『アヴァ』Ava(105 分、フランス)
監督:レア・ミシウス
主演:ノエ・アヴィタ、ロール・カラミー、ジュアン・カノ

13歳のアヴァは、母と、小さな弟/妹と、海辺にヴァカンスに来ている。

物語は、砂浜でアヴァがくつろいでいる時に馬に乗った警官が来るところから始まる。

なんだなんだ、と人だかりができる中に行ってみると、ある男女のカップルと、もう1人の若い男がなにやら口論をしているようだ。

その “もう1人の男”は黒くて大きい犬を連れていて、これがアヴァの視線を奪う。

この犬がきっかけでアヴァは犬を欲しがるが、母親にダメと言われ、結局犬を盗んでしまう。

アヴァが犬を連れてビーチを歩くシーンが物語の前半にいくつかあるのだが、真っ青な空と海、ビーチ、アヴァの褐色の肌というカラフルな色合いの中でこの真っ黒い犬がとにかく目立つ。この犬がいることで、なにか不吉で、悪い予感を引き起こすような、印象を常に持たされる。

そして、ある日、アヴァは母親に病院に連れて行かれる。

そこでは、視力の低下が思いのほか早く進んでいること、夜盲になる日も近いことを医師から告げられる。

帰りの車の中で、アヴァの母親は泣きながら「この夏を人生で一番美しい夏にしましょう」というが、アヴァはそれに対して、「死ねばいいのに。せっかくの休みを(病院に行ったことで)潰した」と返す。

全編を通して、アヴァは一度も弱音を吐かないし、ましてや泣いたりなんてしない。

目が見えなくなった時に慣れておこう、と自分からバンダナを目に巻いてほかの五感を研ぎ澄ます練習を自主的にするくらい。

でもアヴァは決して目が見えなくなることが怖くないのではなくて、アヴァの夜盲になることへの恐怖が作中にはっきり描れているシーンがある。どう描かれているかは見てのお楽しみなのだが、その描かれ方があまりにリアルで怖くて、こちらまでヒヤッとしてしまうものなのだ。そこにまたこの監督の演出の才能を感じることができる。

また物語の前半にしか出てこないアヴァの母親についてだが、「一番美しい夏にしましょう」、と言っているのにもかかわらず、海辺で出会った恋人に夢中である。

アヴァとの会話も何か気まずく、アヴァも思春期真っ只中で反抗し続けるので、夜盲になる、ということがこの親子の関係に大きく変化を生じさせたとはあまり思えない。でもその関係の在り方も、綺麗事とはかけ離れているリアルなものでとてもよい。これは、ただのお涙頂戴物語では決してないのだ。

物語中盤から、黒い犬の持ち主である18歳の少年が、アヴァの物語に大きく関わってくる。

彼らが泥を身体中に塗って木の枝をツノに見立てて走り回るシーンがあるのだが、それにはわたしの身体中のアドレナリンが踊り出した。

他にも2人だけの洞窟の中の秘密基地のシーンやアヴァがダンスを始めるシーンなど、心を踊らされるシーンが散りばめられている。

アヴァにもだんだんと笑顔が垣間見えるようになる一方で、前半の昼間の海のシーンと比べて後半に進むにつれ暗い夜のシーンが増える。それは観客に「アヴァは見えないだろうに大丈夫なのか」という緊張感と不安を掻き立てさせると共に、画面上の黒の要素を増やすことで夜盲であることへの絶望感を表しているのかとも思われる。

アヴァとその青年はそのあと逃避行を目論み、そのためにアヴァに “あるミッション” が課されるのだが、それはなんなのか、果たしてそのミッションは成功したのか、それは観てからのお楽しみである。

これは、「母親と娘の親子の物語」というよりも、「13歳の少女と18歳の青年の物語」というよりも、何よりも「アヴァという1人の少女の物語」であり、誰にも依存しないアヴァという人物の全力の生命感を描いた作品である。

主人公アヴァを演じる、ノエ・アヴィタは、ジル・ルルーシュ監督作品にも出演している期待の新星。彼女は、とにかく目の力が強い。彼女の目が映るだけで、観客は視線だけでなく、心まで彼女に鷲掴みにされるだろう。

あの意思の強い、凛とした視線は、映画全編を通してずっと変わらず、特に最初、18歳の少年を “簡単に手に入れられない” とわかった時のアヴァの目には、13歳とは思えない魂の強さがこもっているのを感じた。

監督レア・ミシウスの初の長編作品である「アヴァ」。昨年のカンヌ映画祭で「国際批評家週間」に出品され、高い評価を得た話題作でもある。その理由は観たら必ず納得するはずだ。是非観ていただきたい傑作である。

この作品を含め、映画祭では現在12本の長編映画と11本の短編映画も配信中!
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IndieTokyoメンバーによるレビューブログもまだまだ続くので、お楽しみに!
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料金   :長編映画-有料(各配信サイトの規定により異なる)、短編映画(60分以下)-無料
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樋口典華
映画と旅と本と音楽と絵画が、とにかく好きで好きでたまらない、現在、早稲田実業学校高等部3年生。興味をもったことは、片っ端から試していく性格です。