今年で第20回目を迎えた東京フィルメックス。

 本記事では、26日(火)に上映されたミディ・ジー『ニーナ・ウー』について紹介します。

 

ミディ・ジー『ニーナ・ウー』Nina Wu

Taiwan, Malaysia, Myanmar/2019/103min.

コンペティション部門

 本作『ニーナ・ウー』は、ミャンマー出身で台湾を拠点として映画制作を行っているミディ・ジー監督の長編第5作である。#MeToo問題を扱ったサイコホラー作品であり、今年行われた第72回カンヌ映画祭ある視点部門で上映された。

 主人公のニーナは売れない俳優である。マネージァーにスカウトされて8年前に台北へとやってきたものの、ほとんど仕事はなく、自室で動画のネット配信を行なっている。そんなとき、マネージャーからある大作映画のオーディションがあると連絡を受ける。その映画には激しいヌードシーンがあるというが、マネージャーは大きなチャンスになるのだとニーナに説明する。ニーナは渋々オーディションを受けることに決め、見事主演に選ばれる。

 映画撮影に入ると、監督の演出は厳しく、ニーナは精神的にも肉体的にも消耗し、心折れかけてしまう。しかし完成した映画は大成功を収め、ニーナは一躍スターに。しかしそんなある日、実家の父から電話が入る。母親が心臓発作を起こして入院しているという。父親が始めたビニール袋会社の失敗によって、実家は多額の借金を抱えていたのである…

 本作は、ニーナ役のウー・カーシーが書いた脚本をもとにして制作されたという。物語は直線的には進まず、夢と現実とが交錯しながら、複層的なかたちで描かれていく。そのあり方は、性被害を被った主人公のトラウマの反復のようである。長回しのカメラワークや、幻想的なライティングが美しい。

 なお、『ニーナ・ウー』は、30日(土)21時15分からもう一度上映される予定である。

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。