び交うなか、兵士たちは砲撃をかいくぐってパラシュートに身を任せ、無我夢中で飛び降りていく(飛行機と降下するパラシュート隊を血痕であらわすポスターがいい)。生き残った者はわずか。隊列を組んで進む兵士たちの前に、明かりのともる村があらわれた。連合軍に協力的な地元民もいる。九死に一生を得たとばかり歩を進めるうちに、兵士たちは不気味な施設へと迷い込んでいく。そこはナチスが秘密裏にある薬品の開発を行っていた元人体実験場。兵士たちを待ち構えていたのは、ナチスにうち捨てられた実験体だった。殺しても、殺しても死なない彼らが、凄まじい破壊力をもって兵士たちに襲いかかる!

 

実は本作、戦争の史実を取り入れたゾンビ映画である。

 

ゾンビ化したナチスとの戦いというのは、やや手垢のついたテーマだ。近年、日本で公開もしくは媒体が発売されただけでも『ヒトラー最終兵器』や『ウォー・オブ・ザ・デッド』、『処刑山・デッドスノウ』、『ゾンビ・ソルジャー』などがある。どの作品も、「不老不死で最強の兵士を目論んだドイツ軍の実験により誕生したゾンビ軍団が、アメリカや連合軍やその他の軍と戦う」というひねりも新機軸も取り入れる余地のないようなステロタイプな展開を見せる。では、エイブラムスにはどんな狙いがあってこのジャンルに参入したのだろうか。鍵となるのが、エイブラムスがプロデュースする「クローバーフィールド」シリーズである。

 

物語の核心を描かず、何が起こっているのかわからないまま、激変する環境に翻弄される登場人物を通じて得られる緊張感、謎だらけで先の見えないスリルが醍醐味といえるこのシリーズは熱烈なファンを持ち、ことしその第3弾『ザ・クローバーフィールド・パラドックス』がNetflixで公開されるも、失望と不評をもって迎えられる結果となった。1作目『クローバーフィールド/HAKAISHA』に続いて、設定も登場人物も全く継承されない2作目の『10クローバーフィールド・レーン』が公開された時点で、「このシリーズは『あれ』の存在を根底に据えつつ、未来や過去、場所といった時空を問わずに繰り広げられるユニバース」と認識を新たにしたファンにとってさえも、『ザ・クローバーフィールド・パラドックス』は規格外であった。そもそも『ザ・クローバーフィールド・パラドックス』は、本来ミステリー要素の強かったSF『ゴッド・パーティクル』という作品を取り込んでつくられたものである。脚本家オーレン・ウジエルは『ゴッド・パーティクル』がクローバーフィールド化した経緯について「現在の市場では、オリジナル映画、特にサイエンスフィクション作品を上映することはますます困難になっているのではないかと思う。『ゴッド・パーティクル』がクローバーフィールドの世界におさまるのであれば、そうすることが最善の方法だろうと考えた」と語っている。その世界観になじむよう、恐怖とシュールレアリスムのスパイスを強めにきかせて仕上げたのが『ザ・クローバーフィールド・パラドックス』であり、この異種配合の試みは、残念ながら免疫不全で終わってしまったといえる。

 

『オーヴァーロード』にも当初、クローバーフィールドの第4弾なのではないかという噂が飛び交った。SFに続いてゾンビ要素を…という発想はユニバースを拡張する手段として考えられなくもない。しかし『ザ・クローバーフィールド・パラドックス』の、ある意味失敗が、エイブラムスにクローバーフィールド化計画を思いとどまらせたのかもしれない。エイブラムス自身はパラマウントピクチャーズでの講演で「私たちはこれとは別に、クローバーフィールドの続編を企画している」と関連をきっぱりと否定。本作が独立した戦争ゾンビ映画として劇場公開に至ったのには、このような背景と事情が推察される。

 

本作についてエイブラムスは「戦争映画でありながらホラー作品。アクション要素とドラマもあり、ひとつの器にはおさまりきらない魅力がある」と語る。「戦争はそれ自体がモンスターのようなものであり、戦争映画にはこれ以上のモンスターは必要ない。しかし、もし、それでもうまくモンスター要素を取り入れることができたら、ある意味で素晴らしく、ある意味で直球の戦争映画と同じくらいの緊張感を生むことができるのではないかと考えた。サイエンスホラーの要素がこれ以上ないというくらい的を射た場所にはまり込んだのが『オーヴァーロード』だ」というのが、戦争とゾンビを融合させた理由のようだ。史実を取り入れたことについては「モンスター映画が成功する秘訣は、状況に破綻がなく、キャラクターに真実味があること。そうすれば、たとえ『これはあり得ないだろう』という展開になったとしても、観客はついてくる」とし、二人の脚本家が練り上げたストーリーと愛すべきキャラクター造形を賞賛する。インタビューでエイブラムスが何度も口にするのが「bizarre(奇妙な)」と「funny(おかしい)」という言葉である。ことしヒットしたニコラス・ケイジ主演の『マンディ』やトニ・コレットがすさまじい顔芸を見せた『ヘレディタリー』でも劇場が笑いに包まれる瞬間があったように、すぐれたホラー映画は時に笑いを呼ぶ。恐怖と笑いは紙一重の要素が『オーヴァーロード』にもあるのだとしたら、期待のふくらむところだ。

 

本国アメリカでの評だが、12月25日現在でロッテントマト81%の批評家支持率を得ている。「もしもB級ホラー版の『プライベートライアン』を観たいなら、その作品はまさにこれ(Los Angeles Times)」、「昔ながらの戦争映画と、おぞましさ全開のホラーとの驚くほど素晴らしいマッシュアップ。最高に楽しい(Entertainment Weekly)」と評判は上々。日本公開は未定だが、昨今のホラーブームの波に乗って、ぜひ来日を果たしてほしい。

《参照》

http://collider.com/god-particle-cloverfield-movie-details-oren-uziel/#sequel

https://variety.com/2018/film/news/jj-abrams-overlord-cloverfield-1202788134/

https://www.youtube.com/watch?v=7K4Ub2wKGLY

https://www.rottentomatoes.com/m/overlord_2018

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。

 


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