東京国際映画祭コンペティション部門より『ディスコ』を紹介する。

主人公のミリアムはフリースタイルディスコダンスの大会で優勝を続ける19歳の少女。しかし、華やかな活躍の裏で、彼女の表情は物憂げだ。
新興宗教”フリーダム”の指導者である継父と母は口論が絶えず、実の父については決して教えてもらえない。家庭内でのストレスに加え、大会での失敗に大きなショックを受けたミリアムは、信仰が中心にある環境で強要される価値観に次第に疑問を抱くようになる。

『ディスコ』という、そのキャッチーなタイトルからは想像もできない物語である。このいい意味での裏切りは、意図したものだとシーヴェシェン監督は語る。
表面的な接しやすさを見せつつ、蓋を開けてみると闇がある。これはまさしく劇中で描かれる教会の状況そのものである。自分たちはリベラルだと強調し優しく信者を歓迎するが、そこには同性愛や俗物を根拠もなく否定するような歪んだ価値観の強要が行われている。
フリースタイルディスコを登場させたのも同じ理由で、信者の閉ざされた世界から見た外の世界、つまり世俗的だと彼らが見下す世界を表現したかったのだと言う。

監督は、ノルウェーにおけるキリスト教フリーチャーチの現状をリサーチすることから製作をスタートさせた。ミサへの参加、信者・元信者への取材を通して得た実体験を作品に反映しており、フィクションでありつつも、とてもリアルな描写になっている。
私たち”外側”から見れば違和感だらけの彼らの行為も、ずっと”内側”で育ったミリアムにとっては違う見え方をする。教会を”外側”から批判する人は一切登場させず(面白いことにみんな別の教会の批判をするのだが)、彼女の繊細な表情とともに3つの教会を描写することで、その環境の問題点を十分感じとれる内容になっている。

本作が観られる機会は、会期中では10/31と11/5の残り2回。お見逃しなく!

≪作品情報≫
ディスコ (原題:Disco)

監督:ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン

キャスト:ヨセフィン・フリーダ・ペターセン、シャスティ・オッデン・シェルダール、ニコライ・クレーヴェ・ブロック

95分/カラー/2019年/ノルウェー

HP:https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32CMP05

荒木 彩可
九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。